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0:野獣との悪夢の始まり。

 私の目の前で、絶世の美女が笑う。


 美女、カレン・ノーマンのその笑みは、燃え上がる憎悪をその目に宿し、不敵に歪んで凶悪であるにもかかわらず、美の女神すら霞むほどに美しかった。


「もぉ遅ぇよ。この話…聞いたからには逃さねぇ」


 愉快そうにからころと笑う美女の声。


 だが、それは地の底から悪魔が這い出て来る地響きのよう。私の顔はきっとひどく青褪めているに違いない。私は耳を塞ぎ、全身を震わせながら、ただただ彼女を見つめる他に出来ることはなかった。


 聞いたんじゃない、聞かされたんだ。その話は。私は聞きたくなかった。


 そう、言えればどれほど楽だろうか。さらにその先、今から告げられることを聞いてしまえば本当に後戻りは出来ないだろうに、耳を塞いでいた手はあっけなく彼女によって絡めとられ、望まぬ私に声が刺さる。


 カレン・ノーマンは再び笑った。


 それはそれは美しく、


 それはそれは凶悪に。


「てめぇにはがっつり協力してもらうぜ――ピエール・ジャックス」


 そっと、私は心の内で十字を切った。


 これは神が与えたもうた試練なのか。もしもそうだとするならば。私のような小さき者に、天に御座おわせし最高神は如何いかほどの物をお望みか。



 嗚呼ああ、誰か。



 誰か胃薬持って来て!



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