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想起

蓮見は眠りの中、高校の頃を思い出す。



 まどろみに落ちると、時々嫌なことを思い出す。自分の持ってる記憶に関しては多くのことを美化しているし、そもそも嫌なことを避けて好き勝手に生きてきたから、そんなに嫌なことというのは記憶にない。

 だから、思い出すことはいつもあの組織のことだ。いつの間にか私はそこに属していて、いつの間にかそれに毒された。私の人生経験上、これ以上の後悔はない。

『あなたは選ばれました』

 そんなメールが届いたのは高校に入学して一ヶ月ほどしてからだった。見覚えのないアドレスからだったし、自動削除機能がついていたので、そのメールはすぐ消えてしまった。

 何かのイタズラだと思ったから当初は気にもしなかったのだが、そんなある時、一人のクラスメイトに話しかけられた。

『ねぇ知ってる? この学校には不思議な組織があるんだよ』

 日頃からハイテンションの子だったが、その日は特に興奮していたのを覚えている。

『へぇ、それは興味深いね。どんなのだい?』

 私が話題にのると目を輝かせて、嬉しそうに語りだした。どうやら仕入れてきたばかりのネタで、誰かに言いたくて仕方なかったらしい。

『正体不明のその組織で分かってることはすごく少ないの。六人構成で、その全員がすごく優秀な人たちなんだって。三学年だから一学年に二人ずついるの。三年間、その組織の仕事をこなして跡継ぎを見つけて引退して引き継いだ子が、その組織の一員になって次の仕事をこなしていくんだって』

 一ヶ月、高校のことにはあまり耳にしていなかった。高校というより、各生徒一人ずつの情報の方がよく聞こえたから、自然とそうなっていた。

『初耳だね。それで組織のその仕事というのは何なんだい?』

 さっきから仕事仕事と連呼しているのでちゃんと知ってると思っていたのに、彼女はここで急に歯切れが悪くなった。

『どういう仕事をするかって? それは分からない。誰も知らないの。ううん、その組織の人たちが知られないようにするんだ。知られたらいけないんだって。それこそがその人たちの一番大切な仕事らしいよ。知られちゃったら、その組織から脱会させられちゃうんの。それはとってもいけにことなんだって。わかんないけど』

 一番知りたい部分の情報がぽっかりと抜けていて、拍子抜けもいいところだった。ただ彼女もそこが一番気になるらしく、気になるよねぇと同意を求めてくる。うん、大いに気になる。

『そういえば、名前はなんていうだい?』

『名前? ああ、その組織のね。色々呼び名はあるんだ。けど一番有名なのはやっぱりあれかな。六人構成ってところから、こう呼ばれてるの』

 彼女はそこで言葉を区切って、適度な間を置いてから少し冷えた声でその名前を教えてくれた。

『――"cube"って』


 そんな会話をしてしばらくしたら、またメールが届いた

『あなたに『証の箱』を差し上げます。受け取って下さい』

 最初はこのメールと最初のメールが関わりがあるとは気づかなかった。最初と送り主も違っていたし、今度は自動削除もなかったので、ただよく分からないメールだった。

 『証の箱』を差し上げると言っておきなが、私に何か届く気配は何もなかった。ただ、数日後、家のポストに差出人の名前が書かれていない私宛の封筒が届き、その中に箱があって、またメッセージがあった。

『あなたを"cube"として認定します。以後、指示に従って下さい。尚、この秘密を漏洩させた場合、適切な処置を執らせていただきます。主より』

 この手紙で初めて最初のメールと次のメールのつながりを察して、自分が"cube"に選ばれたんだと気づいた。そして同時にいやな恐怖を感じた。二通目のメール、私は削除した覚えがないのにいつの間にか携帯のデータからは消えていた。誰かが私の携帯を盗んで、消したのだ。私は携帯を盗まれたことさえ気づかなかった。

 そしてその誰かさんは私の住所まで知っている。

 ただ、私がそのとき感じたのは恐怖と、そしてもう一つ……。


「レイ」

 聞き慣れたファーストネームを呼ばれ、ゆっくりと瞼をあけていく。私を下の名前で呼ぶ男性はそう多くない。仁志なんかずっと『あんた』だ。もう少し愛想良くしてもいいと思うけどね。

