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情報

蓮見は徐々にCUBEのこと、そして過去に何がったかを語りだす。

 脱会させられる、それはとてもいけないことなの。初めて"cube"の話を聞いたときからそれは知っていた。けどまさか自分がそうなるとはみじんも思っていなかったわけだ。しかし、全く後悔はしてない。あの組織の実態を知ったときから、抜けたいとは思っていた。

 "cube"の仕事に何か激しい動作をすることはない。なんと驚くことに、あの組織の仕事のメインは喋ることにある。口を動かすのがメイン。一体、どういうことなのかと思うだろうけど本当にそれが大きな仕事なんだ。だから今まで誰かが"cube"なんていうのはめったにばれることはなかった。だって話してる人間はそこら中にいるんだから。

 "cube"のメインの仕事は、情報操作にある。

 高校というのは非常に閉ざされた世界。よく推理小説なんかを読むと密室なんてものがでてくる。鍵のかかった開かない部屋。あるいは最初から鍵なんてないけど、物理的に開くことのできない部屋。高校を舞台にした推理ものでも教室が密室になることが多々ある。

 けど、私たちは高校なんてところにいる時点ですでに密室の住人だ。だって、あそこから抜け出すことは容易じゃない。塀をよじ登る? 先生を無視して帰る? けどそうやって抜け出すことで物理的には外へ出れても、心理的にはできない。

 学生なんて者のうちは学校が全てと言っていい。もちろん他の世界も存在するけど、おそらくあそこ以上のものはなく、誰もがあそこに神経を集中させているだろう。

 そこに目をつけたのが、どこの誰かも知らないが、初代『主』であり、それに付き従った"cube"の面々。資格である「優秀」という定義。これもまた何度もいうけど、非常に曖昧。だって優秀か否かなんてとらえ方次第。

 ただ私が小林陸に目をつけたのは彼が噂されていた、そして怪しい一面を持っていたからというだけではない。彼が野球部のエースで四番で、何より部長というポジションにいたからだ。

 情報操作。単純に噂を流すだけということなんだけど、それには絶対に発言力や、周りからの信頼というものが欠かせなくなる。そして私にもそれはあったし、小林陸にもあった。もちろん一年生の最初の頃からそういうものがあったんじゃない。

 そういう人物になり得ると、『主』が判断したに違いない。そういう意味では『主』という存在は他の"cube"より圧倒的に優れた存在。

 嘘みたいな本当の話。いや、私が指名されたのが入学して一ヶ月。その間、私は相当動いていてそれは目立っていたから、さほど難しい作業でなかったかもしれない。一ヶ月あれば誰がどういう人間かという輪郭ははっきりする。相当な人間観察能力に長けていれば、赤子の手をひねるようなものかもしれない。


 

「情報操作が"cube"の仕事?」

 仁志はいまいちピンとこないようで頭を抱えている。それは父も兄も同じ様だ。

「もちろんそれだけじゃない。いろいろと行動を起こすこともあるけど、その流した噂に現実味をつけるためのものだ。変な噂がながれ、それに根拠づけるようなことが起これば、噂っていうのはすごく力を持つからね」

 最初はおだやかな川だ。耳をすませば、流れる水の音や魚のはねる音などが聞こえるだけ。ただそこに雨をふらしてやると、風景は一変する。水は濁り、水流は激しくなってしまう。そしてそれは誰にも止められない。雨をふらした者さえも、あとは眺めることしかできない。

 下手をするとその流れに足下をとられ、流されてしまいそうになる。

「それはいいとして、どうしてそんなことをする必要があるんだい?」

 兄がしごく真っ当な問いをしてくる。全くその通り。私も最初にそれを思った。

「最初はわからなかったんだ。けど組織自体どういう活動をしているかわかっていなかったものだから、もしかして"cube"っていう組織は誰かが暇つぶしで創った、一種のレクリエーションじゃないかって考えたんだ」

 父にはレクリエーションという単語が訊き慣れないものらしく、なんだそれと訊かれてしまった。

「お楽しみってことさ。学校にいると、どうしたって閉塞感がしちゃうんだ。けどそこから抜け出せない。だからそこにあるものだけで満足して楽しまないといけない。"cube"って組織は、生徒の暇つぶしのためにある。本当に、そう考えていたんだよ……」

