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報告

いよいよ特定の容疑者を割り出し始めた蓮見たちは、ある作戦を開始する。

第五面[邪悪]



 翌日の朝、生徒会室にはいつも仁志と有華ちゃんが揃っていて、二人仲良くソファーに腰掛けている。ただあまり眠れなかったのか、二人して欠伸を連発している。

「さて今日からが正念場だね」

 実を言うと私もそんなに眠れていない。それでもここでそういう雰囲気を出したら場がだらけてしまうので、欠伸などは堪えて、きわめて元気な声を出してみる。仁志はそれがうるさかったらしく、両耳をふさいだ。

「まあ早速で申し訳ないけど、昨日頼んどいた件、どうだったかな」

 有華ちゃんと仁志はお互い目を合わせて、何か小声で話しあった後、仁志が先に発表することにきまったらしく、けだるそうな声で報告し始めた。

「小野夏希について、色々と聞いて回った。細かい経歴とはあんたのリストに載ってるから省略するぞ」

 昨日の夜に父の教えてくれた細かい情報とともに頭に入れ込んだ、彼女のデータを思い出す。二年生の女子で、一年生の頃は美化委員会に属していてた。あまり人気のない美化委員に立候補して入り、しかもその活動の積極的だったから高い評価を受けていたが、どういうわけか二年生になると美化委員会を辞めて今はどこにも属していない。

 部活動もしていないし、塾に通ってもいない。だから彼女が日頃何をしているのかは知られていない。交友関係はある程度あるが、それはなんと美化委員会。やめているのに時々手伝いには顔を出すらしく、後輩の面倒見もいいと聞く。そこから派生した交友関係が結構広いとのこと。

「小野は物静かっていうか、基本的に喋ることがないらしいんだ。それでもたまに発言するとすっげぇ的を射たことを言ってくるんだと。だから先生とか後輩から慕われてるけど、先輩からの受けはあんまりよくないみたいだな。美化委員を辞めたのは先輩たちとそりがあわなかったからだって言われてるよ」

 高校一年生の頃は先輩が怖いとか、鬱陶しいとか愚痴っていた子に限って自分が先輩になると後輩に強くあたるものだ。そういう知り合いはたくさんいて、友達としてつきあってる限りはいい人たちだったのに、どうして後輩関係になりとああなってしまうのかと不思議だった。

 そんな先輩たちからすれば小野夏希という後輩は、可愛くともなんともなかったに違いない。そうなると彼女がどういう扱いを受けたかは、想像しやすい。

「同級生からは案外好かれてるみたいだな。頭がいいんだよ、成績もトップクラス。けど塾とかは通ってないだろ。普通は妬みの対象になるんだろうけど、テスト前になると気軽にノートを貸してくれたり、時間をかけて勉強を教えてやるらしいんだ。それがえらく好評だ。頭にいいことを鼻にかけるわけでもなく、分かるまでちゃんと優しく教えてやるだってさ」

 時々世話好きの同級生がいるが、彼女もそういう部類なのかもしれない。無口という評価とは、なんか相反する評判だな。

「"cube"じゃないかって噂は流れたことはないみたいだな。ただ小野自身が"cube"について発言したことがあるんだって。それによると、姿が見えないから無意味だっていうんだ」

「なるほど。それはいい意見だよ。彼女から知性の香りがする」

 この高校の生徒は入学したときから"cube"という陰の存在を知らされていて、それが何かをしているという噂を信じ込んでいるが、それは普通に考えればおかしい。

 "cube"という存在がこの学校にもたらしているのは、"cube"という秘密結社があるということだけで、その仕事などは明かされていない。ならそれは、小野夏希が言うように無意味だ。だって、本当にあるかどうかは一般の生徒からすれば確認さえできないんだから。

 しかしずっと受け継がれてきた噂の効力というか、魔力と言うべきか、多くの生徒は"cube"はあるんだ、何かしてるんだと信じている。小野夏希はそれがおかしいと思っているんだろう。

「男性関係だけど友達とかにはずっと彼氏はいないって言ってたらしいけど、最近は荻原とつきあってるって公言してるらしい。なんでも美化委員の後輩の紹介で知り合ったんだってさ」

