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過去

主と対峙した高校時代の蓮見を待ち受けていたのは……。

 言ってみて改めてわかった。私はバカだった。そしてそれを利用するバカがいる。

 まだ見ぬ『主』に思いを巡らす。案外、似たもの同士かもしれない。虫ずが走るほどイヤだが。

 いまだ"cube"の真相を信じられない三人は、どうコメントしていいかわからない様子だった。当たり前だ。ようは大層に秘密結社なんて言っておいて、その実体はただの陰気な奴らに集まりで、しかもただの世間知らずの子供ばっかりだったのだから。なにが「優秀」だ。

 けど、だからこそ私は救いたいと考えている。そんな子供を。自分と同じ過ちを繰り返しているバカな奴らを。そしてどうしてもそれを利用して他人をおとしめている、あげくの果てにわけもわからずそのバカな奴らを殺している『主』を捕まえてやりたい。

 ただどれだけ格好をつけても、私が動いているのは優しさや正義感じゃない。ようはあの敗北のリベンジをしようとしていうるだけだ。



『これ以上、我々に立ち入ることは許しません』

 そのメールが届いたのは私と『主』が決別してから一週間経ったころだった。そのころ私は必死に"cube"についての情報収集をかなり大々的に行っていて、非常に忙しいかったのを記憶している。

 結局、指示に従わず『箱』は返さず完全に対決姿勢を表していた。おそらく『主』としては初めての内部反乱だっただろう。だから、何もしてこないのは打つ手がないからだと考えていた。そしてその隙に一気に相手に近づいてやろうと目論んでいたのに、そうはいかなかった。

 最初は私の友人だった。体育の時間、更衣室に置いておいたはずの着替えや財布が消えた。最初は男子か誰かの仕業と考えられていたが、翌日、それらは切り刻んだ状態でその子のもとに返えされた。裂かれた服は彼女が尊敬する先輩から譲ってもらったもので、財布の中にはいっていた恋人との写真などは全て切られていた。

 次はただクラスメイトだった男子。彼は部活でいつも帰りが遅かった。しかも家が学校から遠方だったために一人で帰ることが多く、そしてその帰り道、何者かに襲われた。犯人の姿は見えなかったらしい。暗い夜道で急に後ろから木刀か何かで殴られたそうだ。怪我が原因で、部活をしばらく休むことになりレギュラーをとれなくなってしまった。

 そして当時、私が仲良くしていた先輩。受験を控えて必死に勉強していた彼女。推薦入試をねらっていたのだが、そんな彼女が売春をしているという噂が急に校内をかけ巡った。当然嘘に決まっていたのに、どういうわけか彼女が年輩の男性と街を歩いている姿をおさめた写真までが横行しだした。結局、彼女はたくさんのものを失い、その年の受験も失敗に終わらせれた。あとから分かったことだが、写真はどうやら合成だったようだ。

 それらすべてが『主』の仕業だった。どうしてそういうのがわかるかというと、必ずこれらの事件が起きる前に私に連絡が入っていた、『今から何かが起きます』というメッセージが。しかもどこで誰が被害者になるということまで書かれて。

 そして事後、また送ってくる。

『あなたのせい』

 その一言だけを。

 やはりここでも私は甘かった。今まで自分ではなにもしてきていなかった『主』がこうまで堂々と動いてくるとは思っていなかったし、動いてきても私に直接してくると考えていた上、それは暴力的なものではないと予想していた。しかし、それらはすべて的外れ。

 あまりのことに呆然とする私にとどめをさしたのは、一匹の猫。ある日、げた箱を開けるとそこには猫の切断された手足が生々しい血液や鼻をつんざく腐臭とともにいれられていた。これだけでも十分なダメージだったのに、『主』はまだ手を抜かない。

 その猫の切断した頭部を、今度は自宅の前においていた。私が一番早く家に帰ったので家族に知られることはなくすんだが、『主』が何を言いたいのかはもうこれで完全理解できた。

 猫の頭部を少し離れた人気のない場所で埋葬した帰り道、また電話がかかってきた。

『まだ抵抗しますか』

 あいかわらずの合成音声。愛想もなにもない。

『私はあまり活発に動くことは好みません。できれば、もはや会員でなくなったとはいえ、"cube"の仕事をこなしてくれたあなたには穏やかに暮らしてほしいと願います。ただ我々に刃向かうなら、今まで以上の行為に及びます』

