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信用

単刀直入に蓮見は小野にあの質問をする。

「隠し通せそうもないから言うよ。君は確かに"cube"候補だ。君は……」

「いいえ、私は"cube"なんて怪しげなものには属していません」

 私が問う前に彼女ははっきりとした口調で否定してきた。ただ経験上、この証言を信じることが出来ないのが悲しい。そう否定して、私が守ってやれなかった男の子がいるものだから。

「……信用してくれてませんね」

「申し訳ないけどね」

「私もはっきりと身の潔白を晴らすことは出来ません。否定することは肯定することより何倍も難しいですから。ただ言わせてもらうなら、どうしてここで嘘を吐くんでしょうか。本当に"cube"なら殺されるかもしれないのに、ここで否定するメリットは何でしょうか」

 彼女のぶつけてきた疑問はそれこそ、私や警察がここ最近ずっと悩んでることだった。被害者が"cube"だと公表した以上、まだ殺されていない子が自ら保護を申し出てくれると考えていた。そうすることで『主』の特定には結びつかなくても、最低限次の被害者は出ずにすむと計算していたのに、今のところそういう要請はない。

 どうして"cub"”の子たちは名乗りでないのか。そこは何度、どれだけ考えても分からない。小林陸はどうして私の質問に嘘をついたのか。確かに"cube"にとって自らが"cube"だと名乗るのは掟違反ではあるが、生命がかかってるときにそんなことを気にするやつなどいるのか。

 小林陸はまだ殺されるという状況を説明されていなかったから、嘘を吐いたというのも納得できる。けど、今は違う。

「……そうですよね。そこが分かっていたら、警察や蓮見さんが苦労するはずもないですよね」

 彼女は私の渋い表情から、心情を察してくれたようだ。

「信じたい。君は聡明だ。そして正義感も強そうに見える。こんなところで嘘をつくような子には見えない」

 それは紛れもない本心だった。彼女のこの頭の良さからすれば、ここで嘘をつくなんて馬鹿げたことはしそうにはない。

「けど、疑わないといけない。だから聞き流してもいいから、言っておくよ。もし君が本当に"cube"でそれを隠してるんだとしたら、もう告白なんてしなくていいから、家にいなさい。安全な場所に避難してくれ」

 これは警告であるのか、あるいは懇願なのか、どちらなのかは正直自分でも分からない。恐らく両方なんだろうとは思う。素直に白状してくれというのが一番の本音だが、それを聞きだすのが無理ならもうとにかく殺されないでくれと頼み、逃げろと忠告するしかない。なにが探偵だかと自嘲したくなる。

 彼女はそんな私の言葉を聞いた後、目を瞑ってじっくりと何かを考えていた。口元が小さく動いていて、どうやら考えてる最中に呟くのが癖らしい。ただその声はこれだけ近くにいるのにちっとも聞こえない。

「……心配、ありがとうございます。ただ私は"cube"じゃありませんから、休みません。それに実を言うと私、激怒してるんです」

 彼女はそこで立ち上がると壁に貼ってあった写真たちを見渡していく。

「あの中の一枚に彼が写ったものがあります。これらの写真がどういう意味をもつかまでは、正直想像しかねます。ただ予想はつきます。これらの写真は全て、携帯をいじった人間が写されていますから。……いえ、私が言いたいことはそんなことではありません。私は許せないんですよ」

 この部屋に入ってきてから、彼女は感情というものを微塵もみせていなかった。なんとか本心を探ってやろうと洞察力を駆使してるが、なんとも出来ていない。ただ今の彼女、立ち上がって語る彼女は妙に語尾に力が入っていた。

