午後の憂鬱
昼休みになると、高橋はすぐに隣に来た。張り切りすぎじゃね?いつもつるむ奴は決まってるから、隣の席の奴も昼休みになると自然に他の席に移る。悪いな。席に座るときに高橋はいつも持ち主にそう一言断わってから座る。いつものことなんだから毎回礼を言わなくてもいいと思うんだけどな。こいつの人柄ってことだろうか。
「お〜い?どうした?食う前から何か付いてる?」
ついガン見してしまっていたらしい。高橋が苦笑しながら問いかけてきた。俺が購買で買ってきたパンを一つ取り、自分の方の机に置く。
「あ、うん?別に何でもないない。あ、ていうかさ、何で昨日のこと知ってんの?タネ明かしプリーズ」
ぼんやりしていた思考を戻し、高橋からは切り出しづらいだろう話題を振ってやる。何で知ってるか教えてやろうか?なんて得意顔で言ってくるような人間ではない。
「いや、あの、な?うん…あ〜っと…そのことなんだけど…お前が昨日フられた、川村ってさ、俺の妹の友達なんだよね。だから、さ。」
「妹を中継して色々相談乗ってた…とか?」
「う、ん。まぁ、そんな感じ。」
言いにくそうに話す高橋の言葉を引き継いでやると、あっさりと認められる。情報の早さも納得だ。…となると次は、
「何で…その、別れたんだよ?嫌いになったとかじゃない、よな?」
「嫌いになった。っていうのは、まぁ、違うけど。別れて下さいって言われたし?仕方ないかな〜って」
気まずそうな顔で話す高橋に、俺は苦笑に悲しさと諦めを混ぜて返す。フられた男にふさわしい顔で。
「あのさ、別れてって言ったのは、そういうんじゃなくて!川村、何か今、部活で大変らしくてさ。だから、なんか不安になったらしいんだよな。ほら、高橋って何考えてるか分かんない時あるし。いや、悪口じゃねえよ?まぁ、そんな感じで、本当に私の事好きで居てくれてるのかな?って思ったらしくて。それで、」
俺と川村、両方のフォローをしようと必死に言葉を繋ぐ高橋は本当にいい奴だと思う。朝から俺のテンションを上げようとしたり、探りを入れてみたり。本当に性格のいい奴だ。
「高橋の気持ちは分かるけどさ、もう別れちゃったんだし、今さら戻れないと思うんだよな〜。ごめんな?」
申し訳なさそうに、窺うように高橋を見れば。残念そうに、そっか。と呟いて肩を落とす。他人の事でこんなに一生懸命にならなくてもいいと思う。それも俺なんかの為に。こいつは爽やかで、性格が良くてついでに所属しているサッカー部ではキャプテンを務める少女マンガの主人公みたいな奴だけど…人を見る目が無さすぎる。
俺は人の事も自分の事も適当にしか考えられない、わりと最悪な奴だし、別れ話を切り出して相手に引き止めてもらう事で相手の気持ちを測ろうとした川村の行動は、不安とかそんなんじゃなく、ただの自己満足だ。
「とりあえず飯食おうぜ?せっかく奢ってやったのにさ〜。まだ封開けてすらないじゃん!俺も、早く食ってノート取らないとヤバいし。」
まだ苦しそうな顔をしている高橋にそういいながら、購買のコロッケパンにかぶりつく。美味い。それを見た高橋も慌ててホットドッグを食べ始めた。
昼飯が終わればノートを取って、須藤の授業に備えなければならない。時間は限られているのだ。もう別れた女のことで何分も話している暇はない。
午後の授業の時間割を思い出しながら、俺はひそかに舌打ちをした。ちっ。