十三話
相も変わらずクソ不味いオートミールをもしゃもしゃ喰いながら思う。
なんで、オレの隣にこないだ戦った奴……リンが居るんだろう、って。
「……お前はなんでまだここにいるんだ? え? オイ?」
「お前に勝つまで挑戦する」
「ああ……そう……」
分からなかったから聞いてみたら、端的な返答が帰って来た。
なにこいつ、めんどくせえ。
……でもまぁ、オレでも同じ目にあったら同じことするな。
そう思うと、面倒くさいとは思いつつも文句も言えはしない。いわゆる反面教師的なあれで。
「しかし、感服した……彼我の戦力差は明らかだった」
「さようで」
「お前より私が強い。そのくらいの事は分かっていたのだろう?」
「ったりめーだ」
彼我の戦力差を測る事くらい出来る。地力では明らかにオレが負けていた。
速度も剣技も明らかにリンが上。こっちが上だったのは腕力と体の頑丈さくらいなものだろうか。
その頑丈さも剣相手じゃ意味ないし、腕力も攻撃に転じれなければ意味がない。
勝てたのも無茶無謀を押し通すのに成功したってだけだ。
腕で受け止めるのに失敗してたら、腕は二枚に卸されて終わりだったはずだ。
もしくは首に直撃してさようなら。上ニーナ、下ニーナです……みたいな。
オレの来世はデュラハンか……。
「それでいてなお、お前は私に勝った。感服した……世界は広い」
「オレは負ける事とニラが大嫌いなんだ」
ニラは滅べばいい。ニラの卵とじなんて悪魔の料理だね。
ニラレバは喰ったことないから知らん。
「ふふ、そうか。私も負ける事は大嫌いだ。それとトロロも大嫌いだ」
「気が合うな。オレもトロロは大嫌いだ」
トロロとか地獄の食べ物だろ。あんなもんは滅んじまえばいいんだ。
「ところでお前はなんだって闘技場なんかに挑戦に来たんだ? わけわかんねえ。お前みたいなガキが剣闘士やるなんざ早々ねえだろ」
「その言葉、そっくりそのままお前に返してやる」
ごもっともで。
「私はいわゆる武者修行という奴だ。闘技場のある街に来たのは初めてでな。とりあえず挑戦してみたのだ」
「あー、そーすか」
「お前は?」
「オレの村は貧乏でな。オレは奴隷商人に売られてこの剣闘場に放り込まれて、猛獣の餌にされかけたが、猛獣をぶち殺して剣闘士になった」
「なかなか壮絶な人生を送っていたのだな……」
「自覚はしてる」
言いつつもオートミールを飲み込み、スプーンを椀の中に放り投げて一息つく。ああ不味かった。
「まぁ、奴隷剣闘士からは解放されたんだ、さほど気にする事はないさ。とは言え、先立つもんがねぇ。そう言うわけで、ここで金を稼いでる」
「なるほど」
ぼちぼち金は溜まってるが、フェリスの世話代とか、オレの食事代で結構減ってる。
まぁ、全体的に見りゃあ増加傾向にあるから別にいいんだが。
「さて……ぼちぼち行ってくるとするか」
「今日の興行か」
「ああ。よくよく殺し合いが好きと見える。分からんね、そんな神経は」
「そう言うものか?」
「その場に立ってるんなら、話は別だがな。他人の殺し合いなんざ見たって、何が楽しいんだか」
「フッ……そればかりは同感だな」
「よくよく気が合うらしいな」
ぴらぴらと手を振ってオレは歩き出す。向かう先は闘技場。
既に観衆の熱狂の声はここにまで届く程に高まっていた。
オレの中にくすぶっていた炎も、じわじわと熱を上げて燃え盛り始めている。
さあ、ぼちぼち殺し合いだ。
今回の敵は、捕らえられたモンスターが一匹。
ご大層な豚面を引っさげたオークが一匹だ。
なんでも、オーク一匹で武装した人間三人分に匹敵するとか何とか。
あんなデブがねぇ……?
