持続性のない積極性
「小林優希さん、今いる?」
「ぇ、あ、いえ!今は…。どこ行ったんだろ?すみません、さっきまで居たんですけど…」
昼休み。俺は2年の教室に来ていた。これで三回目の空振り。ストライク!バッターアウト!…なんちゃって。
「ん〜、そっか。ごめんね?ありがとう。」
いえ、こちらこそ…すみません。何も悪くないのに申し訳なさそうにする彼女のクラスメイトに笑ってしまう。知らない先輩が何度も教室に来るなんて鬱陶しいだろうに、良い子だな〜、なんて他人事。
「もしかして。避けられてる、のかな?…自意識過剰か。」
一人言なんて怪しいにも程があると思うのに、思わず呟いてしまう。嫌われるような付き合いではないと思うんだけどな。自分の教室までの短い道を普段より時間をかけて歩く。
「おかえり〜。どうだった?またフられちゃった?」
「残念!フられる以前の問題だよ。いつ行っても居ないしさ。ツチノコの生まれ変わりだと思うな、あの子。」
爽やかにニヤつきながら聞いてくる高橋に軽口で返す。ニヤついてるのに爽やかに見えるのはこいつの人徳だろうか。
「ていうかさ、お前が小林さんのメアド教えてくれればいいだけの話だと思うんだけど?」
そもそもあれは、こいつが川村たちに協力したせいで起こったものだった。俺はあの日、授業が終わるとすぐに教室を出た。川村のクラスを横切らないように、いつも帰る時に使用する階段とは逆のものを使った。仮に見つかるなら下駄箱だろうと思っていたから、その時は靴を履いてさっさと逃げちゃえばいいや。と簡単に考えていた。しかし、俺が捕獲されたのは衆人の目がある廊下。あそこで話も聞かずに逃げてしまえば周りから何て言われるか。
ちなみに話を持ちかけたのは小林さん。高橋はそれに協力して、俺が教室を出るタイミングと帰った方向をメールで知らせていたらしい。…だから、校内のケータイの使用は禁止だって言ってるだろ。
次の日高橋に、川村たちに捕まって大変な目にあった、と笑いながら言えば、その計画と、それに協力したことを謝罪された。小林さんのメアドを持っているのかと聞けば、その時に小林さんからメアドを教えて貰ったのだと教えられた。
「いや〜…それがさ、メアド教えて貰った時に勝手に他の人に教えないで下さいね。って言われててさ…。悪いな。」
申し訳なさそうに言われた言葉に苦笑する。先回りされた感じがしてちょっと悔しい。
「あ、やっぱり?ん〜、まぁ…仕方ないか!」
次の日から時々顔を出してはいるのだが、あの日から一度も会っていない。これは、あれだな。嫌われてるな。うん。そう結論付けて、小林さんの教室に行く途中の購買で買ったパンを取り出す。お詫びだと言って、俺の分も買って来てくれるならと高橋が奢ってくれた。いい奴だ。コロッケパンが非常に美味い。
「メアド教えていいか、小林さんに聞いてみようか?多分、頼んだらいいって言ってくれると思うよ?」
ジャムパンを半分に割りながら高橋が提案してくる。イチゴジャムが微妙に見えてしまい、袋の中を探りながらさりげなく体をずらし、目をそらす。
「ん〜?あ〜、どうしようかな、」
取り出したのは、さっきついでに自販機で買った缶コーヒー。いつものが売り切れてたから仕方なく買った、パッケージがちょっと格好良かったから選んでみた違うメーカーのやつ。プルタブを開けて、一口飲む。
「ん〜…もういいや。いらない。」
「あ、そう?ならいいけど。」
確かに面白そうだと思ったけれど。
「あ、あとこれもいいや。あげる。たまにはいつもと違うのもいいかと思ったんだけどな〜。」
「あれ、何?美味しくなかった?」
「ん〜…なんて言うか…」
あの瞬間は、本当に嬉しかったし、楽しそうだと思ったけれど。
「…期待外れ?」
「はは、酷いな。その言い方。」
高橋が苦笑しながらコーヒーに手を伸ばす。一口飲む。
「ん、普通に美味いじゃん!贅沢だなぁ。」
「すっごく美味いと思ったんだよね、なんとなく。普通じゃなくてさ。だからね、ちょっとがっかり。」
はいはい。しょうがないなぁ。と言う高橋に、ガキ扱いすんなよ、ととりあえずツッコミを入れる。
それにしても…ちょっと会えなかったくらいでこんなに興味がなくなるなんて。俺ってひょっとして飽きっぽいのかな?ゲームとかは飽きたことないけど。
まぁ、いいか。どうでもいいし。そう簡単に片付ける。そうすればすぐに、小林さんのことも、いつもと違うコーヒーのことも、いとも簡単に意識から外れていった。