再度の別れと、好奇心
洒落たカフェ。女子高生の笑い声をBGMに俺たちは向かいあっている。俺の目の前には俯いて黙りこんでいる川村。そしてその隣には、
「ちゃんと先輩の話を聞いてあげて欲しいんです。」
…先輩思いの後輩の小林さん。第一印象の通り、しっかりとした口調で喋る。目力が強いから、こうも真っ直ぐ見られると何だか居心地が悪くなりそうだ。居心地が悪くても居座るけどね。面白いし。
「そんな事言われても…。一度別れたんだし、やり直すなんて出来ないから、さ。」
「本気じゃなかったの!あの時は本当におかしくて…尚の気持ちが知りたくて、それで!」
今まで無言だった川村が悲痛な声で訴えかけてくる。充血した目と、綺麗なキューティクルの髪とがアンバランスだ。悲しい悲しいと言いながら、風呂で念入りに髪の手入れをしているのを想像すると噴き出しそうになる。
付き合った女の子のバスタイムを思い浮かべて、セクシー、ではなく面白いと思う男は、俺以外にはなかなか居ないんじゃないかな。
「俺の気持ちって、そんなに分かりづらかった、かな?…自分では一生懸命伝えたつもりだったんだけど、な。だとしたら、もしまた付き合っても同じことだと思うんだよね。だから、ごめん。」
切なそうな、痛ましいような表情で別れの言葉を口にする。やり過ぎかな、と思わないこともなかったが、目の前には何故だか感激したような顔をした女。ここまで思われてたなんて…!嬉しい!ってところだろうか。はは、笑える。
俺の言ってることは、嘘じゃない。ちゃんと好きだったし、それを言葉に出して伝えもした。その好きは、目の前の彼女を満足させてはくれなかったようだが。だからといって彼女の望む通りに奴隷になる気はさらさらない。
「そう、だよね…。分かった。今まで、ありがとう。」
儚げに笑いながらそういった川村の目には、確かな優越感。どうやら俺の台詞は彼女の自尊心を慰めてくれたらしい。良かった良かった。
すっきりした顔で、別れを受け入れた川村が席を立つ。
「最後に話せて良かった。ありがとう。それじゃあ、ね。優希も、今日はありがとう。ここは私が出すね?迷惑かけちゃったから…」
「いや、そんな!奢ってもらうなんて悪いですよ!私なんて何もしてませんし…。」
「遠慮しないで、ね?」
「いや、でも…。っあ、!」
二人が善意の押し付け合いをしているのを尻目に、テーブルの伝票を取ってさっさとレジに向かう。コーヒーが二つにミルクティーが一つ。千円を出して支払い、お釣りを受け取る。
「すみません、あの、お金…!」
「あ〜…いいよいいよ。このくらい。気にしないで。」
律儀に財布を出しながら言う後輩に笑って手を振る。すると、こちらを見た後に視線を落とし、不服そうにするから笑ってしまった。負けず嫌いって言うかなんて言うか…。まぁ、純粋に俺に貸しを作りたくないんだろうけど。
「もう…最後くらい格好つけさせてくれればよかったのに。」
「ごめんって。でもこういう時は男が出すでしょ。普通?」
柔らかく笑う元彼女を見て、さぞやモテるんだろうな、とようやく再認識。紳士な対応に慣れている感じがある。俺は紳士なんかじゃないけれど。
カフェを出た後は、二人を駅まで送る。駅に着いたら、ありきたりな、じゃあね。またね。のやり取りをしてお別れ。
来た方向に足を向け、歩き出そうとしたが立ち止まり、帰る前に自販機で飲み物でも買おうか、とカバンを探る。
ふと駅の中を見れば、小林さんがベンチから立ち上がり、それじゃあ、先輩。また明日!なんて声をかけているところだった。うん。今日はありがとう!また学校でね!川村がそう応えると丁度ホームに車両が入ってくるところだった。ホームに居た友人と仲良く談笑しながら乗り込んでいる。ぼんやり眺めていれば、俺に気付いた川村に声をかけられた。
「あれ、尚?びっくりした〜、どうしたの?もう帰ったと思ってたよ。」
「あ、川村。いや、ジュースでも買ってから帰ろうかと思って、ちょっと。川村は?時間までまだ少しあるの?」
当たり障りのない会話。ホームに響いた発射音につられ、目を向けると、丁度窓際に立つあの子が見えた。数人の友人たちと楽しそうに話している。川村が何か俺に話しかけている。それに生返事を返し、動き出した車体に再び目を向けた。…目を見張る。
ほんの一瞬。友人たちと笑いあい、ふと視線を足元に落とす、その一瞬。あの時、廊下で見せたあの冷めきった目。酷く退屈そうな表情。
しかしすぐにそれはかき消え、活発そうな印象の笑顔が戻る。その一連の、数秒の出来事を目撃したことに思わず微笑んだ。
「ちょっと、尚?質問しといて聞いてないの?もう…。え〜っと私は、と。何飲もうかな…」
いつの間にか自販機までついて来ていたらしい川村に文句を言われるが、ごめんごめん。と軽く流す。
「悪いと思ってないでしょ?本当にもう…。って、またコーヒーだし。そんなに好きなの?」
「え?あ、はは。うん、まぁ…好きっていうか…、」
あのカフェでも注文した、コーヒー。同じものを注文したあの後輩のことを、正確にはさっき見た表情を思い出す。
「お気に入り。って感じ?」
俺は明日からの生活が楽しみで、嬉しそうに笑った。