そして、それを相手にするのはちんまいメスガキが一匹。武装は貧弱もいいところ。
なんともまぁ不利なゲーム。だが、オレはやれると直感していた。
分かる。あいつにオレは殺せない。殺せやしない。そう言う風に分かっている。
だから、オレは何一つとして気負うことなく戦いへと赴ける。
「ぼちぼち始めるとしますかねぇ?」
じわじわと嗜虐の炎が燃え上がり始める。
そして、ようやく敵を見つけたオークは小うるさい喚き声を上げて、オレへと挑みかかってきた。
振り上げられた木製の棍棒。人一人分はあるんじゃねえかってくらいデカい。
そんなもんでぶん殴られたら、人間なんざ一発で死ねる。頭を殴られたら頭が吹っ飛んでいくんじゃねえか?
そんな事を考えながら、振り下ろされた棍棒を無造作に受け止める。
全身の骨格にかかる重圧。腕の骨が軋んだ。
だが、その負荷はどれもこれも許容範囲のうち。少々堪えるが、さほどのもんじゃねえ。
オレは笑みを浮かべると、受け止めた棍棒を掴んだ。
「どうした、木偶の坊。その太い腕は飾りか?」
渾身の力を込めて棍棒をこちらに引っ張り込めば、みしみしと音を立ててオークの腕が軋んだ。
オークは悲鳴を上げると、その痛みから逃れるべく棍棒を手放した。
「間抜けが」
奪い取った棍棒を持ち替え、左手一本で握った。
そして、体ごと振り回す全力のスイング。
その一撃でオークの頭がぐしゃぐしゃのミンチになり、オークの体は小汚い血を噴出する不細工なオブジェに成り下がる。
血に汚れたくもない。一歩後ろに下がると、眼前にびちゃびちゃと血液が落ちた。
手に持った棍棒を投げ捨てる。こんなもん持ってたって邪魔だ。
「あっけねぇ、くだらねぇ……」
だが、悪くない気分だった。
他者が朽ち果てる事で、己の強さを認識する事が出来る。
オレはこいつより強かった。その事実が端的な形として現れた。
即ち、死者と生者。その二極に分かれる事で、双方の強さを認識する事が出来る。
負けた方が弱い。勝った方が強い。ただそれだけの至極シンプルな答え。
ああ、悪くない。
しかし、欲求不満なモンが残るのもまた事実だった。
とは言え、これでオレの試合は終わっちまった。なら仕方ない。
欲求不満でもやるべきことをやり終えたらさっさと退場しなくちゃならない。
サービス残業なんてものは剣闘士に求められちゃいないのだ。
そう思った時、幾つもの喧しい豚の鳴き声。
もう次の興行が始まるのかと思い、さっさと下がるかと思って振り返れば、そこには未だ閉ざされた出入り口。
前に向き直れば、相手側の入り口から入り込んでくる、三匹のオーク。
ふと上を見上げて見れば、そこには笑みを浮かべる興行の主催者が居た。
誰だったか。確か、この町の金貸し。その金貸しが出資して始めさせた興行。
あまりいい噂は聞かない奴だった。ツラも下衆のそれだ。
この町に来て日の浅いオレですらいい噂を聞いてない程に、悪い噂って奴が大量に流れてるんだ。
なんでも、その金貸しの買った奴隷って奴がすぐに死んじまって評判が悪いんだとか。
そんでもって、買っていく奴隷はどいつもこいつも若い……いやさ、幼い女だって噂だ。
そう、オレと同じくらいの。
「ああ……なんか読めてきやがった」
つまりアイツはド変態ヤローだってワケだ。んでもって、公開虐殺ショーでもやりたくなったってか?
