視線
鴻池に質問に蓮見は……。
この質問をした直後、有華ちゃんと仁志の表情が曇った。というのも、私が顔をしかめたのが見えたからだ。できるならこの質問をされずに終わりたかった……。
「ああ、いいです。答えたくないなら別に」
有華ちゃんが大急ぎで質問を撤回する。なら、お言葉に甘えさせてもらおう。
「まあ、おいおい話すよ。今日はとりあえずここまでにしとこう」
別に隠すようなことじゃない。犯罪が関わっているわけでも、巨大な秘密を抱えてるわけでもない。ただ私個人があの組織の仕事が嫌いで、一部携わってしまったことに後悔していて、それを未だに引きずっているだけだ。ここで大げさに隠す様なことでもない。
変な締めくくり方をしてしまったせいで、部屋に妙な沈黙が降りてしまった。
「じゃあとりあえず、明日から頼むよ、ひぃ君に有華ちゃん」
ソファーから立ち上がって二人にウィンクする。その仕草に二人が唇を綻ばせてくれた。
「任せて下さい」
「まあ、任せとけよ」
頼もしい後輩たちだ。今度は父の方に目を向ける。
「父上も頼んだよ。とにかく箱だ、分かったね」
しつこい私の念押しに父は一度だけ強く頷くと、立ち上がって携帯を取り出すと電話をかけ出した。そして手を振って別れを告げると、そのまま誰かと話しながら出て行ってしまった。多分、今の情報を仲間に報告してるんだろう。
しかし、箱だとは言ったものの正直それに期待していなかった。もし茜ちゃんが学校に箱を置いていたんだとしたら、もう先を越されてしまっている算段が高い。ネガティブシンキングになるけど、そこまで生ぬるい相手じゃないだろう。
これからどうなるか、正直予想も出来ない。そんな重たい不安を抱えながら、立ち上がる。
「さて、私も帰るか」
「あっ、じゃあ私も」
有華ちゃんは徒歩で下校だから、校門までだが一緒に帰ることにした。帰り際、仁志に感謝の気持ちを込めて投げキッスをしてやったら、またしてもあっかんべぇをされた。報復に恥ずかしい過去を、有華ちゃんに気づかれない程度の遠回しさで暴露してやった。
廊下で事件とは関係ない、たわいもない会話をしていたときだった。急に、何かを刺すような鋭い視線を感じ取ったので、その方角に目を向ける。
窓ガラスの向こう側にそびえ立つ校舎の屋上から、私はその痛いほどの視線を感じた。
「蓮見さん?」
有華ちゃんが声をかけてきても、私はしばらくそこから目を離さなかった。
3
彼女がこちらに振り向くと同時に瞬時に身をかがめる。危うく、姿を見られてしまうところだった。そうなると折角計画している殺人ができなくなる。そんな退屈で無意味なことは許されない。殺されるために生きてる奴らを、殺さないといけない。
しかし、少し侮っていた。まさか視線だけであそこまで過敏に反応できるなんて並大抵じゃない。これからはもっと慎重に動かないと、足下をすくわれてしまうかもしれない。
鴻池有華、生徒会長、そして自分の父親を味方につけたようだ。この面子からして、仕掛けてくる作戦は限られている。思わず、笑いが漏れそうになる。そんな中途半端な作戦で、私が止めれるはずがない。
やっぱり批評家が精一杯かな、名探偵。
「少しは楽しませてほしいな」
それに彼女の作戦が本格的に施行されるまでにはまだしばらくかかる。彼女のことだから箱を探し出すだろうけど、もう遅い。
彼女がこれから探すであろう『証の箱』を手のひらで転がしながら、ほくそ笑む。
先手必勝。誰が作った言葉かは知らないけど、全くそのその通り。これで警察の介入は少し遅れる。けど、彼女ならそれくらい予想しているはず。しばらくは自分で動き回るだろう。けど心配することない。一人でできることなんて限られてる。大した恐怖にはなれない。
けど、こちらとしては望まないことだけど、彼女にとっては好都合なことに、警察はすぐに介入してくる。しかし、それは彼女が望まない形で、こちらが思い描くままに。
「三人目は、偶然ってことにはされないだろうかね」
できるだけ早く実現したい。今度はどう殺すかも決まってる。
ああ、血がほしい。叫びがほしい。命がほしい。この世から生がなくなるその瞬間をこの目に焼き付けたい。誰かの泣き叫ぶ声を耳に貼り付けたい。
――ああ、殺したい。ころしたい。コロシタイ。
唾液でねっとりさせた舌で、唇をゆっくりと円を描くように濡らした。
これで2章は終わります。
次回から3章。準備や説明が終わり、やっと捜査が始まります。
今回は短め更新。
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