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他人事な恋  作者: 紫苑
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訪問と疑問


ピンポーン、ピンポーン


日曜日の朝っぱらから、家中にチャイムが鳴り響く。うるさい。…ていうか何この状況?デジャヴかよ。ちっ。布団を頭からかぶり直して二度寝の体制に入る。その瞬間。


ヴヴヴヴヴ…ヴヴヴヴヴ…


枕元に置いたケータイが着信を知らせてくる。サブディスプレイに表示された名前は…


はぁ…。ため息をついて通話ボタンを押し、寝転がったまま右耳に当てる。途端に聞こえてくるハイテンションな声。


「ヤッホー、ダーリン♪」


「おはようハニー。とりあえず切るね。おやすみ。」


「あ〜ダメダメ!切らないで!」


本当に通話を終えようとすると、吉田さんの珍しく焦った声が聞こえる。あぁ、もう。何なの本当に…。体を起こし、横目でチラリと時計を見ると、時刻は13時40分を差していた。


…朝じゃないじゃん。思ったより寝てたんだな俺。


ピンポーン、ピンポーン


「あ〜…とりあえず本当に切るよ?ていうかお客さんが来てるから。それじゃ。」


「え、あ、ちょっと待って。その事なんだけど…、」


分かった分かった。また後でね。ピッ。簡単に別れの挨拶をして通話を終え、玄関に向かう。適当にあった靴のかかとを踏み潰しながら靴箱の上にケータイを置き、ドアを開けると…


「ヤッホー!あいかわらず寝起き悪いな〜尚!」


「こんにちは。…え、この時間まで寝てたんですか?」


そこに居たのは軽く片手をあげながら嫌味なくらい爽やかに笑うケイと、何やら小さな紙袋を持って少し呆れたような顔をしている小林さん。いや、別にいいでしょ?休みの日に昼過ぎまで寝てたって。ていうかケイ、家主の許可なく上がりこもうとすんな馬鹿。とりあえずケイの頭にチョップを落とすと、靴箱の上で震えるケータイ。


ヴヴヴヴヴヴ…ピッ


「あ〜もしもし吉田さん?…何これどういうこと。」


「え〜っと、昨日ケイくんから聞いたんだけど。小林さんが神田くんに話があるらしいから、明日一緒に家に行くつもりだって。メールはしたって言ってたよ。あ、ていうかもう来てるでしょ?…ふっ。あ、失礼。それとお疲れさま。頑張ってねダーリン、応援してるよ!それじゃ!」


ブチッ、ツーツーツーツー


応援してると言いながらさっさと切られた。ていうか鼻で笑ったよね、今?


ゆっくりとケータイをポケットに入れ、玄関にいる2人に向き直る。ケイを見ればあからさまに目をそらされる。ちっ。舌打ちをすれば小林さんの肩がピクリと跳ねたのが見え、ため息をつく。はぁ。


「…とりあえず入れば?」


促して自分はさっさとリビングに入る。ケイがやたら元気良くお邪魔しまーす!と叫んだ後に小林さんの小さな、けれどハキハキとした声が続く。その声を聞きながら、俺は純粋に面倒臭いな、と感じていた。


リビングに案内した後、俺はとりあえずケイにコーヒーを入れさせて朝食兼昼食を食べる事になった。この時間に起きたばかりなら何か胃に入れた方がいい、という小林さんの提案に乗った形だ。元々少食とはいえ、流石に空腹だったので遠慮なく頂いた。


ちなみにメニューは、ごく普通のバタートースト。小林さんが持っていた紙袋。手土産の中身は、わざわざデパートで買ったらしいジャムの詰め合わせだったけれど使わなかった。使う機会なんて無いはずだ。イチゴジャムも入っていたそれは、冷蔵庫の中に入れてある。


使わないんですか?なんて小林さんに聞かれたけれど、もったいないし今度時間に余裕がある時に味わって頂くよ。なんて社交辞令を笑いながら返すだけにした。…本当。面倒臭い。


「それで?わざわざ朝…じゃないか。あ〜…家まで来て何の用?」



「神田先輩、本当に寝起きなんですね。あ〜、えっと。用件というか、お礼がしたくて。…昨日はありがとうございました!映画のチケット下さって。高橋先輩も凄く楽しそうで…本当にありがとうございます。」


まっすぐにこちらを見ながらそう言った小林さんを見て、思わず俯いて苦笑する。真顔ではあるが、目の奥が嬉しさだとか満足感を隠しきれていない。


…嫉妬しちゃうね、本当。


「いえいえ?こちらこそ。ジャムありがとうね。それで…何でケイと一緒だったの?仲良かったっけ?」


コーヒーとトーストを出した後、仕事は終わったとばかりにゲームに熱中しているケイを見ながら言う。…まぁ、正確には熱中しているふり、だろうけど。


「あ〜、それはね!チケットのお礼をしようとデパートをウロウロしていた小林さんを偶然見つけた俺が、どうせなら一緒に行く?って誘ったわけ!あ、ちなみにお土産のジャムの詰め合わせだけど。尚が欲しそうなものって聞かれたから、朝はいっつもトーストだって言ったら、じゃあジャムでも買ってバリエーション増やしてあげよう!ってなったんだよ。」


俺の質問に口を開いた小林さんが発言するより早く、ケイが大体の事情を説明する。なるほどね。ジャムを提案したのは小林さんで、そう仕向けたのはお前か。うんざりした顔でケイを見やれば、にこにことこちらを見返してくる。…面倒臭ぇ。本当に面倒臭ぇ。


ケイの良いところはテンションの上下がなく、自分の感情に振り回されないところだ。俺みたいに寝起きが悪かったからと一日不機嫌だなんてことにはならない。…裏を返せばいつでもハイテンションでウザいということだが、変わらないという事は間違いなくケイの長所だ。そのケイが。


「なるほどなるほど。それで〜?何か言いたいことあるんなら言えば?わざわざジャムまで持って来させて何も無い、なんて事は無いだろ?」


俺の嫌いなジャムを手土産に、いや、そもそも小林さんをわざわざ呼んで来るような、地味な嫌がらせをするなんて。らしくない。こんな、面倒臭いやり方。


「…尚?」


何だよ?返事をすれば、手元のゲーム機から顔を上げて俺を見る。その、表情は…









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