標的はオレ。弱い方の幼い女を狙ったんだろう。
リンとの戦いで勝ちはしたが、純粋な戦力を計った場合、オレの方が弱い事は多少なりとも戦いを知る者であれば明白だ。
だからオレを狙ったってわけか。多少なりとも頭はキレるようじゃねーか。
だが、生き汚さを計算に入れんのを忘れたみてぇだな。
「いいぜ。乗ってやろうじゃねえか。テメェの下らねえ遊びに」
中指をおっ立てたサインで意思を告げてやる。そうしてから、この世界にはファックサインが無い事を思い出した。
苛立ち紛れに激しく舌打ちをして、オレは改めて右手のグラディウスを握り直す。
「さてさて……どんだけのボンクラが来やがるのか、見物だな」
視線を敵選手の入場してくる方へと向けてみれば、そこからは三匹のオークが雁首を揃えて出てくる姿があった。
そいつらはまるっきり豚のように喚いたかと思うと、ボロクズになった仲間の死体を発見して殊更喧しく喚いた。
「豚にも仲間の死を想う感情なんてあるのか? ああ、そう言えば豚って頭がいいんだったか。どれだけ本当か分かったもんじゃねえが」
なんでも犬より賢いらしいが、この豚どもはどうなんだか。
まぁ、どれだけ賢かろうが関係ねぇか。
「どうせ、ぶち殺すだけだ」
自然と笑みが浮かび、炎が噴き出ていた。
もはや呼吸をするかのように溢れる焔。滾る熱はオレの皮膚を焼く事はなく、ただ髪を靡かせるだけだった。
そして、オレは猛然と走り出していた。
それに呼応するかのように、豚どもが走り出しオレへと棍棒を振り上げて襲い掛かってくる。
「ハッ! おせぇ!」
地を蹴り、跳躍。豚どもの頭上よりも高く飛び上がったオレは、空中のすれ違い様、オークの頭をかち割っていた。
まずは一匹。
残る豚二匹の背後へと着地。完全に背中を晒した豚ども。
あと振り返るのに何秒かかる? 一秒か? もっと短いか? どっちにしろ、それまでに一匹は死んでる。
そう考えながらも半ば無意識のうちに刃は奔り、その一撃は豚の一匹の腰から下を真っ二つに両断していた。
ああ、もう二匹殺しちまいやがってんの。いつの間にこれだけ上手く殺せるようになったのやら。
「弱ぇんだよ、雑魚が!」
罵声を吐き、手に持ったグラディウスを一瞬眺める。
酷く刃こぼれしている箇所があった。無理やり叩っ切ったんだ、これくらいは想定済みだ。
そしてオレは残る一匹が悲鳴のような鳴き声を上げて逃げ出すのを鼻で嗤うと、諸手となっている左手を強く握り締めて、その豚の背に拳を叩き込んだ。
「根こそぎ、消し飛んじまいなぁ!」
超高密度に圧縮された焔の一撃。拳と共に打ち込まれたそれ、【ペインキラー】はただの一撃でそいつを消し飛ばしていた。
体表面で炸裂し、体内へと潜り込むと臓腑から何から何までを蹂躙して、最後には沸騰した血液が爆発を起こす。
ぼんっ、そんな間抜けな爆発音。その音と共に、そこいら中に血肉が飛び散る。
ぐちゃぐちゃのミンチに成り果てたオークはそれこそ何が起きたのかを理解する暇もなく即死しただろう。
ほら、どうだ。痛みもないままに死ねたろ? 鎮痛剤要らずってわけだ。
「ハッ……雑魚どもが」
吐き捨て、足元にグラディウスを突き刺す。
ふらつく。さすがにキツかった。あの技、【ペインキラー】を実戦投入したのは初めてだった。いや、炎自体をまともに実戦投入するのはこれが初めてだ。
オレの意思に呼応して吹き上がる炎を利用した技。他にも幾つか考えてある。
それらの技を試してやろうと思ったが、予想以上に消耗が激しい。
頭はくらくらするし、呼吸はなぜか荒くなる。クソが。