「小野夏希のとっては荻原治は後輩だよね。変な言い方になるけど、年下好きなのかな」

「さあ、そこまでは知らねぇ。ただ言ってるぜ。なんか放っておけないって。世話好きなんじゃないか」

 なるほど、それはたぶん合っている。美化委員を一生懸命つとめるところや、辞めた後も後輩たちに会いに行ったり手伝ったりしてるのは、彼女がそういうのを好きだからだろう。無口だという評判だけど、たぶん根暗ではない。

「報告はだいたいこんなもん」

 仁志が報告を終えて、間髪入れず有華ちゃんがしゃべり始める。

「じゃあ、荻原治の女子生徒の評判について、聞けた範囲で話します」

 有華ちゃんはどうやらメモをしてたようで、かわいいピンク色のメモ帳を片手に語りだした。

「入学前から彼と同じ中学の女の子たちからは有名だったみたいです。すぐに遊びに誘ってくるとか、遠慮なく電話をかけてくるとか。高校生になるとそれが激しくなったみたいですね。みんな無視すればいいんですけど、なんていうか、カッコいいからつき合っちゃうって子が多いみたいです」

 私がみた顔写真は学校に提出されたもので、真顔で表情が硬かったが、それでも男前の部類には入った。ただ私の好きなタイプではなかったので、そのへんは残念だったけど。

「乱暴だとか、横暴だとかわがままだという評判はないですね。単に女の子にすぐに手を出すってだけみたいです。ただ飽きるのも早いらしくて、だいたいつき合った子も二週間はもちません。たいていは彼の方から別れを告げるらしいです。また別の子を見つけたって理由で」

 語る有華ちゃんの顔がだんだん険しくなっていく。それはこの荻原治が彼女の唯一無二の親友を殺したかもしれない犯人の容疑者であるということと、単純に彼女の中の正義感というか恋愛観が、こういう男を許せないというのもあるんだろう。確かに誉められたような女性関係は築いてないみたいだが、積極的にアタックしていく姿勢はなかなかのものだと思う。

「一年生なのに、二年生や三年生にも手を出したみたいです。なんかそれで三年の先輩と喧嘩になったって聞きました。だから三年の黒沢先輩とつき合ってても不思議じゃありません」

 それだけ手広く交流をもっているなら確かに黒沢明子と関係があったかもしれない。目撃情報が少ないのも、彼がいつも通りすぐ別れたから。あるいはつき合うまでに至らなかったか。彼が黒沢明子が死んでも警察に名乗りでないのは、厄介ごとをさけるためか、関係者と思われたくないからと考えていたが、もしかしたら彼自身が彼女のことを重要視してなかっただけかもしれない。

 考えていたら、急に有華ちゃんの声のトーンが下がった。思いっきり残念そうだ。

「ただ今の評判は最近のじゃありません。ついこの間までのです」

「最近のは違うのかい」

「はい。最近は落ち着いたって。というか、小野さんがすごい人らしくて、その荻原をうまくコントロールしてるっていうか、飼い慣らしてるっていうか。とにかく荻原も小野さんには頭があがらないみたいです。小野さんとはもう長い間つき合ってるみたいですし……」

 なるほど。有華ちゃんの中では悪はずっと悪であってほしかったのかな。ただまだ拝見したことはないが、小野夏希という生徒は何かすごいな。荻原治が単純に彼女に惚れているのか、彼女が惚れさせているのか不明だが、本当にただ者じゃなさそうだ。

「報告といった報告は以上です。荻原と小野さんの関係は櫻井先輩の報告通りです。お互いつき合ってるって公言してます」

 二人の報告を聞き終えて、それらの情報を頭の中に入れていく。つい最近までは誰にでも手をだしていた男の子と、それを飼い慣らした世話好きの少女。この二人がどういう人物か。そして本当にただの恋人同士か。そうじゃないとしたら、どういう関係を持っているのか。

 色々と考えるべき事は多いが、今はまだ何も出来ない。

「それであんた、これからどうするんだよ」

 仁志の質問ににんまり笑ってやる。それが不気味だったのか、彼は失礼なことに顔をひきつらせた。

「小林陸のときは暢気にやりすぎて、『主』に計画を立てる時間を与えてしまった。だから今回はスピード勝負でいこうかと思う」

「スピード勝負、ですか」

 有華ちゃんが首をかしげて、どういうことかと問いてくる。

「ああ、まずは早速、『主』の容疑者の荻原治――彼の動きを封じ込める」

 かなり雑で乱暴な作戦にはなるが、背に腹はかえられない。

今回より五章。

ここで新たに二人出てきますが、彼らこそが鍵。

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