デートと違和感
「神田先輩。…先輩?大丈夫ですか?」
「…ぇ、あ、あぁ。うん。平気。」
ぼんやりと考えこんでいたら、怪訝そうな声で名前を呼ばれる。決して心配そうな、ではない。
「ところで、この後どうする?王道的に映画でも見ようか?…あ。それと、優希って呼んでいい?」
あれから少し川村と話して、小林と合流した。今は学校を出てこれからどうするかを相談しているところだ。
話を聞いてなかった詫びを込めて、質問の形ではあるが一応候補は上げておく。グダグダと時間ばかりを消費するのは嫌だし、そんなことなら帰ってゲームでもする方がマシだ。
「映画だったら、何を見るかはお任せします。私、今どんなものがあるか詳しくないですし…。いいですよ。なら私は尚って呼んでもいいですか?私たち、付き合ってるんですし。」
嫌がるだろうなと少し期待してたのに、返ってきたのは柔らかな笑顔と好意的…に見える言葉。しかし。付き合っている、の部分に棘がある気がするな…。俺は先程の川村の言葉を思い出していた。
あの子、尚…神田くんのこと、好きじゃないって言ってたよ。それでも付き合うの?
川村の心配そうな、複雑そうな顔を思い出して笑う。…心配なんてしなくていいのに。好きじゃない、のは俺だって一緒なんだから。
「ありがとう優希。俺も尚って呼ばれる方が嬉しいかな。じゃあ映画で決まりってことで。無難に恋愛ものでいいよね?えっと、時間は…」
こちらも完璧な笑顔で返し、ケータイで上映スケジュールを見る。それにしても、嫌がる顔が見たいとか。俺って実はSなのかな?いや、あの冷たい顔が見たいんだからM、か。…嫌だな変な扉開いちゃいそう。
「あ〜。まだ1時間ちょっとあるね。どうしよっか…。ゲーセンとか行ってみない?暇つぶしに。」
「あ、いいですよ。友達と遊ぶときはめったに行かないし、久しぶりだから楽しみです。」
確かに、女子が集まったらカラオケか買い物かプリクラかのどれかなイメージだな。ゲーセンでがっつり遊ぶのは珍しいか。まぁ、慣れてなくても1時間くらいなら飽きずに楽しめるよな。
そう考えていた30分後。
「え、っと。…優希って実はプロ?」
「まさか。というか、ゲームにプロとかあるんですか?」
半分以上本気の俺の言葉を、優希は簡単に笑い飛ばした。
いやいや…あり得ないだろ…マジで。
クレーンゲームから始まり、太鼓の達人にレースゲーム。スロットにエアホッケーに格闘ゲームと、全てが凄かった。本当に。ちなみに、今まさに俺の使用するキャラクターが、彼女のキャラクターにコンボを決められK.Oされた。5回勝負を挑んで、いずれも敗北。それも、相手の体力を半分削ることすら出来なかった。
「自信失うなぁ。というか本当にプロ級だと思うよ?これでもゲームは得意な方なのに。…はは。説得力ないか。」
「あ、いや、上手だと思いますよ?まぁ、これでも全国ランキングで上位に入ることあるんですよね。友達とは来ないから普段は言いませんけど。*you*って名前で登録してて…、」
「え!マジで?入ることあるっていうか、ハイスコア連発してるじゃん!」
苦笑まじりに言えば思いがけない言葉が返ってきて更に驚く。本気で驚く俺の顔を見て、優希が珍しいものを見たというように、声を上げて楽しげに笑った。うわ…珍しいもの見た。
「びっくりした〜。いっつも名前あるから誰かと思えば…。あ、そうか。優希だから*you*なんだ?」
「…はい。そのまんまって感じですけどね?」
優希が、続けた俺の言葉に少し、ほんの少しだけ空気を変えた。笑顔も、本当に楽しそうなはずなのに微妙に固くなったのが分かった。…けれど。
「ていうか、気付いたらもう時間過ぎてますけど…。どうします?」
「うわ!本当だ。あ〜…ごめん!俺が何回もリベンジさせてって言ったから…。これからだと遅いし、また今度にしようか。」
空気を変えるように話題をそらした彼女の言葉に乗って、何も気づかないふりをした。
遠慮する優希を駅まで送り、手を振って別れる。家のベッドに寝転がり、ゲームセンターでの、あの時の優希のことを思い出す。何だったんだろう?しばらく考える。まぁ、別にお互いに好きじゃないんだし、言わないなら聞く必要もないか。聞きたい訳でもないし。
そう結論づけて、目を閉じる。いつもは抜群に寝付きがいいはずなのに、俺は今日に限ってなかなか眠ることが出来なかった。