高密度に圧縮するという真似が負担になっているのか、あるいはそもそも大量の熱量を篭めすぎたのか。
どっちかは分からん。だが、この程度の技が使えなきゃならねぇのは確かだ。
なら、無理でもなんでも使っていくしかない。そして慣れる。感覚を掴む。
実戦投入の練習なんざ実戦で使っていくしかねえんだ。
それは練習じゃなくて本番だろうって言葉が頭の中で聞こえて来た気がするが、ンなこた先刻承知よ。
無理でも無茶でもやるしかねえんだ。
そう思いながら、強く息を吸い込んだ。
空気中にある何か。それを吸い込むように。
だが、相手は息を整える暇も与えちゃくれなかった。
続いて入場口から現れたのは矮躯の人型。
浅黒い肌をしたそいつらは粗末なボロ布を身に着け、キーキーと喚いている。
ゴブリン。そう呼ばれる生物。
大した敵ではない。そう、大した敵では。
ゴブリンは数十匹集まってようやくオーク一匹に勝てるような弱い生物だ。
時として異常な程に優れた能力を持った奴も現れるが、肉体的能力は皆低い。
だが、ゴブリンには他の種族にない特色がある。
繁殖力の強さ。それだけ。
二匹居れば、後はネズミ算式に増えていく。たったの一年で国家を形成するに足るほどの数まで増殖するのだ。
奴等は数百匹以上の軍勢を成して人里に害を与える。
その特色を生かすためなのか何なのかは知らないが、入場口からは湧きでるようにしてゴブリンが溢れ出してくる。
その数はもう五十匹を超えて、三桁にも届こうかという程だ。
「なかなかヘヴィだな……」
鎧袖一触と薙ぎ払える敵ではある。だが……戦えば疲労は溜まる。不意を突かれれば傷がつく。
ゴブリンは数を頼りに襲い掛かってくるしち面倒臭い敵だ。
正直、あまり好き好んで突っ込みたいとは思えない。
あの数はそれだけで十二分な程の戦闘力がある。
しかし、ここは逃げ場のない闘技場だ。逃げる事は出来ない。
ならば、叩き潰すしかない。一体どうやって?
そんな事は分かり切っている。真正面から叩き殺す。それしかない。
「加えて、それしか脳が無いしな、オレは」
魔法が使えるわけじゃない、何か妙な能力があるわけでもない。
炎も体から離して使えるわけじゃない。真っ向から挑んでいく。それしか脳が無いんだ。
だったら、妙な小細工を使っても意味がない。正面から叩き潰す。
「行くか」
独り言ちて、剣を強く握りしめる。硬い手触りが不思議と勇気を呼び起こした。
「よっしゃああああああああっ! 纏めてぶっ殺してやらぁぁっ!」
雄叫びを上げて、真っ直ぐに突き進む。
一撃目。全力で叩き付けた横薙ぎの斬撃が数匹のゴブリンを纏めて両断し、鈍く重い音を立てた。
乱雑に、力任せに、思いっ切り振り回す。ただそれだけで目の前の敵が血の詰まった血袋に変わり果てる。
振り回す、振り回す。それだけ。それ以外の手立てがあるものか。
目の前の敵を薙ぎ払い続ける。それだけ。
そして、唐突に左足に激痛が走った。
驚きに一瞬動きが止まり、その隙を突いたゴブリンがオレへと飛びかかってきた。
「クソッ! ジャマだ!」
自分とそう大して体躯の変わらないゴブリンは殴り易かった。
諸手となっている左手で思いっ切り殴りつければ、頭蓋骨が砕ける感触が拳に伝わりゴブリンは物言わぬ骸と成り果てる。
これで一安心したかと思った時にはもう、自分が下策を取ったと理解した。
一匹のゴブリンを殴り殺した時点で、既に三匹以上のゴブリンが後に続いて飛びかかって来ていた。
剣を振る事も間に合わず、拳を振るっても倒せるのは一匹限り。
悪あがきに繰り出した拳は一匹目のゴブリンの首を捩じ切ったが、続いて飛びかかってきたゴブリンが左腕に食いついた。
