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悪魔

重要な情報を得たのだが……。

 そのままきびすを返して生徒会室を出て、職員室へ向かう。私の後ろに有華ちゃんがついてくる。職員室にはちょうど、海野先生が何やら仕事をしていた。お仕事中申し訳ないけど、遠慮なく話しかけさせてもらった。

「荻原治って生徒について知りたいんだ」

 振り向いた先生は余計なことは何も言わず、ただ一つ訊いてきた。

「怪しいのか」

「怪しいか怪しくないかと訊かれると、怪しいと答えるよ」

 まだはっきりとした情報もないのに、怪しいと断言するのは軽率だが仕方がない。なにせ本当に怪しいのだから。被害者と知り合い。疑うには十分じゃないか。

 海野先生はその返答に満足したのか、離れた場所で仕事をしていたメガネをかけた若い男性教師を呼んでくれた。在校中お世話にならなかった先生だったので名前を知らなかったが、田所先生というらしい。

「荻原について、ですか」

 荻原治について教えてほしいと単刀直入に頼むと、さっそくそう言い淀まれた。それだけでどういう生徒かはおおかた予想がつく。教師が生徒を評するとき、良い生徒なら言葉に困ることはない。けど逆だと非常に困る。立場上、悪い奴ですとは言えないから。

「何でもかまわない。こいつは口が堅いので素直に答えてやってほしい」

 海野先生がそうアシストしてくれる。ありがたかぎりだ。ただ口が堅いかどうかは私自身どうかと思うけどね。まあいいか。

「ええ、じゃあ……」

 ようやく田所先生が素直な印象を答えてくれた。

「いろいろと問題な奴ではあります。大きな問題はいまのところ起こしてませんけど悪い噂は私のところまできます。特に女子生徒との問題を起こしてるみたいです」

 ここでも女性関係が出てくるのか。最近の男子高校生というのはかなり盛んらしい。いや、違うな。これがたまたまととらえるのは間違いなのか。女子生徒との問題があるというのは、もしかして必然なのかもしれない。

「有華ちゃん、女子生徒の間で荻原が話題になったことはあるかい」

「名前は聞いたことありますよ。けど詳しくは聞いたことありません。ああでも、友達なら知ってるかもしれません。確かめてきましょうか」

 頼むよと頷くと彼女はわかりましたと返事をして、すぐに職員室を出ていった。さっきは注意してしまったけど、前言撤回するよ。全力疾走してくれ。ああ、ただ滑って転ばないように。せっかくの顔に傷でもついたら大変だから。

「ほかには何かありません?」

 できればもっともっと情報が欲しい。田所先生はうーんとうなった後、何かを思い出したようだ。

「今は恋人がちゃんといるって。確かに二年の小野夏希って生徒だったはずです」

 ここで私と海野先生は驚きのあまりお互いに顔をあわせた。先生の目はかっと開いて、一見すると怖い。けどたぶん、私も人のことを言える状態ではないはずだ。

 小野夏希。あの三人、"cube"候補者の一人じゃないか。ここで名前が出てくるのは必然と考えるべきか。それとも出来すぎた偶然と見るべきか。それとも……。

 その後、田所先生には出来る限り荻原の細かい話を聞いた。今まで起こした問題、生活態度や交友関係など。ただ小野夏希ほどの有力な情報にはなりえそうになかった。もちろん、どうなるか分からないからちゃんとメモをとって記憶したが。

「どうするんだ」

 田所先生が自分の机に戻った後、海野先生が質問してくる。

「どうしようか。とにかくこの荻原って生徒は今のところ重要参考人レベルだよ」

 重要参考人と容疑者では大きな隔たりがある。ただ、共通していることがり、それは非常に疑わしいということだ。荻原治はもうすでに今この段階でこのレベルに至っている。もちろん、疑わしいだけで証拠も何もないから犯人扱いは出来ない。

「ひとまず行動を起こすとすれば明日からだよ。今日は有華ちゃんの情報が欲しいからね」

 それにどうやって彼と接触するか、接触した後どう行動するかなどを細かく決めておきたい。前回のように会って、喋ってだけじゃダメだろう。同じ轍は二度踏まない。

「けど荻原は一年生だろう。その『主』とかいうのを、引き継いだばかりじゃないのか」

「彼が"cube"でしかも『主』ならそういうことになるね。けど引き継いだばかりだから犯人じゃないとは言えないだろう。いやそもそも、今回の一連の事件はもうどんな理由で殺してるか理解不能なんだ。確か電話で『主』は"cube"は醜悪な組織だからと言った。けどそれだけで数名殺すかい?」

 海野先生はそんなバカなと言いながら首を左右に振った。これが当たり前の反応だ。醜悪な組織でつぶさなければならないと考えたとしても、方法はほかにいくらでもある。なのにあえて『主』は殺人という重罪を犯し、リスクを背負いまくっている。それが分からない。

「実は茜ちゃん、二人目の被害者が言っていたんだ。今回の『主』は頭がおかしいやつで、快楽殺人者なんだって。で、軽々しく判断するのもどうかとは思うんだけど、私もそう思う」

 理屈はいくらかある。電話やメールの空気で伝わってくるものがあって、それは『主』は今現在の状況を非常に楽しんでいるというものだ。普通、人を殺してしまった人間ならあんな空気は出せない。焦って取り乱す。わざわざ誰かに挑発の電話をかけたりしない。

