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結託

小林陸の死で事態は大きく動き出す。

第四面[批評家の反撃]



 さすがに二ヶ月前に殺人事件のあった高校で再び事件が起こると、マスコミが黙っていなかった。しかもその間に一人の女子生徒が不審な死をとげているとなると、その報道の過熱さは例年ではみないものになっていた。ニュースを見るといつも我が母校が映っているし、学校関係者が盛大なバッシングを受けていた。

 タレントとか評論家、キャスターのみなさんが好き勝手に言って推論をたれていたが的外れな物が大半。犯人は心が病んでいるとか、これが無差別殺人であるとか。犯人がどうかしているのも事件が起きてる時点で分かるだろう。それにこれは無差別じゃない。

 別にそれを聞いただけいらだつわけじゃなく、気楽なものだと羨ましい。

 なによりバッシングがひどいのが警察の対応。父が参っていた。二人目が出た段階でもっと真剣に捜査をするべきだったとか、あれを自殺と判断するなんて信じられないとか。そりゃ言いたくなる気持ちも分からないでもないが、そんなことを今責めても捜査の邪魔なだけだろう。それにそう批判する人の中には警察にも父みたいな人がいたんだと説明してやりたい。

 マスコミが騒ぎ立てるので学校は対応に困っていた。無関係の生徒にしつこくコメントをもとめたり、許可もとってないのに校内に入ってきたりとやりたい放題らしく、仁志がかなり苛立っていたし、海野先生が忙しなそうだった。

 小林陸の死で状況は大きく変わったわけだ。警察もようやく"cube"の存在を認めて、今現在、世間には公表してないが"cube"探しをしている。

 ただやはり見つからない。それどころか、こういう事件に立ち会ったという奇異な喜びを味わう生徒が多いため、容疑者が異様に増えているらしい。あの子もそうだ、この子もそうだと言われたら警察としてはどうしようもない。

 結局、捜査に置いては特に進展という進展はない。

 ただ一つ変わったといえば校内に警官がうろつくようになったので校内に緊張感がある。そして私の見回りの仕事がなくなった。あんまりうろちょろしても迷惑だ。なんだかんだで私は無関係なのだから。

 だから、最近の仕事は限られている。生徒会室にこもって状況から何か推理できないかを必死で脳内でやっているが思うような成果は出ていない。あとはパソコンを使って候補者リストの作成。さらには警察官のちょっとしたお手伝い。父以外にも警察で私を信頼してくれてる人もいるので、そういう方々は生徒会室に顔を出してくれる。そこで色々と話しを聞いたり、おつとめご苦労さまという意味でタバコとかお茶を出している。

 こう考えると仁志や有華ちゃんの方がよく仕事をしている。ただ彼らの方でも仕事がしにくくなっている。あまりに噂が流れすぎて、情報が乱雑になってしまったようだ。いくら警察が公にはしていなくても、捜査している警官が「ところで"cube"についてだけど」と言えば、無関係と思わない方がおかしい。それによって今現在、校内で"cube"の情報は非常にあやふやで信憑性に欠いてしまっている。

 もちろん警察としても質問したことは内密にしてもらうけど、誰か口の軽いバカがいたに違いない。

 よって、私は非常に困っていた。困っていたところに、嫌な客がきたからよけいにテンションが下がるし、気が滅入る。

「あなたとお話することなんてないよ」

 ソファーに座った春日の婆さんに冷たく放つ。彼女はそれでもしれっとしている。この人も実はかなり大変だった。こういう事件で責任者が追求されるのは当たり前だから同情はしないが、マスコミ、警察、保護者、PTAとありとあらゆるところに説明したらしい。

 それでもこの学校を休校にしなかったのは許せない。そして今現在もこの高校が通常通り、色々と警察が介入しているところはあるが、運営されているのはおかしい。

 この件については私は父にも、そしてこの人にも異議を申し立てたが却下された。たとえ学校が休みになっても犯人がその外で犯行に及べば無意味だ。けど校内にいる間、警官が見守れる。だからこうした方が安全に違いない。

 父はそう言っていた。いや言わされたんだ。それが警察上層部の意見であり、学校の願いだった。

 見張りが役立つなんて保証はない。現にここにターゲットにしていた一人の男子生徒を守れなかった無能がいる。それが分からないのか。ただ警察の説明にも説得力はあった。なにせ二人目の被害者の茜ちゃんは家で殺されている。

「私が話したいことがあるのよ」

 さっきそういきなり部屋に入ってきた。こっちの気持ちなどお構いなしみたいだ。

「……私はあなたが嫌いだ。話したくない」

 まるで小学生みたいなことを言ってるとは自覚できるが、感情っていうのはあんがい重要だ。感情をかみ殺すのが大人という人がいるがそうじゃなくて、感情をストレートに相手にぶつけれるのが大人で、何より人間らしい。

「あなたが私を嫌ってるのは知ってるわ。私だって好きじゃない。それはもうずっと前から確認しあってるでしょう」

 高校時代、私は一人の先生からある依頼をうけた。それは自分が担任のクラスで最近物がよく盗まれるというもので、私は変ないざこざが起きる前に解決しようと意気込んだのに、それを邪魔したのが婆さんだった。

 人のクラスの問題に口を出すな。授業に出ろとしつこく私に注意したり、親を呼びだしてきたりした。ちなみに呼び出された母は、娘が良心にしたがってるやってるのなら私は関与しませんと宣言したらしい。

