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秘密

昼食は続く。

 共犯者の可能性を示唆したのは父で、私はそれに否定的だ。彼は私の質問にぽかんとした後、すぐさま顔を紅潮させて怒りを露わにする。

「そんなんじゃ、ずっと無実なんて証明できねぇよっ。あんたはどうしたって俺を犯人にしたいだけじゃねぇか」

 最後に拳でベンチを殴りつける。木製のこれを素手で殴るのは痛いはずだが、そんな表情はしない。強がっているんじゃなく、痛みなんて感じる暇はないようだ。

 彼の主張は全面的に正しい。こんなことを言い始めたら堂々巡りになるのは目に見えていて、この議論に意味はない。だから私は共犯者なんて可能性は考えていない。ただ、だからと言って彼らの無実をすぐさま認められない。

「蓮見さん、それは暴論ですよ。さっきは快楽殺人者といいながら、今度は共犯者。これではどんな事件も動機もトリックもいらなくなります。殺したのは、殺したかったから。方法は、協力者がいたからできた。こんなの無茶苦茶でしょう」

 小野夏希の主張は冷静で、異を唱えられない。確かに私の言葉をそのままにすると、世の推理小説なんてどれもそれで片付けられてしまう。もちろんこれは推理小説ではないが、無茶苦茶なのは変わりない。

「……ならはっきり言おうか。私は共犯者なんて考えてないよ。そもそも数名を殺すリスクを共に背負うなんて、現実的じゃないよ。もちろん、それがないとは言わない。けど君らの言うとおりだ。だけど、君らは、だからこそ、疑わしい」

 荻原治の方は私の持論を理解し難いという顔つきだったが、さすがに小野夏希の方は違った。すぐさま理解して、さっきまで醸し出していた不信感を、すっと引っ込める。

「なるほど。確かに、できすぎていますね」 

 未だに状況を把握しきれていない彼氏の方に恋人が説明を始める。

「私たちが犯人じゃないか、"cube"じゃないかと疑われた翌日に蓮見さんの部屋が襲われた。それも私たちがアリバイのある時間に。私たちからすれば当たり前ですけど、第三者から見れば、できすぎているとも思われる」

 できすぎてる。それは小野夏希と荻原治が容疑者リストにあがったときから、感じている。どうして恋人同士がそんな被害者候補と加害者候補に名を連ねるのか。まるで「無視できないだろ」と、誰かが仕組んでいるようにも見える。そういう意味でできすぎ。

 ただ、もし二人が本当に『主』か"cube"だったら、これもこれでかなり疑わしい。彼女の言うとおり、まるで「無実でしょう」と脅された気分になる。これはこれでできすぎ。

 どのみち操られてる感じがしてならない。

「それじゃあ、俺たちの無実はどうやったら証明されるんだよ」

 彼氏の方の疑問に彼女は複雑な表情をする。それをどういうことを意味するか分かっているから。

「……それは次の被害者が出たら、必ず」

 初めて彼女の言葉が濁り、言いよどむ。

「バカを言わないでくれ。そんなことなってたまるか。そのために誰も彼も血眼になっているんだ」

 彼女がまだ言葉を続けようとしていたが、そこで割り込んだ。それだけは絶対にあっちゃいけない。脳裏に屋上で血まみれで倒れていた小林陸の姿と、炎に包まれた茜ちゃんの姿がよぎった。

「では、蓮見さんは何か秘策があるんですか」

「……今分かっていることだけで、次の被害者が出るまでに犯人を特定する」

 小野夏希の表情に失望が浮かぶ。そんなことは、ずっとやっていることじゃないんですか。口にはしないがそう目で責めてくる。

「なんなんだよ、結局何にも分かって無くて、しょうがないから俺等に張り付いてるだけじゃねぇか。そんなので犯人なんて分かるかよ。どうせ次も殺されるぞ。あんたらのせいでな」

「治っ!」

 荻原治の罵倒にはどこも間違ってるところはなく、その予言は当たってしまうかもしれない。悔しいが反論できない。奥歯を噛み締めて、何とか怒りを耐えてみる。怒りの矛先は彼ではない。『主』であり、私自身だ。

 まだ言葉を続けようとする荻原治を抑えたのは、小野夏希の似つかわしくない大声だった。恐らく、彼も聞いたこともないくらい大きさだったのだろう目を見開いて驚いた後、また舌打ちをして彼女から目をそらした。

「すいません。苛立っているんです。ただ……」

「分かっている。こっちにだって非はあるんだから、謝ることじゃない」

 彼が苛立つ理由は充分に分かっている。疑われている理由ははっきりさせないくせに、調査はろくに進んでいなくて、あげく無実を証明する方法はほとんど無いと聞かされては汚い言葉も使いたくなる。

「蓮見さん、事件の話しはもういいでしょう。質問にうつってください。さっきのお詫びで答えられるなら、全て素直に答えます」

「ありがたいね。じゃあ、早速……小野君、君は"cube"についてどう思う?」

 小野夏希が質問に眉を寄せる。何が言いたいのか分からないと言いたげだ。

「話しによると君はあの組織を無意味だって評したらしいね。その真意が知りたいんだ」

「……ああ、あの話しですか。よくそこまで調べていますね。はい、私はあの組織は無意味だと思います。どういう仕事をしているのかも、メンバーが誰なのかも分からない組織なんて、第三者からすればあるのかないのかもはっきりしないものです。はっきりしたところで、存在価値があるのか、ないのか」

 彼女は第三者という言葉だけ妙に強調していた。無意識ってわけじゃないだろ。

 私は在学中、二年間だけだけど"cube"だったからそんなことは思わなかった。ただ、"cube"ではないと自称している小野夏希からすれば、"cube"というのはその程度の組織だったのかもしれない。冷静な彼女だからこそ、そう見えるのだろう。他の生徒たちはあの組織のミステリアスさから噂を無条件で信じているから。

「それに一番納得できないのは、あんなのは秘密結社でもなんでもないということです」

「ほう。それはどういうことかな」

 それは噂では聞けなかった意見だったので、突っ込んで聞いてみたいと思い質問してみると彼女は微笑んで、逆質問をしてきた。

「蓮見さん、完全犯罪の意味をご存じですか」

 危険な単語が飛び出してきたが、それで彼女が言いたいことは分かった。

「なるほどね。知っているよ。よくドラマや漫画では、事件が解決しないことが完全犯罪みたいに描かれているけど、あれは間違いだよね。本来、完全犯罪っていうのはその罪が行われたことすら知られないこと、だろう」

 だからひとたび事件が発覚すればそれが解決されまいと、それは完全犯罪じゃなくなる。ただの未解決事件。コールドケースとも言うらしい。少なくとも、パーフェクトクライムじゃない。

 つまり『完全犯罪』とはどこまでも『完全』ではじめて、それとなる。おそらく彼女が言いたいのは"cube"が抱える矛盾だ。言われて初めて、私も気づいた。

「はい。私はつまり、秘密結社といいながら、その存在がもう全校生徒に知られている時点で、秘密結社ではないと思うんです。どこが秘密なのか、私にはさっぱりです」

完全犯罪の定義は本当に勘違いされがち。

作家でも間違ってる人がいる。だめ、絶対。

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