「レイ、大丈夫か」

 ぼやけていた視界がはっきりしていくと、兄が私の顔をのぞき込んでいた。

「……やあ兄さん。私の顔をのぞき込んでどうしたんだい。いくら可愛くても妹を襲っちゃダメだよ。まあ兄さんなら別にいいけどね」

 早速先制パンチとしてからかってやると、兄はすぐさま顔を赤くして、何か言おうとしたが言葉にならないで、結局デコピンをしてきた。

「ふざけてるんじゃない。何か、うなされてたぞ」

「まあ、嫌なことを思い出してたからね。ところで今は何時かな」

 どうやら私はリビングのソファーで寝ていたらしい。壁掛け時計は午後十時をさしていた。そういえば高校から帰ってきて、洗濯物を取り入れて畳み、お風呂をわかして父と兄と自分の夕食を作って一人で先に食べて食後にリビングでテレビを見ていた。そこでどうやら眠っていまったらしい。

 小林陸が妙な運動をさせるから疲れたのかもしれない。

「慣れないことをするもんじゃないね。兄さんも気をつけた方が良い」

 兄は私が何を言ってるのか当然理解出来なかった。

「慣れないことってなんだよ」

「運動とかだよ。適度な運動は大切だけど、身体を急に使うものじゃないってこと」

「俺は日頃からトレーニングしてるから大丈夫だ」

 兄の顔をまじまじとみる。一見ひ弱そうで、女の私でも勝てそうな気がするが、この人はいわゆる『私、脱いだらすごいんです』というタイプ。腹筋も胸板もすごいことになっている。

「お前は運動しなきゃダメだよ。タバコも酒もしてるんだ、早死にするぞ」

「恋人に殺されるなんて最高にロマンチックだね」

 本心からの言葉。タバコを一本吸うごとに何分か寿命が縮まるとかいうのをよく耳にするが、そんなの当然である。あれだけの美味を金銭だけの等価交換で得られると思う方がおかしい。そんなにタバコというものは安くない。

 私がこれを説明しようとした矢先、兄のお腹が小さく鳴って話す気が失せてしまった。

「兄さん、冷蔵庫の中にトンカツがあるからそれを食べといてくれ」

 眠る前の私の最高傑作のありかを教え、そこで大きくあくびをして体を伸ばした。

「私は疲れたからもう寝かせてもらうよ」

 タバコ論はまた今度にしようと思い、そのまま自室に向かおうとすると呼び止められた。

「本当に大丈夫か。お前がうなされるなんてタダごとじゃない。最近無理しすぎだろう」

 兄は昔から心配性だった。特に妹の私に関してはいらない気まで回してくる。将来的に兄がお見合いなどをすすめてきそうで怖い。

 けど兄が心配性になるのは仕方ない。昔から私は危ない橋を好んでわたっていたから、それを端から見てる方からすれば心配で仕方ないだろう。元々心配性の兄にすれば、妹が人殺しを探し回っているとなると心中穏やかではいられないのも当然だ。

「……兄さん、高校一年生の頃の私はどんな奴だった?」

 兄の言葉をスルーして私が質問をしてきたので兄としては納得できない様子だった。

「高一の頃のお前……と言っても、あんまり昔から性格は変わってないだろう」

「そうだねぇ。成長なしっていうのは、情けない話だけどね」

「する必要がないんだろ。けど年相応なとこもあったじゃないか。妙に化粧したして」

 中学を卒業したら急に周りの友人たちがお洒落などに気を使い始めた。いや元々ある程度は気にしていたのだけど、それが急に跳ね上がったから、私もそれにのっかった。

「まあ、そんなものかな。けど年相応なら兄さんもだよ。学生の頃大切にしてたベッドの下にいた友達とかね」

 再び兄の顔が赤くなって、何も言えなくなるのを確認した後、逃げるように自室に戻った。ああでも言わないと、兄がまた呼び止めてきそうだったので動きを止めさせてもらった。すまないね、兄さん。心配してくれてありがとう。気持ちだけはちゃんと受け取っておくよ。

 机の上に置いてあったタバコの箱をとって、窓を開け、寝る前の一本をくわえた。蛍族と呼ばれる方々になった気分だ。

「年相応か。なるほど、さすがだね、兄さん」

 自覚はしてないだろうけど兄はちゃんと人のことを見ている。年相応という言葉は見事だ。そう、あの頃の私は本当にそうだった。

 本当に、子供だった。

プロローグ、覚えてます? 地味に繋がってます。


あと、どなかたわかりませんが、評価、ありがとうございます。

真面目にかなりの励みになります。


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http://mobile.twitter.com/PIPE_DREAM_YE

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