 しかしもろもろの妨害があり事件は解決されないまま、犯人じゃないかとされた一人の生徒がクラスにいずらくなって退学した。

「あの件はちゃんと調べるべきだった」

「辞めていった生徒が犯人だって証拠は揃ってたわよ。あなたは自分で捜査できなくてすねてただけじゃない」

 言葉につまったのはそれがまったくの事実だから。あとで依頼してきた先生からも証拠とされたものを見せられて、それは実に納得できるものだった。だから私がすねてるという見解は正しい。

 それを自分でも分かってるから、こんな感情になってる。

「もう何でもいいよ。何度も言うようだけど、話すことなんてない。早く出て行ってくれ」

 あの日屋上で爆発してしまった感情は、海野先生がいたからなんとか収められたけど、今度同じ事ができるかと問われれば頷くことは出来ない。誰かのせいにしたって仕方ないが、この人の責任はあるだろう。

 複数名の生徒の命より、訳の分からない業務か何かを優先したんだ。

「……あなた、私を冷酷だと思ってない?」

 そう質問されて思わず失笑してしまった。この人は心の中でも読めるのか。

「思われてないとお思いかい。休校にせず一人死ぬんだっていうのに、まだこの高校は休みになってない。次の被害者がでる可能性が高いのに、だ」

 これで温厚なんて評価ができるわけない。冷酷か、バカだとしか思えない。そして私はこの婆さんは両方だろうと、何の疑いの余地を持つこともなくそう思っている。

「……これを見なさい」

 婆さんが一枚の便せんを取り出した。それを目の前のテーブルにおく。うざったいと思いながらも、早く出ていってもらいたいので手にとってそれが何かを確かめた。

 思わず、息が止まった。

『これは警告です。もしも休校になるようなことが起これば、被害者はさらに増えます。それでいいなら処置をとってください』

 四つ折りにされたA4サイズの紙を開けると、パソコンでそう書かれた赤い文字が出てきて、それが不気味さを漂わせていた。子供じみた感じがするが、あの『主』のしそうなことではある。

「これは一体……」

「安藤茜が殺される日の朝に家のポストに入ってたわ」

 背筋が凍った。あの日の、朝。私が有華ちゃんから茜ちゃんの住所を尋ねていたときに、この手紙が婆さんのところへ届いていた。

「最初は何か分からなかったわ」

 それはそうだろう。こんなの届いたとしてよく分からない思う。だからだ。だから朝に届けたんだ。事件が起こる前は意味不明でも、起きた後で嫌というほどこの手紙の意味を思い知る。逆に後に届いたなら、いたずらかなにかだと思われる。けど朝に届いていたなら、この手紙を届けた人物が間違いなく茜ちゃんの殺人犯だとどんな奴でも分かる。

「これで私が休校にしない理由、分かってくれた?」

 言われなくともそんなことは分かる。ようは『主』はどこまで用意周到だった。警察が休校を薦めることさえ予想して、先にこの最高権力者を封じていたんだ。

「分かったさ。けど婆さん、これ、警察に見せたかい?」

 彼女は首を横に振った。まあ、そうだろう。これを警察に通報したら被害者が"cube"から一般の生徒まで拡大する可能性がある。下手に行動すると何をしでかすか分からない奴だ。

「だから今のところ、休校にしないのは私の意志ってことになってるわ。警察にもまだ言ってない」

「ならどうしてそんなことを私に言ってくるんだい? 言っちゃ悪いが、私は警察にこの件を報告させてもらうよ。この手紙は貴重な手がかりなんだから」

婆さんの心配は分かるが、もうこれだけ大々的に警察が学校を調べてるなら、この手紙の存在が露見することは『主』も予想がついているだろう。ようはこうなるまでは、つまりは小林陸を殺すまで自由に動き回れたら良かっただけなんだから。

「それが望みよ。私だって、そのわけのわからない『主』とかいう犯人を止めたいのよ」

 彼女は声のトーンはいつも変わらなかったが、初めて彼女の言葉から何か強い感情を感じた。それは怒りとかではなく、おそらくは責任。この高校の全生徒の命を預かっているという、私には想像もできない重荷。

「……何度の言うようだけど、私はあなたが嫌いだ。そしてそれはあなたもだろう。ただ、あんたが私に歩み寄ってくれるなら私だってそうする。目的は一緒だ。なら、つまらない意地をぶつけあってる場合じゃない」

 婆さんがこの手紙を私に見せてきたのは、一種の信頼の表れだと感じ取った。"SOS"に近いもの。この厄介な性格上、困ってる人を無視は出来ない。それが幸か不幸かは、考えるまでもないけれど。

「そうね。私もあなたも、お互いに必要にしてるわ」

 婆さんが私の能力を信用してるとはとうてい思えない。それでも彼女を私は信頼する。それほど今現在、彼女は困窮していて、頼れる者には全て頼ろうとしているんだ。それ位、生徒を護りたいに違いない。初めて見る、この人の底知れぬ教育者としての決意を覗いてしまった。学生時代にこれを見れれば、少しは仲良くやれたかも知れない。

 そんな悲劇的な想像は放っておいて、いい方向に話しがまとまった。実を言うとかなり好都合だ。これで計画をスムーズに進めれる。

「なら婆さん、信頼の証としてちょっと協力してもらおうか」

 ここでにやりと笑ってやった。

 ――お待たせしたね、『主』。

四章にはいりました。

今回からは蓮見のターン。


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