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電話

今日のことを報告する。

 4



『その小野って子は信じられるのか』

 電話で小野夏希に作戦を見透かされたこと、彼女は侮れないということを父に報告したら、そう確認された。彼女が最後、作戦の概要は荻原治に話していないと約束したことを疑っているらしい。

「信じられるだろうね。彼女なら知りながら、知らないフリをするのなんて簡単だろうけど荻原がそう出来るとは思えない。もし彼がへまをしたら、彼女が不利になる。そんなリスクを背負う性格には見えなかったよ」

 それに彼女としてはどうしたって荻原の無実を証明したいはずだ。だからあえて彼が不利な状況を望んだ。彼が不利、つまり私たちが有利。その中で私たちが彼が犯人と証明できなかったら、彼女たちの勝ち。彼女が望んでるのはそのシナリオだろう。

『なんか、よく分からない子だな』

 父の感想は全くその通り。小野夏希の立ち位置を定めようとすると、難しくなる。ただの被害者候補。しかし容疑者の恋人。そして恋人の無実を信じる少女。こちらの意図をすべて見抜いた彼女。人としては荻原治より興味深い。ただ、あくまで彼女は被害者候補でもあるから、疑いの眼差しを向けるのもおかしい気がする。

「どのみち被害者として見張るんだろう。それをちゃんとしてくれれば、なんとでもなる。彼女や荻原が『主』としても、今は動けないはずだ。作戦を見抜かれても、私たちが荻原の動きを封じたのには変わりないんだから」

 問題なのは私たちがこの二人に目をやりすぎて、別に『主』がいた場合。その隙をついて誰かが犠牲にならないかだ。候補者の中に『主』がいるか、"cube"がいるかなんてわからないんだから。そしてもう一つ、『主』があえて何も行動しないというパターンだ。

 前回の放送で『主』は相当警戒心を強めたに違いない。ただ、ここで怖じ気付くような性格でもなさそうだったから、ここで逃げることはないだろうが身代わりを用意する可能性は否定できない。警察や私に荻原治を犯人だと刷り込ませて、ずっと監視をさしておく。そして殺さず、小さな行動だけおこして荻原を犯人に仕立てあげる。

 そして私たちが気をゆるめているときに、殺害を再開する。警察や私を騙して、殺すんだから逃げたことにはならず完全勝利となる。これをとられると、一番つらい。

『おまえはどうするんだ』

「私はしょせん素人だからね、全部の"cube"候補、『主』容疑者に目をやることはできないから、とにかく二人に近づいてみる。あとの人間は警察にまかせる」

『小野と荻原。どっちも危ない感じがする。気をつけてくれ』

「お互い様だよ、父上」

 通話を終えて、携帯をベッドの上に放り投げた。ふんわりと膨らんでいた布団に、四角いくぼみを作りながら携帯が沈んでいく。

 今日は父は帰れないらしい。はっきりとした容疑者もでてきたし、しかも大量の被害者候補がいる。仕事も莫大だろう。私なんかは好き勝手に話して行動して、そこから手がかりを見つけようとするけど父は刑事だからそういうわけにもいかない。

 今日は兄も遅くなるという連絡が入っている。食事は二人分、そして一人は遅くなる。なんか小野夏希との接触で疲れたし、今日は手抜きで勘弁してもらおう。どうせ手を抜いたって私の手料理なのだから美味しいにきまっている。いやいや、それほどでもないよ。

 机の上のパソコン、そして部屋の隅に置いてあるテレビ。テレビは報道番組でいまも事件のことを、学校の前から中継していて、女性レポーターがいかにも重大そうに事件の概要を説明している。よく思うのだけど「現場からの中継」というものにはどんな価値があるんだろう。現地に言ってわかってることことだけを伝えるなら、スタジオからでもいいじゃないか。

 そんなことを考えていたら、笑えてしまった。答えを知っているくせに、自分の中で否定している。メディアの戦略としても、ただの情報をちゃんと信じてもらえるようにしているんだ。だって「さっき仕入れた情報なんですが……」とスタジオで座ったアナウンサーが言うのは、簡単で効率的で経済的だろう。ただ、それには信憑性が生まれてこない。

 おまえはスタジオにいてるじゃないか。その情報が本当なのかどうか、わからないだろう。そう言わせないための、現場の中継だ。アナウンサーがスタジオで言うのと、レポーターが現場を背景にして言うのでは、同じ情報でも信憑性が全く違ってくる。それに現場で「さっき仕入れた情報ですが……」というと、本当に仕入れたばかりだと思われる。ふつうに考えれば、電話でもすればスタジオでも変わらない仕入れたばかりの情報がちゃんと届くのに。

 私がこういうメディアの戦略が嫌いなのは、"cube"だった頃、それをまねたからだ。ただの情報にいかに信憑性をつけるか。だから噂を発信する場所も相当気をつけた。多くの場合はその噂に関係した場所で話す。教室ではしなかった。だって教室で噂を発信しようとしたって、友人たちが信じてくれるかどうか、本当に分からない。教室には多くの生徒がいて、多くのものがある。私と友人が話していても、友人の意識はほかにいってしまう。

 それにごく少数の限られた人間に噂を発信しようとしたら、教室はあまり便利ではない。さっきも言ったように多くの生徒がいる。もし話した友人が、すぐその場で別の友人に話して、その子がその噂を足蹴にしたら生まれたての噂は死んでしまう。だから、教室はではない、もっと別の場所で数名の友人に話していた。そうすると友人たちは別々に、その噂を広めていく。誰かが話した相手が、それを一蹴しても、別の誰かが話した相手が信じれば、あとは勝手に広がっていく。

 一人の否定を多くの人間に聞かれるのはまずいが、その否定が一人だけにしか聞かれないのは、問題ない。

 だからネットで流れる世論と、テレビで流れる世論は違う。テレビは否定を殺せる。けどネットは誰かが否定すると、それが等しく全員に読まれてしまう。もちろん、ネットが間違ってることだって多々ある。どっちのメディアも信用ならないという点では同じか。

 今度はパソコンの方に向き直った。液晶画面に映っているのは、ネットで拾ってきた情報をまとめた独自のファイル。使えるものはなそうだったが、一応保存してある。

 ブラウン管や液晶画面から情報を得ようなんて甘い考えか。いやうちのテレビはもうブラウン管ではないか。まあとにかく、やっぱり明日からまた自分で調べるしかない。

 マウスの横に積んであるタバコ箱の塔の一番上の、すでに開いている箱を手にして、そこから一本取り出して吸った。こんなに買い込んだのは、あの悔しさが忘れられないからというのと、明日から最低二箱はもって行かないといけないと思ったからだ。

 白い煙を吐きながら、手抜き料理のレシピを頭の中で組み立てていた真っ最中、電話が鳴りはじめた。ただ携帯ではなく、家の電話の方で急いで部屋から出て一階へ降りていく。こういうのがイヤだから、子機を二階においてくれと言ってたのに。

「はいもしもし、蓮見です」

 よくある話しだけど、電話にでると少し声を変えてしまわないか。

情報と言葉は、発信者で価値が決まります。完全な持論です。

つまり、偏見です。

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