「ぐっ!」
そして、何匹ものゴブリンが群がり、オレは地面に押し倒された。
全身に噛み付き、皮膚を引き裂こうと這いずる爪先。
体にのしかかる重圧は強くなり続け、起き上がる事も出来そうには無く。
「てんめぇ……! ふざけんじゃねぇぇぇえっ!」
湧き上がる苛立ちに任せ、全力で炎を放った。
きっと、外から見ていた奴等には天を貫くような火柱が上がったのが見えただろう。
オレを中心に立ち上った火柱はオレにのしかかっていたゴブリンを吹き飛ばし、そしてオレも吹き飛ばしていた。
「がはっ、ぐえっ!」
爆圧で吹き飛び、地面を転げながらも必死で体勢を立て直して何とか立ち上がる。
耳がキンキンしやがる。つうか、聴覚が変だ。鼓膜が破れたかもしれねぇ。
目を開けてみれば、右目の視界が歪に歪み、見えない箇所もあった。
全身に痛みも感じる。皮膚が引き攣り、腹に裂傷が走っている事も分かった。
「はぁ、はぁ……うっ……ごほっ、げほ……がはッ!」
抗い切れない感覚に咳き込むと、乾いた嫌な咳が出た。
それどころか、こみあげてくる何かは咳と共に飛び出し、オレの手にぶちまけられた。
それは鮮やかな紅色。酸素を豊富に含んだ血液。
「肺、か……?」
喉に痛みは感じない。ただ、呼吸をしても、苦しい。
まるで地に居ながらして溺れているかのように、吸い込んでも吸い込んでも酸素が体に巡って行かない感覚。
恐らく肺胞出血。拙い。途轍もなく拙い。
「ぐっ……クソが……!」
歪む視界。回る世界。体はなにかを欲するように、ぜひゅーぜひゅーと抜けるような音を立てて呼気を吸い込む。
だが、全身に酸素が巡って行かないような酷い倦怠感がそれを阻害し、体はまともに動いてくれようとしなかった。
さっき立てたのが奇跡のようにすら思えてくる。
最初に漲っていた力は何処かへと消え失せてしまい、今は酷い倦怠感が全身を蝕んでいた。
ただでさえ悪い視界は刻一刻と悪くなり続け、感覚すらも鈍くなっていく。
奇妙な音の反響を伴う聴覚はロクに使い物にならず、キーキーと喧しいゴブリンが近いのか遠いのかすらも分からない。
「クソが……!」
もう一度、悪態を吐く。それで状況が好転するわけじゃない。
そう、目の前には敵が居る。なら、戦わなければいけない。例え最悪の状況だったとしても。
血反吐を吐いて居ようと、目が見えなくなっても、耳が聞こえなくても、瀕死の状態でも。生きている限りは戦わなければいけない。
今この瞬間、生きているのならば。戦い続けなければならない。戦わなければ生き残れない。生きていけないのならば、剣を執り戦うしかない。
そう、生きとし生ける者全ては生きるために戦わなければならない。生きる事そのものが戦いなのだから。
そして、戦って、生き残ったならば、それだけで勝ちだ。
例え血反吐を吐き散らしていようが、眼が見えなかろうが、耳が聞こえなかろうが、一秒後に死ぬ瀕死の状態であろうとも。生き残ったのならば、それで勝ちなのだ。
ならば、戦う。オレは生きたい。生きたい。まだ生きていたい。
ここで死にたくない。オレが死ぬべき場所は、こんなところじゃない。オレはまだ全力を尽くしていないのだから。
全力を尽くした末に残された道筋が死であるのならば死でも甘受しよう。だが、取り得る手段が他にありながらも死を受け入れたのであれば、後悔する事は間違いがなかった。
だから、オレは。
「戦う……!」
未だ握り締めていた剣を強く握りしめ、眼を見開く。
かすむ視界の中に見える者は全て敵。であれば、そこに挑みかかって行けば、それでいい。
ぜんぶ、殺してしまえばいい。
さあ、行くぞ。