二十話
どうするかなと首を傾げる。
訳知り顔で物をいう奴は信用しない事にしてるが……。
「どうすりゃいいと思う?」
「いや、私に言われてもな。私としては……神話の戦いと言うのに興味は惹かれるな」
「奇遇だな、オレもだよ」
大陸の動乱とやらよりはそちらの方がよほど魅力的だった。
しかし、大問題が1つあるんだな、これが。
神話の戦いで生き残る自信が無い。
ただそれだけに尽きる。つまり、オレたちではどう考えても力不足なのだ。
それこそ、先ほどのあの女戦士たちのように、ぽんとアダマンティンの剣を買えるくらいの金を手に入れられる力がなきゃ、到底どうにもならねえだろうと。
「今はとにかく力を付けるしかねえよな」
「ああ、そうだな」
「となると、この町に留まるべきなんだろうな」
とは言っても、留まって何があるのか。それに、留まるにしても何が起こるか分からない。
うーん……ああいう予言をされていやなのは、こう言う風に思考が限定される事なんだよな。
気付かないと、選択肢が二つしかないような気がしてしまう。
シェンガに向かうのでも、この町に留まるのでもなく、他の街に行く。そんな選択肢だってあるだろうに。
「よし、決めた」
「どうするのだ?」
「シェンガの反対に行く」
「……お前はひねくれ者だな」
「おう、オレはひねくれ者だ」
特に理由は無いがそうしてみようと思う。うん、それがいい。よし、それでいこう。
さて、旅支度の続きをするか。そう言えば、この剣も手直ししてもらわないといけないよな。
さて、保存食その他諸々を買い込む。硬く焼しめたパンにビスケット、燻製肉に、ドライソーセージと言ったところ。不味くは無いが、毎日食べたいような代物ではない。
それから、旅路に必要な衣類の購入。マントなんて変な気分だが、これがあるとないとでは大違いだという。落ち着いた色合いの若草色のマントを買った。
「だいたい買ったか?」
「問題ないのではないか?」
「だよな」
水筒なんかも買ったし、足りないって事は無いだろう。
強いて言うなら火種の類がないが、そんなものはオレが居ればどうにかなる。
「さて、んじゃ、ぼつぼつ今日はここらで解散するか」
「ああ。明日の早朝に出立するのだな?」
「そうなるな。で、シェンガの反対方向はどっちだ?」
「向こうが南だから……あっちだな」
南西の方を指し示したリンに頷く。つまりシェンガは北東の方にあるのか? まぁいい。
「んじゃ、明日の朝、日の出と同時に出立だな。集合はどこにする?」
「今朝方と同じあたりで待っている」
「ああ。ゴリラみてぇにウロウロしてんじゃねえぞ」
「誰がゴリラだっ。全く無礼な奴だなお前は」
ぷんすかと言った調子で怒るリンに苦笑する。まるっきりゴリラみてぇな行動してたくせに。
「んじゃ、解散だ」
「ああ」
リンと別れ、拠点となるデリックの家へと向かう。しばらくゆっくりしたら、剣と鎧を取りに行こう。
手直し自体は半日もあれば終わるって言ってたしな。
今日は早く寝ないとな。そう思って歩いていると、前から歩いてきた三人の男の一人にぶつかる。
オレ、一応避けたんだが……。
「痛ぇじゃねえか! 気ぃつけろボケ! どこに目ぇつけてんだ!」
「ああ!? テメェ調子扱くなクソが!」
どっちがどっちだか分からんかもしれんが、難癖をつけてきたのはぶつかった男の方だ。決してオレではない。
「テメェこそどこに目ぇつけてんだ! その目玉は飾りか! ご大層なガラス玉詰めてんじゃねえ!」
「なんだとこのガキ! 調子に乗りやがって! ちょっと痛い目みてもらおうか」
その言葉を聞く前に、オレは男の膝に蹴りを入れていた。
骨が軋む嫌な音が足を通して耳に届く。
そして、激痛に蹲りそうになった男の鼻っ柱に膝蹴りを叩き込んでいた。
「げぶ!」
鼻がへし折れた感触。地面に倒れ、起き上がった男の鼻から凄い勢いで血が流れ出している。
「どうしたよ。オレに痛い目見せるんじゃなかったのか? え?」
逃げ出そうとした男だが、足の痛みで立てないのだろう。無様に転げまわる。
そして、頭に蹴りを叩き込んでやる。
「おいおい、どうしたよ。オレに痛い目みせるんだろ? ほら、頑張れよ。しっかりしろよ、おい」
この男と共に歩いていた二人の男のうち一人が我に返ったのか、オレに掴み掛かって来る。
「調子に乗るな」
逆に手を掴み取って、指を曲がらない方向に曲げる。
二、三本折れた感触がして、男が悲鳴を上げてその場に転げまわる。
そして、もう一人の男が逃げ出そうとし、オレは先ほど指を圧し折った男の手を掴むと、そいつに向けて男を投げつけた。
何がどうなってんのかわからねぇ、と言う顔をした男は宙を舞い、走っていく男の背中に激突して地面を転げた。
「おい、どうしたよ。オレに痛い目みせるんだろ? ぜひとも見せてくれよ。おう、どうしたんだ」
何度か頭を蹴るが、反応が無い。死んだかと思ったが、気絶してるだけのようだ。
おーおー、鼻が潰れていい男っぷりだ。
数分後、人が座るためなのか、ちょうどいい高さの石柱の一つに座り、オレは三人の男を土下座させていた。
「で? 羽振りがいいガキが居たから、小遣い稼ぎに財布を奪おうと思ったわけか」
「は、はい……そうなんです……ゆ、許してください……」
「も、もうこんなことしません……これからは真面目に働きます……」
「おう、いい心がけだ。テメェは?」
オレが散々蹴ったせいで顔の原型がなくなった男に尋ねる。
「ふが、はあが、ふが、はが」
「なに言ってるか分からねぇ」
ちょっと蹴りすぎたかもしれん。
ともかく、こいつらはただのチンピラだ。
しかし、何の変哲もないガキが大金を持ってる事に違和感を感じなかったのか?