 嘘でも何でもない。本当にそう思っていた。学校が退屈だっていうのは誰だって感じる。それを打破するのが"cube"なんだと、世迷いごとに聞こえるかもしれないけど、本気で信じていたんだ。だからこそ特に利益もないのに、毎回毎回無愛想に手紙で指示をしてくる『主』に従った。『主』はプランナーだと、そのときはすごいと関心さえしていたんだから笑えるどこか、笑えない。

「けど、それは違っていた。それに気づいたのが二年生の秋だ。私が"cube"を努めて一年半が経っていた。妙な噂を耳にした」

 忘れもしない、あの朝を。いつも通り登校して、いつもげた箱に手紙を入れてくる『主』の手紙がないかを確認した後、廊下を歩いていたら妙に学校全体が騒がしいことに気がついた。それはいつもの喧騒とは違う、どこか影のあるうるささだった。

 何事かなと思案をめぐらしていたら、後ろから誰かに突かれた。こけそうになったのをなんとか留まって、後ろを振り向くと、私に"cube"の存在を教えてくれた女の子が息をきらしながら興奮気味で立っていた。

「ハスミンハスミン、聞いた聞いた?」

「何も聞いてないが、とにかくそさっきの強烈な挨拶に対するおかえしは、ビンタでいいかな」

 彼女の頬をぐいっとつねって、そのまま持ち上げてやる。実は結構痛かったので、ちょっと怒っていた。かといって乙女の顔に本当にビンタをくらわすわけにもいかないので、この程度のお仕置きですませておく。

「いふぁい、いふぁい」

 口をうまく開くことができず、酔っぱらいみたいな口調になった彼女が手をあわせて、ごめんなさいと発音できてはいなかったが、たぶんそう謝ったので解放してやった。

「うぅー、ひどいなぁ、もう。まあいいや。それより聞いてないんだ。香月さんが昨日、家で手首を切ったんだって」

 時間がとまった様な感覚に陥った。目に映っていたすべての景色が一時停止して、聞こえていた音がすべておさまり、心の中は一瞬で真っ白になる。香月亜由美が自殺を図った……そんな、ばかな。

「ハスミン? いや死んではないらしいよ。手首じゃあ死ぬの難しいしね。ただ、もう学校にはこないんじゃないかって」

 その一ヶ月ほど前、私は『主』から指示をうけていた。いつもと変わらない指示の出し方。げた箱に入れられた手紙には「川田教諭とある生徒が卑猥な関係を持っている」とのこと。思わず笑い転げてしまいそうになった。なにせ川田という先生はもう定年間近のおじいちゃんだったのだから。

 それでも私はしょせんはお遊びだと思い、笑い話程度にその話を広めた。もちろん、誹謗中傷めいた噂は好きではないがこれを真にうける生徒なんていないと考えていたし、川田先生は明るい人柄でもしそんな噂がたってもおそらくはなにもなびくことはないと考えていた。

 しかし、噂が思わぬ方向に流れ始めたのはそれから一週間もしない間で、今度は私が噂を耳にすることになった。

「あの噂さ、相手の生徒は香月さんらしいよ」

 聞いたときはバカバカしいと笑い飛ばしたが、どうも雲行きがおかしかった。いつの間にか相手は川田先生ではなくなり、若い男性教師になっていたし、いつどこでデートをしているのを目撃したとかいう噂まで流れていた。

 多くの場合、私は噂を流すだけであとは関与しなかった。自分のところにくる相談が多かったというのもあるし、周りは噂で楽しんでても私個人としてはあまりそういうのは興味なかったから。無責任だったかもしれないがそもそも噂というものにそこまで気を使うのは珍しいだろう。

 だから、その香月さんの件で初めて自分が流した噂の「流れ」を知ることになった。噂は日々過激になっていき、しまいには彼女に対する公のバッシングさえ行われるようになった。



「それってつまり……」

 状況を完全に読みきれていない仁志が必死に頭を回している。ただ父の方はそれがどういうことか、わかってくれたみたいだ。

「なるほど。"cube"っていうのは、個々がバラバラでも仕事は同じってことか」

「そういうことだね」

 納得している父と私に物欲しそうな目を仁志が向けてくる。そこで兄が優しく解説に入ってくれた。

「つまり、レイは噂を流す係。そしてその噂をドンドンと過激にしていくのが、ほかの"cube"の仕事。レイの流した噂に、また別の奴が脚色していく、そしてそれはおそらく……」

 兄がまなざしを向けてくるので、頷いて見せた。

「もちろんそうさ。『主』の指示通り、ね」

この辺りテストに出ます。

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