候補
対峙の翌日、蓮見はあるデータを手に入れる。
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三年生では一二人、二年生では二七人、一年生は三五人。小林陸の殺害後、学校を休んでいる生徒の数だ。毎日少しずつ変化はしているものの、平均値としてその数が出た。学校側が休校措置をとれないので安全を確保するには自ら休むのがベスト。この生徒たちは正しい。
三年生が少ないのはもうすでに三年生の"cube"は二人とも殺されているからだ。もうすでに三年生はある意味で安全と考えられている。もちろん三人殺している殺人鬼がどう行動するかなんてわからないが、狙いが"cube"なのは間違いないから大丈夫だろう。
そう考えていると一番危険な一年生が多く休んでいるのも自然なことだ。二人しかいない"cube"だが、もし『主』が勘違いしても困る。
いやそもそも"cube"が狙われていると昨日わかったところ。一年生が一番多いのはおそらくは単純に怖いからだ。
職員室の机を一つ借りて、そこでノートパソコンを開ける。隣では海野先生が画面をのぞき込んでいる。そして逆の隣には婆さんが腕組みをしていた。
液晶画面には小林陸が殺される直前まで作っていたリストが表示されている。経歴だけでも「優秀な生徒」たちのリスト。結局、あの後ちゃんと完成させた。
「個人情報って言葉を知らないのかしら」
堅物の婆さんに思わずあきれられてしまった。
「融通がきかないね、相変わらず。それに悪用なんてしないから安心しなよ。それより名簿だ」
納得はしていないが婆さんも状況が状況なので渋々目をつむってくれた。そしてさっき刷られたばかりのある名簿を渡してくれる。
「三年生は減って、二年生と一年生は増えたわ」
「予想通りだね」
この名簿は今日になって休んだ生徒の数。さっきの数字が変わっていく。三年生は七人減って、二年生は十人、一年生は一七名増えていた。そしてその計二四名の名前が名簿には連ねられている。
昨日の放送でねらわれているのは"cube"だと公言した。あれは『主』をおびき寄せる餌でもあったが、そして同時にこのリアクションを期待していた。"cube"が狙われていると知って、休む生徒というのはきわめて怪しい。
「三年生はいらないんじゃないのか。もう"cube"はいないんだろう」
海野先生の指摘はまったくその通りだ。一学年に二人ずついる"cube"。そして三年生は一人目の黒沢明子、そして三人目の小林陸が殺されている。だからもう情報が必要ない。
「一応だね。いやとういうか気にならないかい。どうして安全とわかっているのに、休むんだろう」
私からいわせれば理解できない。だから一応、情報だけでも仕入れといた。何かの時に役立つかもしれないしね。それでも海野先生はあまり納得はしていないみたいだ。こればかりは直感めいたものだから理解してもらうのは難しいか。
それでも海野先生はそれ以上追求せずに、質問を変えてきた。
「しかし、これで"cube"が特定できるのか」
「さあね。なんせ秘密結社だ。簡単には特定できないだろうさ。アテも外れたみたいだし」
昨日の放送、あれで"cube"に呼びかけた。実際に三人殺している奴にねらわれていると知ればすぐさま名乗り出るんじゃないかと考えていたが、今はもう十時を過ぎているのに、そういう告白は警察にも学校にも私にもない。今後あるかもしれないが、望み薄だ。
画面をスクロールさせながら休んだ生徒と、以前リストアップされた生徒で二つ重なってる人物がいないかをチェックしていく。その間、海野先生にある数枚の写真を渡した。
「なんだ、これ」
受け取った先生が疑問の声を上げる。渡した写真に写されていたのは携帯電話をいじる生徒の姿だった。
「昨日の放送の間に携帯電話をいじっていた生徒の写真。有華ちゃんや警察の人がこっそり撮ってくれた。ああ内密にね」
許可もなくこっそりと写真に収めるのだから、これはつまり盗撮という奴に値する。
「お前なぁ」
「あきれないでほしいね。いやあきれても惚れてもいいから、その写真に写っている生徒、その全員の名前が知りたいんだ。先生たちならわかるよね」
海野先生は多く生徒を知っているし、知らない生徒もほかの先生たちに聞いて回ればすぐに特定できるだろう。『主』がここに必ず写っているわけではないが、これら写真は貴重な情報だ。
海野先生は早速写真に名前を書いたポストイットを張り付けていく。少し写りが悪かったり、顔が見れない生徒はほかの先生たちに誰かわかるかと訊いて見事に全員の名前が判明した。
「あってるという証拠はないが、これでも教師だ。生徒を見間違えることはそんなにないはずだ」
証拠はないけど確証はあるみたいだ。私も疑うことなんてしない。先生たちのプライドを信じてみる。
