第一話《ケータイ貸して》
『お兄ちゃん!ケータイ貸して!』
「はい?」
妹が俺の部屋に来るなり開口一番の台詞だ。妹は時々俺の部屋に乱入して来ては変なお願いをしてくる。
「お前な…自分の携帯使えよな。
まさか"また"壊したのか?」
ちなみにだが…妹の携帯は一年持たずにスクラップ行きとなる。
物持ちの良い俺を少しは見習って欲しいものだ。
「失礼な!別に壊れてないもん!ほら!」
そう言いながら妹は俺の眼前で携帯を開いた。
確かに壊れた感じでは無い。
無いのだが…強いてツッコミを入れるならば、待受画面のボディービルダーが厳ついスマイルでダブルバイセクシャルを決めているくらいだ。
「壊れて無いなら自分の携帯を使え!確か通話放題プランのはずだよな。」
「私のケータイじゃダメなの!兄ちゃんのケータイじゃないと!」
何故そこまで俺の携帯に固執するんだ…?
は!まさか俺の秘蔵の人様に見せてはいけない動画を消去するつもりか!
我が妹ながら恐ろしい…
「あ、別にお兄ちゃんが集めてるAKBの水着を編集して集めた動画に興味無いから安心して。」
『何でお前が動画の事を知ってんだよ!』
「くっくっく…お兄ちゃんのケータイの中身なら何でも知ってるよぉ…」
『お前怖いよ!!!』
いかん…いつもながらコイツの得体が知れない。
「で?俺の携帯をどうする気だ?」
「いやほら、お兄ちゃんのケータイってワンセグ対応じゃない?
観たいアニメがあるの!」
「テレビなら居間で観ろよな。」
「ダメダメ!お母さんが居るから恥ずかしいもん!」
恥ずかしいアニメってなんだ…
「あ~お兄ちゃん今エッチぃエロアニメの事考えてた~」
『ちげぇよ!夕方6時で、んなもん放送するか!』
「とにかく貸して?」
駄目だ…コイツは一度言い出したら聞かない…
仕方ないので携帯を渡す事にする。
…何か細工されそうで嫌なんだが…
「わぁいありがとう!ちょっと待っててね!」
トタトタと走り出したと思ったら自分の机の椅子を俺の隣に持って来た…
「準備完了!一緒に観ようね!」
何でコイツと一緒にアニメを観ないとならないんだ!「待て待て!自分の部屋で観ろよ。俺は宿題で忙しいんだよ!」
「えぇぇぇ!一緒に観ようよ~!
ほら!一緒だとお兄ちゃんのケータイを細工しなくて済むし!」
脅しですか!
しかし一緒なら確かに変に携帯を弄られる前に阻止が可能だ…
別に一緒にアニメを観たい訳じゃないんだからね!…と心の中で思わずツンデレ化してみた。
しばらくCMや番宣が携帯画面に表示される…
しかし狭い机で何故妹とピッタリ寄り添いながら携帯画面を眺めなきゃいけないんだ?
「あ、ほら始まった!私が今一番のフェイバリットアニメだよ。」
妹がそう言いながら指した画面に表示されたアニメのタイトルが…
《魔法の子かなお》
………。
「一つ質問したいんだが?」
「なあに?」
「この主人公は男?女?」
「さぁ?知らないよ。何かドレスの時は女の子の恰好だけど、啖呵を切る時は上半身裸でムキムキなマッチョになるし。」
…コイツはただマッチョが観たいだけじゃないのか?
とにかくアニメは終わった…
結局最後まで主人公が男か女か判らなかった…
それはともかく、何故かコイツは俺の隣から移動しない…
「あのね…お兄ちゃんに相談があるの…」
…何だ?急にあらたまって。
「相談?」
「うん…相談。今日学校で美樹ちゃんから好きな人が出来たって相談されたんだけど。」
美樹ちゃんとは妹の親友だ。
「相手の男の子の気持ちを知る為に作戦を練る事にしたの。」
「…ふぅん。」
「けど、詳しく聞いたら違う学校の男子らしくてさぁ。
同じ学校なら偶然を装う事も出来るけど、会いに行っちゃったら間違い無く目的がそれって判っちゃうよね?」
「…まぁ確かに。」
「だからね、匿名の手紙で呼び出してみようかなって美樹ちゃんと決めたんだ。」
「…まぁ、良いんじゃないか?」
「そんな話を学校でしてたの。以上!!」
待て待て待て!!!
「俺は結局なんの相談をされたんだ?」
「相談?」
『不思議そうな顔をすんな!相談したいって言ったのはお前だ!』「いや別に相談なんて無いよ?単に暇だったから?」
疑問形かよ!!
何で俺は妹とガールズトークをしなきゃならないんだ!!
「ほら!お兄ちゃんは女の子の気持ちを知る男と評判じゃん!」
『勝手に評判を捏造するなよ!彼女居ない歴16年の俺と知ってての狼藉か!』
その時…居間の方から母さんがご飯出来たよと呼び出された。
そして気付けばアイツは既にこの部屋から消えていた…
どうやら母さんが呼んだと同時にご飯へと飛んでく勢いで走って行ったらしい…
結局我が妹は俺に対して何がしたいのか…
それは俺の永久課題だと思う今日この頃だった。
~第一話~おしまい