無力
協力者を集めた蓮見は状況を整理していく。
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その名前を聞いた瞬間、後輩二人の顔が強ばった。対して父はもともと強ばったような顔なのであまり変化が見られない。
「一応確認だが、有華ちゃんとひぃ君は知ってるよね」
聞くまでもないと思うが念のためだ。この学校の生徒ならば知っているはずだけど。
「知らないわけないだろ」
「ええ、私も知ってます。名前だけですけど」
名前以外に知ってたらそれはそれで問題になっちゃうから、それでいい。
「父上は知ってるかい」
「聞いたこともない。何だその、きゅーぶってのは」
捜査資料に載ってなかったから予想はしていたけど、どうやら警察はまだあの組織の存在すら掴んでいないのか。ここの生徒も秘密にするようなことか。訊かれなかった答えなかったってところだろうが、誰か一人くらい口を滑らせてもいいだろう。
「"cube"。この学校の七不思議みたいなものだよ。強いて言うなら、秘密結社ってところだね」
持っていた写真をテーブルの上に置いて、写っていた『証の箱』を指さす。
「そして、これがその秘密結社の会員の証。通称、『証の箱』ってやつだ」
三人が写真をのぞき込む。
「この箱にそんな意味があったのか」
「意味っていうか、忌みだね。私か言わせれば」
父の呟きにそう返すと、ここにきてようやく仁志が不思議そうに首をかしげた。
「ちょっと待ってくれ。俺も鴻池さんも"cube"は知ってるけど、こんな箱は知らない。けどあんたは随分と詳しいじゃないか」
「君は中途半端に頭がいいね。そこまで分かれば察しなさい。私も"cube"だったんだよ」
この発言に在校生二人はずいぶんと驚いたようで、有華ちゃんなんて口を大きくあけたまま閉じないでいる。好きな男の子には見せれない姿に違いない。
そんな彼らの反応を父は不思議がっている。
「どうしてそんなに驚いているんだ?」
「あなたの娘さんがいとも簡単に自分が"cube"だって名乗ったからですよ」
仁志がそう説明するも父はまだ納得しなかったので細かい説明をすることにした。
「父上、さっきも言ったとおり"cube"は秘密結社。誰が組織の一員なのか、本来なら黙っておかないといけないんだ。けど私はもう縁が切れた組織だからね」
そもそも在学中にだって何度も制約なんか破ってやろうとしたのを、『主』が食い止めてきたんだ。奴さえいなかったら私は堂々とあの組織を糾弾していた。
「それでどうして、その秘密結社の証を被害者が握ってたんだ?」
「想像できることは限られてるさ。被害者は"cube"の一員だった。それしかにない」
『証の箱』はそう簡単に手にすることは出来ない物だ。それを握っていたなら、もう十中八九そういうことになるだろう。
この言葉の真意を一番初めに掴んだのは有華ちゃんで、私の言葉を聞き終えるなり、信じられないという様な表情を向けてきた。その様子を見て、男二人がようやく事態を察したのか、表情を凍らせた。
「そう。茜ちゃんも"cube"だった。これはもう本人の口から確認してるんだ」
私がすでに確認しているということに、有華ちゃんは一瞬表情を暗くしたがすぐさま私が何のためにこの話し合いをしているのかを見抜いて、言葉を発しようとした。
「じゃあ、蓮見さん……まさか」
「そう、そのまさかだ。今、私たちの直面してる現実は紛れもなく連続殺人。そしてそのターゲットが、"cube"だ」
そう断言すると部屋の中が一気に静まりかえった。父は写真を見つめたまま眉間にしわを寄せて何かを考えていて、有華ちゃんは親友が組織の一員だったという現実にまだ驚いていて、仁志は急に参加させられた話し合いが現実離れしたものなので、戸惑ってどうしていいかも分からず指先を遊ばせていた。
「……いや待て、レイ。茜ちゃんが"cube"だったという確認はしてると言ったが、じゃあ何で彼女の部屋からこの『証の箱』は出てないんだ?」
「多分だけど茜ちゃんの『証の箱』はまだ校内にあるね。彼女は相当『主』に怯えていたから、箱を持っているのも嫌だっただろう」
急に出てきた『主』という単語に三人が怪訝そうな顔をした。まだ説明していなかったか。
「"cube"は六人構成の秘密結社。一学年に二人ずついる。基本的に優秀じゃなきゃなれないらしい」
「おい待て、なら後四人もターゲットになってる生徒がいるってことか」
父が腰を浮かせて驚いたせいで、その勢いに目の前の二人が気圧されてしまった。
「違う。いやそんなに違わないけど、四人じゃない。あと三人だ」
単純な算数の問題なら、六から二を引けば四だけどこれは算数じゃない。数学でもない。現実だ。
「さっきの『証の箱』がそれだよ。"cube"の存在自体は恐らく全校生徒が知ってるけど、一員にならないと知れない秘密ってのがある。それが組織の仕事内容と、箱と、『主』の存在だ。ひぃ君、"cube"がどういう組織なのかは知ってるかい」
突然の問いかけに仁志は一瞬驚いたようだが、すぐに答えてくれた。
「完全秘密主義。例え"cube"でも、他の"cube"が誰かは知らない。秘密結社ってのは名ばかりでほとんどは個人行動、だろ」
「はい正解。よく勉強できてる。ご褒美に愛をあげよう」
軽口を叩くと三人に睨まれた。私としてはこの重い空気を払拭しようとしたわけだが、どうやら逆効果だったようだ。春川といい、もうちょっと柔軟になれないか、皆さん。
「さっきのひぃ君の説明通り、"cube"でも他の"cube"が誰かは知らない。けど、組織の中にはその例外がいる。それが『主』だ。組織の要っていうか、ボスっていうか、柱だね。その『主』なら、何年何組の誰が"cube"だって知ってる。ついでに言うなら、組織の仕事を指示するのも『主』だ」
そして誰を"cube"にするかを決める指名権を持ってるのも『主』。彼、あるいは彼女に目を付けられた生徒が『証の箱』を受諾させられ、"cube"となる。五人の平社員と、一人の社長。それがこの学校の秘密結社の実態。なんというか、夢がない表現だけどね。
「そして……これはかなり特例的な話だが、"cube"が『主』と接触することがあるらしい。そして『主』と会うには、『証の箱』を見せないといけないというのが掟なんだ。ここまで言えば、父上なら私が何が言いたいのか、分かるよね」
「つまり、黒沢さんと安藤さんを殺したのは……その『主』ってことか」
「正解だよ、ダディ。そしてつまりこういうことだ」
影を落としている三人の表情に私は紛れもない現実を突きつける。
「私たちは被害者が出ることも、犯人がどういう人物であるかも分かってる。けど、それが誰なのかは、一切掴めていない」
更に要約してみると、これがいかに絶望的かが分かる。
「私たちは、何もできない」
ちょっとややこしいですね。




