冗談とデート
何ヶ月放置してたんでしょう私は…
久しぶり過ぎてキャラ設定すらも
忘れていました…
これからはぼちぼち更新する予定です!よろしくお願いします(>_<)
「ねえ、そんなに辛気臭い顔しないでくれないかな〜?一応デート中なんだよ今?デート!」
「あ〜ごめんごめん。…とりあえず入ろうか、ここでしょ?お気に入りって言ってた雑貨屋さん。」
吉田さんとのデート当日。晴れ渡る青い空に白い雲。理不尽なまでに世の中を照らす太陽が少し憎く思える…なんて馬鹿なことを考えた。
待ち合わせ場所のバス停では、右耳にかけた髪をバレッタで留めた、いつもより垢抜けた印象の吉田さんが手を振っていた。緩く手を振りかえし、合流してバスに乗り込む。昼前の中途半端な時間だからか、あまり乗客は居なかった。窓の外を眺めながらぼーっとしているうちに到着したバス停から少し歩いたところにあったのは、吉田さんのお気に入りらしい雑貨屋。
「えっと…何これプレハブ小屋?」
「ちょっと!失礼でしょ?」
店構えは正直…うん。隠れ家的な、といえば聞こえはいいが、これどうなの?というほど気を使っていない感じだ。可愛らしい雑貨屋さんにはとても見えない。さっさと入ってしまった吉田さんにつられて、半信半疑で中に入る。
「う、わ…すご、え、かなり予想外なんだけど。」
中は店の外観とは比べ物にならないほど、言い方は悪いがまともな雑貨屋だった。LEDの素っ気ない光とは違う、黄色がかった電球の光が満ちる店内。入り口横には大きなガラスケースがあり、様々なネックレスが並べられていた。その中の一つを手に取ってみると、小さなペンダントトップに薄ピンクの石が嵌められておりシンプルながらも可愛らしいと素直に思った。
店の内部は意外なくらい広く、壁に付けられた棚には写真立てやオルゴール、キーホルダーなどが並んでいる。皮のキーケースを手に取ったり、シルバーのプレートのキーホルダーを持ち上げたり。一つ一つを眺めながら進んでいくと、俺の腰程の高さの机が部屋の隅に設置されているのが目に入った。
近寄ってみれば凝ったデザインのボールペンや万年筆が飾られているのが分かる。中でも目を惹いたのは、深い藍色の光沢のあるボディに、ペン先とクリップ部分がシルバーの万年筆。思わず手を伸ばした瞬間、横から伸びた白く細い指先がそれをさらっていった。
「わ〜。綺麗〜。流石ダーリン!見る目あるね!まぁ、この隠れた店を見つけた私の目には敵わないけどね?」
つい、と顔を上げると、どこから持ってきたのか小さな本のようなものを持った吉田さんが、万年筆を指先で弄びながら満足気な顔で立っていた。本当に気に入ってるんだな、この店のこと。ていうか、何なのそのドヤ顔?何だかさっきまでの感動が薄れた気がするんだけど。…まぁ、でも。
「流石だね。ハニー。僕の好みにピッタリだよ。教えてくれてありがとう。…ところでそれ何?」
「う〜ん、相変わらずスルースキル高いねダーリン!そんな所も素敵!あ、これは手帳だよ。綺麗でしょ?」
冗談めかしてウインクを投げながら掲げてみせたそれは、ベージュとグレーの中間のような色の洋書のような外見の掌に収まるサイズの手帳だった。金色の筆記体で書かれたタイトルは…
Je me souviens
「ねぇ、吉田さん。これどういう意味なの?」
「…、さぁ?どうでもいいじゃん。何かオシャレだな〜、ってぐらいで良いんだよ、意味なんかどうだって。デザートをスイーツって言うのも、スパゲッティじゃなくてパスタって言うのも。私、今日はイタリアンが食べたいな〜!って言うのも。何かオシャレだからってこと以外に意味なんてないよ。」
