友人の戸惑いとデート
翌日の放課後。部活に行くために教室を出ようとした高橋を呼び止めて、
「あ、そういえば言い忘れてたけど、俺、小林優希さんと付き合うことになりました〜。」
「は?いや、どういうこと?」
ぱちぱちぱち〜。なんて口でいいながら報告すれば、冷静にツッコまれた。まぁ、そりゃそうなるよね。
「どういうことって…そういうことだよ。それじゃね。」
カバンを手にその横をすり抜ける。そのまま出ていこうとすれば、腕を掴まれ引き止められる。
「いや、それで分かる訳ないだろ!どういう流れでそうなったんだよ?何で小林さん…川村の後輩だぞ。別れ話の時だって一緒に居たんだよな?それがどうして…、」
不思議でたまらない、というよりは信じられない。という表情で疑問を投げかけてくる。…高橋はお節介だ。男女の付き合いに部外者が首を突っ込むべきじゃない。
けれど、高橋の疑問ももっともだった。高橋から見れば小林さんは、自分の尊敬する先輩をフった俺に抗議するために、わざわざ直談判するような女の子だ。そんな過剰な正義感を持つ彼女が俺と付き合うなんて、おかしいと思っても不思議ではない。しかも高橋は俺がこの数日、小林さんと会えていなかったことを知っている。
でも残念なことに、小林さんは高橋の思うように、正義感が強いだけの女の子ではない。はずだ。
俺は昨日のお願いで彼女に付き合って欲しいと言ってみた。すると彼女はあっさり了承した。その上あの冷ややかな笑顔で、浮気しないで下さいね?妬いちゃいますから。とまで言ってのけた。
浮気なんてするわけないだろ?俺は一途な男なんだ。爽やかに笑いながらそう返せば、眉をひそめられた。今思い返すと、ちょっと失礼じゃないかと思う。
「好きになっちゃったんだから仕方ないだろ。ていうかお前部活!キャプテンが遅刻なんてまずいだろ。俺もこれからデートだし。」
教室の壁に掛かった時計を指差してみせると、ちらりと時間を確認した高橋が舌打ちをして俺から手を離す。ちっ。いつもの爽やかイケメンの高橋くんがすることとは思えないな。ようやくこいつの余裕を崩せた気がして、思わず笑いそうになるのを堪える。
「わ〜かったよ。今度時間があるときにちゃんと説明するから。な?とりあえず今日はもう部活行けって。」
苦笑しながら言えば、渋々ながら教室を出て行った。約束だからな!なんて言い残して。小学生みたいだと思いながら自分の席に着き、ケータイを開く。新着メールは3件。そのうち2件はサイトのメルマガ。中身も見ずに削除する。残りの1件は…
「…ごめん。待った?」
ドアを開けて入って来た人物に声を掛けられる。ケータイを仕舞いながらメールの発信者に目を向ける。
「い〜や。全然。結構早かったね。もしかしてかなり急いで来てくれたの?」
教室の時計に目を向ければ、まだ授業が終わってから10分程しか経っていない。茶化すように問いかければ、眉をひそめて不満そうな表情を浮かべられる。それを見て自然と頬が緩む。
「ごめんって。怒んなよ。それで?話って何なの?、」
口先だけの謝罪をしながら、目の前に立つ人物を見つめる。
「……川村。」
数日前まで付き合っていた元彼女で、現彼女の先輩でもある同級生を見つめて、俺はにっこりと笑った。