 その冷静で事務的な対処の仕方が、私の中のたまっていたものを爆発させた。

「やりすぎだろうっ。友達にクラスメイトに先輩に猫、どれも無関係の存在だ! どうして私じゃなく、そっちを攻撃する!」

 日に日にエスカレートする嫌がらせに参っていたうえ、そこに猫の死体やそれの処理までさせられて正直かなり精神的にやられていた。だから怒りを抑えるなんて上品なことは思いつきもしなかった。

「いい加減にしてくれ! "cube"に刃向かってるのは私だ!」

 一番腹が立ったのはそこだった。攻撃の対象がすべて私ではなく、私と関係している人々。そこだけがどうしたって許せない。

『……あなたにはそれが一番効果的だと考えました。致し方ありません』

 確かにそれが一番効果的であった。もし攻撃がすべて私に向けられていたら、私はさらに態度を硬直化して、もっと強く抵抗しようとしたに違いない。『主』はそうなることがわかっていたんだ。だから私じゃなく、その他を攻撃した。

『もう一度、申し上げます』

 その後に続く言葉は容易に想像でいた。

『速やかに『箱』を返却してください。そして以後、二度と我々に干渉しない、刃向かわないと誓ってください。そうすればあなたにも、お友達にも家族にも、もう何もいたしません』

 猫の死体を自宅に置いたのは、いざとなれば家族にも手を出すというメッセージ。そしてその前に友人や先輩を襲ったのは、『主』としては暴力的にも精神的にもどちらでも攻撃できるという言い回し。そして今このタイミングで電話をしてきたのは、監視もできるということだ。

「……本当に誰も傷つけないのか」

『少なくともあなたの周りの安全は保障いたします。どうでしょうか。拒否されてもかまいません。ただその場合、こちらとしても全力でとめにかかります』

 その言い方はまるでまだ全力ではないと示しているみたいだ。

「……わかった。明日、げた箱に『箱』を入れておく。二度とあんたらには干渉しない。これでいいか」

 心の中で白旗を掲げる。もちろん良心との葛藤もあったが、これ以上の抵抗は私の周りに迷惑がかかりすぎる。そして必ず『主』などが特定できるのかというとそれも疑わしい。これ以上の抗戦はあまりにリスクが高すぎる。

 損得勘定で動きたくはないが、これ以上誰も傷つけたくはない。

『ありがとうございます。では、こちらも攻撃をやめます。では。私たちの運命が二度と交わらぬことを祈っています』

 それだけ言うと電話はきれた。それと同時に思わず携帯電話を地面にたたきつけて、抑えようもない怒りや悔しさを表したが、あとに残ったのは壊れた携帯電話とずたずたにされたプライドだった。

 そして私は本当に『箱』を返し、以降彼らに干渉はしなかった。そのスタイルを卒業まで貫いた。もちろん後悔はかなりある。だからこそ今、あの時の約束を破り、また干渉している。ただあのときと今とは決定的に違うことがある。

 今度は負けない。それだけだけど。

 


「お前は会員だったが、やめさせられた。だから卒業した"cube"や"cube"が最終的にどういう行動をするのかまでは知らない」

「まあ、つまりはそういうことだね」

 父の手短な要約は間違っているところはなく要領をえていた。cubeの実体についてはまだ半信半疑なようで、まだなんともいえない表情をしていた。

「今日の放送で"cube"の存在は学校中にしれて、明日にでも警察が世間に発表するだろう。そうすると歴代の"cube"が名乗り出てくるんじゃないかな」

 普通の"cube"ならでてくるだろう。特に犯罪行為に及んでいるわけでもない。ただ『主』のほうはさっきも言ったように微妙なところだ。期待はしないほうがいいと父に忠告はしたものの、一番期待してるのは私だったりする。

 話しながら食べていたら、もう全て平らげてしまった。デザートにヨーグルトがあるが、それはお風呂上がりにでも食べよう。

「さて、明日から忙しくなるんだ。今日はもう片づけるよ」

 さすがは三人とも男性だけあって、私より早くお皿をきれいにしていた。それらを重ねて台所へ運ぼうとしたら、やけに深刻な声でおそるおそる仁志がかけてきた。

「なあ、その香月って人はどうなったんだよ」

 口に出したくはなかったが、調べたらすぐわかることだから、お皿を重ねながら嘘偽りなく答えた。

「今も事故か自殺かはわからないんだよ」

これにて過去編終了。

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