金持ちの令嬢に間違われるような恰好はしてないし、そんな素行もよくはない。
まぁ、単にこいつらがそんな事にも気付かない短絡的な奴らだってだけだとは思うが。
「しかし、オレを襲おうなんていい度胸してるじゃねえか。ええ?」
「ひぃっ、すんませんすんません!」
「おいおい、オレは褒めてるんだぜ? 格上に無謀にも挑みかかる、お前らの無謀すぎる勇気をよ。バカの世界チャンピオン間違いなしだぜ」
「し、知らなかったんっす! ニーナさんがそんな強いなんて思ってませんでした! すんませんすんませんすんません!」
「うるせぇ」
うるさいので一発殴って黙らせる。
「さて、色々考えたが」
「は、はい!」
「お前らを許さない理由はあっても許す理由がねぇ」
「ひぃっ……」
「さてどうするかな」
まず、何をするにしても、こいつらがどれくらい反省してるかを見ておくとするか。
「よし、お前ら。誠意を見せてみろ」
「せ、誠意、ですか?」
「あの、俺たち、そんなに金は持ってないんですけど……」
そう言って財布を差し出してくる。
受け取って開いてみると、金貨が数枚と、銀貨が十数枚。そして銅貨が数枚入っている。
「こんなはした金いらねぇよ」
財布に金を戻して投げ返す。これっぽち貰っても大した足しにはならん。
「あ、あの、じゃあ、どうしたらいいでしょうか……」
「思いつかねぇか。そうだな」
エンコ詰めと、切腹。どっちにするかな。切腹の場合は死なれちゃ面倒だし、エンコ詰めにするか。
「よし、お前ら」
「は、はい!」
「刃物くらい持ってるだろ」
「は、はい……」
「それで自分の小指を切り落とせ」
「は、はい!?」
「おまえそれしか言えねぇのか?」
さっきから「は、はい」だけで会話してんじゃねえか。
「指を切り落として誠意を見せてみろっつってんだよ。ほら、早くやれよ」
一度、エンコ詰めをナマで見てみたかったんだ。
「あの、か、勘弁してくれませんか。ゆ、指切り落としちまったら、し、仕事も……」
「おう、そうか。そうだな、仕事が出来ねえのは辛いな。生きてくのも大変だ」
「で、ですよね」
そいつの顔を蹴っ飛ばす。
「それならオレにぶっ殺される結果に終わるが、どっちがいいんだ? ん? 言ってみろや」
「ひいぃ……」
「だが、オレも鬼じゃねえ」
「えっ?」
「あ?」
「な、なんでもないです」
「テメェら三人、オレの下僕になれ。それで許してやる」
「げ、下僕っすか」
「そうだ。なに、殺しやしねえよ。ただまぁ、オレはこれから旅に出る身でな。道中、役に立つ奴が居た方がいいじゃねえか」
いざとなったら盾にするつもりではあるが、殺すつもりはない。
窮地に陥ったら助けてやるつもりもないが、殺すつもりはない。
殺すつもりはない。しかし積極的に助けるつもりもない。そういう事だ。
「そこで誠心誠意働いて見せたら許してやるぜ」
「ほ、本当ですか」
「だが逃げ出してみろ。地獄の底まで追いかけてぶち殺す」
「は、はい!」
「殺す時はどう殺してほしい? スライスか? それともコンガリとウェルダンにして欲しいか? もしくは、そこの奴みてぇにテメェの親でも見分けがつかねぇくらいの男ぶりにしてやろうか」
「い、いらないっす! あ、姐さんに誠心誠意仕えます!」
「お、俺も! 俺も姐さんの役に立つっす!」
「はが! ふがはが! はがふふぁふあ!」
「なに言ってっか分かんねえよ」
これ以上顔を蹴るとボールになってしまいそうな有様なので腹を蹴る。
そもそも蹴らなけりゃいいんじゃねえかと今気づいたがもう遅い。
「明日、日の出と同時にここに集合してろ。一人でもいなかったら全員殺す」
「はい!」
「言い訳は聞かねえぞ。どいつかが死体になったらそいつの首持ってこい」
「はい!」
「よし、解散」
しかし誰も立ち上がろうとしない。
「どうした。さっさといけ」
「……こ、腰が抜けて、立てません……」
「お、俺も……」
「はがが……ふあが、はが……ふあは……」
順番に一発ずつ殴ってみると、抜けていた腰が戻ったのか全員転げそうになりながらも走り出した。
「さて、帰るか」
晩飯なんだろうな。




