プロローグ
月明かりに照らされ、数人の集団がそこには居た。
望遠鏡から見える彼らの行動は、恐怖で目撃者の手を大きく震わさせ、目撃者はその震えを止めることができなかった。
季節は秋だったが、空気は寒さで張りつめている。その日の夜は全てが凍ってしまうと思えるほど冷たかった。
目撃者と彼らとは、川を挟んで二百メートルほど離れた距離だ。目撃者は枯れた幾本もの葦の隙間から、恐怖で震えながら望遠鏡の中で起きている出来事を見続けていた。
望遠鏡の中の彼らは、ワンボックスと思わしき車の中から、二人の子供、それも小さい子供らしき影を脇に抱え、彼らが掘った穴へ勢いを付け、乱暴に投げ入れていた。「どさっ」という鈍い音が聞こえてくるような気がした。だがその子供のような影たちは、泣くこともなく、何も声を発することもない。
死んでいるのではないか?、または殺されているのか・・・。
目撃者にはそう思えた。
目撃者は恐怖の余り、自分の記憶が確かでなくなってきているような気がした。目の前の光景を現実に起きていることとして認めたくなかった。
次に彼らは一つの大人の影を車から乱暴に引きずり出し、最後は蹴るようにして穴に突き落とした。その影もまた何も抵抗する様子がない。それが二回繰り返された。
リーダー格の人間が周りの人間に指示を出した。数人の集団は手際よく、四人の遺体を捨てた穴を埋め、枯れ草をまき、偽装を行った。
許させない光景だ。
目撃者は強い怒りを感じた。彼らは自分達が殺害した人間を何の尊厳もなく、物のように捨てている。許せる訳がない。だが、目撃者は何もすることができなかった。恐怖に心が支配されてしまっていたのだ。
望遠鏡の中の彼らはひと段落して安心したのか、ふざけ合い、笑っているように見えた。が、それを制止する人間、もしくは疑問を唱える人間が現れたのだろう・・・やがてその一人を対象にリンチが加えられるような状況となってしまった。
しばらくの間リンチは続いていた。
目撃者はそれを見て気持ちが悪くなった。
リンチが終わった。だが、その対象だった人間は全く動く様子がなく、彼はワンボックスの荷台へ雑に放り込まれた。
目撃者は今日この場所に星を見にきたことを後悔していた。ワンボックスで乗り付け、ヘッドライトの明かりを頼りに穴を掘り始めた奇妙な集団の行動を覗いてしまったことに後悔をしていた。
時間の流れが異常に遅く感じられた。
エンジンを掛ける音が聞こる。そして扉を開け、乗り込み、扉を閉める音が聞こえ、車は過ぎ去って行った。
目撃者の震えはまだ止まらない。そして今見た光景が夢であることを願った。