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嘲笑

現場を離れて、櫻井と鴻池と合流した蓮見は二人に捜査をやめろと勧める。

 屋上は大人たちに任せて、階段を下りると生徒たちが群がっていた。二人の先生が教室へ返るように指示しているのに、生徒たちは屋上の様子を見たくてしょうがない様子だった。

 その中には心配そうに私を見る仁志と有華ちゃんの姿もあった。二人に手招きをして、その後生徒会室に戻った。

「有華ちゃん、仁志から聞いてるとは思うけど小林陸が殺された」

 まず最低限の情報を提示すると、彼女は知ってますと頷いた。

「うん。そして現場には箱も落ちてあった」

 その情報に二人の表情は別々だった。有華ちゃんは眉を下げて、仁志は口の端をとがらせた。

「素直に白状すりゃ、こんなことにはならなかったんだよ」

 そういう悪口を言うものじゃないが、彼がそう言いたくなるのも分かる。確かに彼が素直になっていたら、対処はいくらでもできたが、今はそれを嘆く時間じゃない。

「信頼が勝ち取れなかった私のミスだよ。彼を悪く言うのはよしなさい」

 そうたしなめると納得いかない顔をしたが、彼としても死人にそこまできつく当たることに抵抗があるんだろう、何も言わなかった。

「それでどうするんですか?」

 有華ちゃんの質問に素直に両手を挙げて降参して見せた。

「あとは警察に任せるしかないよ。情報を横流ししてもらうけど、私たちが直接介入するのは邪魔にしかならないさ」

 正直な話をすると父が情報を横流ししてくれるかどうかも不明だ。きっとしてくれるだろうが、心配性の兄が何か父に言うかもしれない。レイを危険にさらすのはどうか、とか。そうならないことを祈る。

「結果はこうなったけど、小林陸は"cube"だった。私たちの捜査はあながち間違いじゃなかったんだ。だから、君たちに言っておきたい」

 私は二人を真っ直ぐ見据えた。目をそらすことなく、二人をとらえた。

「捜査から手を引くのをお勧めする」

 二人の表情が固まった。捜査が間違っていなかったと言った後に、そんなことを言われるなんて予想していなかったみたいだ。

「どうしてですか」

「どうしてかなんて分かりきってる。危険すぎるからだよ」

 小林陸の死体を見つめていたとき、私の頭の中には嫌な連想がうかんだ。これが仁志や、有華ちゃんだったら……。すぐに振り払った思考だが、もしそうなったら私はもう私という人間を保っていられなくなるし、責任なんかとうてい負いきれない。

 そもそも二人がここまで危険な目にあう危険性にさらすことはないんだ。

「絶対に嫌だ。断る」

 はっきりそう宣言したのはそもそも一番無関係だった仁志だった。

「ここまできて何言ってんだ」

「ひぃ君、けどね……」

「弱気になるなよ。あんたたらしくもない。言っとくけどな俺はあんたがやめろって言ったって続けるぞ。あんたが何をどう脅したって勝手にやってやる。ここは俺たちの学校だ。『主』のものじゃない。ここのリーダーは――」

 彼はそこで言葉を句切って、右手の親指で自らを指さした。

「俺だ」

 彼がここの生徒会長になったのは、ちょっとしたエピソードがある。彼にとってここの生徒会長でいることは自分を保つためにも必要なことにのようで、それは単純にその地位についていればいいというものじゃないらしい。

 そんなことは知っていた。だから、彼に協力を求めた。この学校で問題が起こってると知っていて、それに私がとりかかると分かれば否応なしに参加させられると分かっていただろうし、きっと何より彼自身がそれを望んでいた。

 バカらしい。結局、私の見ない間に仁志はずっと成長していたんだ。簡単に逃げ出すような、誰かに言われたからってすぐに手を引っ込めるような奴じゃなくなったんだ。

「蓮見さん。私だってやります。茜もやられたんです、許さない。絶対に犯人を引っぱたいてやりたいんです」

 聞き分けのない後輩たちを持ち、私はちょっぴり不幸な気分になった。

「何度も言うようだけど、相手は殺人犯で……」

 何とかして二人の説得を試みようとしていたその時、ポケットの中の携帯が震えだした。父かと思って取り出してみたが、電話ではなくメールで、しかも見たことのないアドレスからだった。一瞬で寒気が全身を覆う。ついに、きたか。

 すばやくその宛先人不明のメールを開ける。

『がんばった方だよ。よく"cube"を特定できたね、褒めてあげる』

 嫌みったらしくハートマークがついてあった。問題はその後。

『あなたじゃ何もできない。止められない。だから放っておいてあげる。あなたのかわいがってる後輩も』

 そして最後はこう締めくくっていた。

『(笑)』

 怒りで表情が歪んでいるのが自覚できた。私の異変に二人が携帯をのぞき込んで、メールを読む。二人とも最初は何も言わなかったが、なんとあろうことか有華ちゃんが小さく笑い声をあげた。

「残念でしたね、蓮見さん。私たち、もうばれちゃってます」

 嬉しそうに、それに仁志が続いていく。

「そうだな。どこで気づかれたかは知らないけど、もうばれてる」

 二人が何を言わんとしているのかは分かる。もうばれているなら遠慮なく捜査を続けよう、だ。しかも『主』はほおっておくとも言ってる。それが事実だとするなら、二人の心配はしないで済む。いやそもそも、もうこなってしまったらこの後輩たちは勝手に行動する。

 そもそも警察だってこうなったら介入してくる。『主』としては高いリスクを払ってまで私たちに手を出しては来ないだろう。そんなことをする暇があるなら、素早く次のターゲットを攻撃するはずだ。

 確信はもてないが、安心はしてもいいだろう。

「……これは先輩命令だよ。いいかい、細心の注意を払ってくれ。何かあったらすぐ報告してくれ」

 私が折れたことに満足したのか、二人は大きく頷いた。

「それで仁志、このメールなんだが……アドレスを見てくれ」

 私はそう言いながら送り主のアドレスを画面に表示して仁志に見せた。

「……間違いない。合田のだよ」

 合田というのは小林陸の監視役をしてくれていた子の名前だ。

「合田君は小林陸が三時間目に授業から抜け出したことを報告しようとしたけど、携帯が盗まれてできなかった。そうだろ?」

 私のところに小林陸の情報が回ってこなかったのは多分こういうことだろう。さっき即席でした予測だが、合っていたようだ。

「それだけじゃねぇ。三時間目が終わって合田が俺のところに直接報告しにいこうとしたら、先生に止められたんだ。なんか別のクラスで生徒の財布がぱくられたらしいんだけど、それの犯人扱いされて四時間目の間もずっと問い詰められてたらしいんだ」

 最悪すぎる。犯人はかなり用意周到だ。今日、このタイミングで行動することをちゃんと用意していた。そしてそのために私の協力者、その情報提供者まで調べ上げている。完全に手の内が読まれていたんだ。

 情報提供者の必須である携帯を奪い、その後行動を封殺した。これで私へ情報の流れを止めて、邪魔されず小林陸を殴り殺したんだ。

 ここまでは完敗。

「もうちまちまとやってる暇は無いようだね」

 携帯を閉じて、目を瞑った。

「……こっちから仕掛けようか」

 そう宣言して、一気に目を開ける。

第3章、終了。

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