「ありがとう。だいぶ助かるよ」
これで千人を越える生徒を全員疑う必要はなくなった。もちろん気は抜けないが、とにかく今はこの特定できた生徒たちに目を向けるのが得策だろう。ほかの生徒は人員が多い警察にまかしてしまえばいいんだから。
「さて、こっちもそろそろ作業終了だ」
言葉通り作業を完了させた。そして画面には数名の生徒がリストアップしてみる。彼らの顔写真を拡大して、顔と名前を一致するように覚えることにした。
「小山学……。小野夏希……。中山大介……」
それがリストアップされた三名だった。"cube"の容疑者でありながら、"cube"が狙われていると知った翌日に休んだ生徒。色はグレー。これがこれから白になるのか、黒になるのかは不明。ただ一つ、赤に染めることだけはあってはならない。
でも本当に、と考える。本当にこれで正しいのか。捜査方向はあっているのか。嫌な胸騒ぎがして何か落ち着かない、どこかで何か、重大な見落としてるような気がしてならない。
画面を凝視する。本当に、この中にいるのか。
「小山学ってのは知ってるぞ。何度か話したことがある」
二時限目の終わり、情報がほしかった仁志が生徒会室に駆け込んできたので、あの三名の資料を見せた。そして予想通り、仁志が知っていたのは小山学だった。予想できていたのは、資料にちゃんと「生徒会役員」と書かれていたからだ。
「今日は体調不良で休んでるそうだ。長引くかもしれないけどね」
あの三名の欠席の理由はすべて体調不良だという。どういう体調不良かまでも一応聞いてもらっているが、嘘か本当かわからないうえ、休みが長引けば疑うだけなのでそこまで興味はなかった。
「あいつが"cube"ねぇ。なんか信じられねぇな」
「信じられないっていうのは、どういうことかな」
偉そうにソファーに腰を下ろした仁志は、頭をかきながら小山学を紹介してくれた。
「遊び人だぞ。学校をさぼることだってたまにあるし、生徒会の仕事も適当にしやがる。あんまり評判がいいやつじゃねぇよ」
高校一年生の男子が遊び人か。若くて元気なのはいいことだと思うが、仁志がこんな評し方をするようでは好感がもてる元気ではないようだ。
「まあ、疑わしいってだけだよ」
その話を聞くと少し疑わしくなる。"cube"には周りからの信頼を得ていないと出来ない仕事がある。『主』がそんな人物を選定するとは思えない。
「ところであんた、何してんだ?」
仁志が私に訊いてくる。不思議がられるのも仕方ない。私はあの写真たちを生徒会室の壁に貼り付けていたんだから。さっきの先生がつけてくれたポストイットをつけたまま。もちろん、写真はほかにもあるし名前もちゃんと覚えた。
「君と有華ちゃんにもちゃんと覚えてほしいんでね。さっきの三人はいわば"cube"の候補者。そして今、この写真におさめられた十人の生徒は『主』の容疑者だ」
昨日のあの時間、携帯をいじっていた生徒。単純な罠だったけど、それにかかってくれているのかもしれない。現段階ではもっとも『主』に一番近い位置にいるのが彼らだ。
仁志が立ち上がって一枚一枚写真を見て回る。
「昨日のあの時間だけでだいぶ手がかりに繋げたんだな」
「手がかりになってるのかはまだわからないよ。この生徒たちが携帯をいじっていたことはわかってるけど、電話していたかというと確認はとれてない」
本来、それが一番重要なところなのだけど流石にその場面を人に見られるようなヘマはしていないようだ。もしこれらすべて価値ある手がかりであったとしたら、事件の早期解決も夢じゃない。いや早期というにはもう遅すぎるか。とにかく、一秒でも早く『主』を止めれる可能性がある。ただすべて無駄でしたといわれても驚くことは出来ない。それくらい浅い根拠に基づいている。
それに、昨日はあれで結構派手にやらかした。それの収穫がこれらだが、不安でならない。やらっれぱなしでは『主』は終わらないだろう。
今度はこっちが守りに入らないといけないかもしれない。
「ところで『主』が休んでる可能性はゼロなのか。さっきの話だとまるで欠席者に『主』はいないって聞こえたけど」
「ないね。今ここで休むのは疑われる。それがわからないわけじゃないだろう。それに『主』としては私や警察の動きが知りたいから情報収集のためにも登校してるはずさ」
それにあの性格からみてここで一歩引くような真似はおそらく奴のプライドが許さないだろう。今は変な行動をとるより、平常通り過ごすのが得策だ。だから『主』は今日もいつもと変わらぬよう暮らしてるに違いない。三人を殺した手で。
「……あと二人か」
仁志が何気なくそうつぶやく。そう、あと二人殺されるかもしれない。
「頑張ろう。ゼロにするために、ね」
そろそろ出てくる主要登場人物が名前だけ登場。