「人を三人も殺めてることはまず、私のような無関係の人間でも無条件で腹が立ちます。けど私は何より、治がそんな殺人鬼だと思われるが許せないんです」

「……初めてだね」

「何がですか」

 どうやら彼女は自分が感情的になってるのが言葉に表れたのが分からなかったらしい。

「自分の恋人のことをずっと『彼』と呼んでいたのはわざとだろう。今初めて君は、治って親しげに名前を出したよ」

 この指摘で気づいたいたようで、顔をしかめた。どうやら一切の感情を出すことなく、この会話を終わらせたかったらしい。その真意がどこにあるのか。ただの見栄か、それとも感情を出すと何か不利なことがあると考えていたのか。

「……とにかく私は怒ってるんです。自分でも珍しいと思うくらい、怒ってます。だから今回の犯人の捕まる姿をみないと気がすまない。そしてこうは言ってはあんですが、蓮見さんや警察の方が治に謝ってくれないと納得できません」

 彼女はどうやら彼の無罪を心から信じているようだ。だからえん罪についての謝罪を今のうちから要求している。もちろん言われなくても、彼が『主』じゃないなら謝罪はちゃんとするつもりだ。今はできないけどね。

「いいよ。彼が本当に犯人じゃないならきちんと謝ろう。ただそうするためには彼の協力も不可欠だ。言いたいこと、分かるよね」

 彼女が目を閉じて、小さく頷く。

「彼に蓮見さんに協力するよう私から言え。そういうことですか」

 理解が早いことは非常に助かる。これが仁志なら少し時間がかかるところだ。

「そういうことだ。よろしくね」

 そう言って彼女に握手を求めると、彼女は何の躊躇もなく握りかえしてくれた。少しひんやりとする。

 それで会話が終わったので彼女が出て行くことになった。扉まで出送ると、彼女がくるりと振り向いて、またしても無表情で告げてくる。

「先ほどまでの私の推論は誰にも話していません。もちろん治にもです」

 それはありがたい話しだった。さっきまでの話しを誰かにされていたら、それだけでこっちには大ダメージだったのだから。ただ彼女はそんなことを気にして、そうしているんじゃないということくらいは分かる。彼女はどこまで荻原治を信じているんだ。だから彼に教えたら有利に働く情報を彼には教えない。

 だって、無罪はどうあっても無罪なんだ。彼が何を知らなくても、何もしなくても、彼が捕まることはない。彼女はそう考えている。

「それでは。お時間を取っていただき、ありがとうございました」

 最後にもう一度頭を下げて生徒会室から出て行った。丁度彼女が扉を開けた時に、仁志が入って来て危うくぶつかりそうになったが彼女はそれにも動じることなく、仁志に「会長、こんにちは」という挨拶をして、何事もなかったかの様に出て行った。

 一方ぶつかりかけた仁志は、驚いた表情のまま、廊下をすたすたと真っ直ぐ歩き去っていく彼女の背中を見ながら固まっていた。

「ずっと見てるとストーカーと思われるよ。それとも一目惚れかい。私という者がありながら」

 そのからかいでようやく正気にもどって、私の腕を掴んでくる。

「あ、あれ、小野夏希じゃないのかよ」

「そうだよ。ちょっと、お話をさしてもらった」

 どうやら私の表情が芳しくなかったようで、彼の表情も一気に曇る。今の話しがいい結果か悪い結果かと問われるとなんとも言えないが、最初から最後まで会話の主導権を握っていたのは彼女だ。思いっきり、頭の良さをみせられた。それはまるで、お前なんて相手にならないと釘を刺されたみたいに。

「……私たちは、とんでもない子に目をつけたのかもね」

 丁度、その時廊下を歩いていた彼女が階段のところで曲がり、姿が見えなくなった。

「ところで、ひぃ君、ものは相談なんだけど――」

 どうやら私が何か重大なことでも口にすると思っていたようで、彼はごくっと唾を飲み込んだ。そんな緊張した彼に、答えがわかりきった質問をしてみる。

「タバコ、持ってない?」

今後は彼女がキーマンです。

女性なのに「キーマン」というのも、おかしな話ですが。

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