 けどそうしてるのは、この状況が楽しいから。なぜ楽しめているのか。警察が動くのも私が動くのも予想していて、それをかわせると信じているからだ。それだけの準備をしていた。それだけこの状況を作り出すことを待ち望んでいた。そう考えれる。

 あと、殺害方法。一人目は刺殺、次は焼殺、そして三件目は撲殺。殺し方を毎回変えてきている。茜ちゃんは家の中にいたからそういう殺害方法にしぼられたとも考えられるが、そうだとしてもほかに方法があるようにも思える。ほかの二件なんてまさにそれだ。どうして統一してないのか。まるで統一しては、つまらないと言いたげだ。

 けど快楽殺人者なら快楽殺人者で納得できない。どうしてその快楽殺人者の『主』は犯人が特定できる"cube"を被害者にしているのか。さっきも言ったけど確かに『主』は現状を楽しんでる。けど本当に快楽殺人者なら殺し続けることを望まないか。だったら警察が動かないにこしたことはない。だって今後とも罪を重ねるのに、それは非常に邪魔だ。なのに、まるで"cube"を殺し続ける理由があるみたいに殺してる。とんでもないリスクを犯して。

 どうも分からない。考えれば考えるほど『主』が何がしたいのかが分からなくなる。殺したいだけか? それとも誰かと、つまり私や警察とかと知恵比べがしたいのか? それとももっとほかに何か目的があるのか? あるとしたら、それは何だ。

 数人殺して、捕まるかもしれないほどのリスクを負う、理由はなんだ。

「とにかくさっそく父上やひぃ君に連絡を入れてくるよ」

 職員室を出て仁志のクラスまで足を運んで、彼に荻原治のことを教えた。彼としてはそれで決まりじゃないかという意見らしかったが、決め付けはよろしくない。気持ちは分からないでもないが。

「いやそれでね、君は小野夏希についての情報を集めてほしいんだ。二年生だから知り合いは少ないかもしれないけど、頑張ってくれ」

「分かったけど、なんか急に動き出したな。やっぱりあの放送の効果だな」

 確かにここにきて捜査が一気に進み始めた。この間までなら小林陸一人に張り付くしかできなかったのに、それが嘘みたいに新しい情報がどんどんと入ってくる。

「そうなのかな。とにかく頼んだよ」

 仁志とはそれだけの会話で別れて、生徒会室へ戻った。すぐさま父に電話を入れて、とにかく仕入れた情報をすべて教えた。かなり有力な手がかりに電話越しの父は大興奮で、声が大きくなったので電話を少し耳から離しながら会話することになった。

『すごいなぁ! これはすごい!』

 父はそう叫びながら電話をきった。これから今の情報が警察に伝わり、荻原治や小野夏希といった生徒が調べられることだろう。ひとまず有華ちゃんに頼んでる女子生徒の荻原の情報、それから仁志の小野夏希の情報を待ちながら明日から身の振り方を考える。

 タバコをくわえて火をつけようとしたが、ライターがうまくつかず、何度も不発に終わった。今時、ワンタッチじゃないライターなんて使うからこんな目に会う。けど、これから学べることもあって、それはうまくいかないこともあるということ。いや、そういうことの方が世の中多い気がする。

 ようやく火のついたタバコとキスをしながら、窓の外を見る。そこには納得がいっていない顔つきで頭をかいている自分が映っていた。そして一言、その納得のいかない理由を素直に単純につぶやいた。

「……できすぎだ」



 7



 蓮見レイという女がどれほどの人間なのかを品定めするのは少々困難を極めている。あの放送のせいで大きく状況が変わってしまったのは、こっちとしては大変都合が悪い。それはつまり相手にとっては好都合と言うことになる。

 もちろん、あれだけで状況のすべてがすべて好転するわけがない。それはおそらく相手も分かっている。けど状況変化に相当大きな期待はよせているだろう。下手をすると、何かとんでもない手がかりを掴むかもしれない。「

 だからこっちとしても彼女をしとめるためにいくつかトラップのようなものを考案しておいた。念のために彼女が事件に関与した時点で考えていた物だ。今日になって下準備も進めている。

 ただ、それだけで彼女がひるむかというと、頷けない。批評家だとバカにしていたが、その潜在能力はなかなか侮れない。あの反撃がそれを物語っている。もしかしたら、かなり厄介な奴を敵にまわしてるんじゃないかとここにきて、初めて事件を起こしたことに不安を感じた。けど、それと同時に笑顔がこぼれた。

 最高だ。こんなにゾクゾクするのは生まれて初めてで、興奮が収まらない。彼女と自分、どっちが優れているのか。それはしばらくすると自ずと結果が出るが、楽しみで仕方ない。さて、これからどうなるんだろう。彼女はどうでてくるのか。だまされてくれるのか、だましてくるのか。

 けどそろそろ、状況を楽しむのもやめにした方がいいのかもしれない。足下をすくわれるなんてカッコ悪いことは嫌だし、計画を途中でやめなければいけなくなるのは死んでも嫌だ。殺さないと、この昂ぶった気持ちを抑えることは出来ない。

 いい加減、あの探偵さんにはいっそ舞台から退場してもらおうか。

 窓から外を見ると窓にうつった悪魔がそこにいて、自分に笑いかけていた。

四章終了。

折り返し地点付近。

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