「いやいや、流石にそれは暴論でしょ?」
あんまりな言い草に苦笑しながら万年筆を返して貰おうと何気なく吉田さんの方に体を向けると、大きな写真立てのような木の枠に入れられたコルクボードに飾られたピアスが目に入った。
金のリングピアス、シルバーのハートがぶら下がった、耳が伸びてしまうのでは?と言いたくなる大きめなもの。色、デザイン、様々なピアスがライトに照らされ光っている。ふと、髪が短いとピアスも似合うんだろうな、と考えて自己嫌悪。思い浮かんだのは高橋と映画館でデートしているだろう彼女の顔だったからだ。
「…気持ちわる。俺。」
ぼそりと吐き捨てるように呟きながらコルクボードから目を逸らす。顔を上げた先では見た目だけは優等生の吉田さんがニヤニヤと笑っていた。
「な〜に〜?ピアス欲しいの?それとも、可愛いあの子に似合うかな☆なんて妄想でもしてた〜?欲しいなら買ってあげてもいいんだよ?」
「吉田さん…本当に最低だと思うよ、いや俺も大概だけど。あとその笑い方いやらしいからヤメテ。」
「まぁ!いやらしいだなんて!ダーリンのエッチ!」
きゃっ!なんて言いながら顔をわざとらしく隠す仕草に苛立って舌打ちをする。ちっ。こちらを見てないのをいいことに万年筆と手帳を取り上げると、慌てて取り戻そうとするから届かないように頭上に高く掲げて歩き出す。
ちょっと、神田くん?大人げないよそれ。かっこ悪い!ハイハイ、かっこ悪くて結構ですよ。
なんてやり取りをしながら向かったのは店の中央にあったレジ。中では小さい丸椅子に座って文庫本を広げている、長めの黒髪にたれ目の人の良さそうなお兄さんがにこにこしながらこちらを見ていた。
微笑ましそうな視線が居心地悪く、ちょっと、神田くん⁈とヒソヒソ声で騒ぐ吉田さんは無視。お兄さんに手帳だけラッピングをしてくれるよう頼んでさっさと会計を済ませてしまう。万年筆をポケットに刺して、くるりと振り返って満面の笑み。
「はい、どうぞ?」
茶封筒のような袋に入れられ、切手風のシールで封をされた手帳を吉田さんに差し出す。ニヤニヤと笑いながら見ると、いつもの余裕そうに俺をからかう彼女らしからぬ困り顔で。
「……あ〜…どうも?あとその顔いやらしいからやめた方がいいよ?」
不本意そうに礼を言いながら、受け取った包みに眉を顰める。その様子に思わず笑ってしまった。すると即座に、何笑ってんの?とツッコミが入るがごめんごめん、の一言で流してさっさと出口に向かう。
誰も買ってなんて言ってないのに。吉田さんの言葉をスルーしながら気づかれないようにチラリと目を向ければ。俯きかげんで文句を言いながらも、口元の緩んだ吉田さんが丁寧にカバンに手帳をしまうのが見えた。立ち止まり、ズボンのポケットを探る。
「あ、そうだ。キーホルダー買おうと思ってたんだったっけ。」
「え〜?キーホルダー?どんな?」
「家の鍵に何か付けようと思ってたんだけど、すっかり忘れてた。さっき気になったやつがあったから、買ってくるよ。…吉田さん、少し待っててくれる?」
取り出した家鍵をチャリチャリと弄りながら振り返る。
「…分かった。いいよ〜!早く帰ってきてねダーリン☆」
テンション高いな、と苦笑しながら店に戻り、一度気まぐれに手に取ったシルバーのプレートの、シンプルなキーホルダーを指先ですくい上げる。
そして、キーホルダー以外にも。もう一つ。
「おかえり、ダーリン。…良い買い物は出来た?」
会計を済ませて店を出ると、やけに穏やかに笑っている吉田さんに、柔らかく微笑み返す。
「うん。とっても。」
キーホルダーの付けられた鍵を顔の前で揺らしてみせて、歩き出す。
「さて、どこ行こうか?目当ての雑貨屋には来れたし、次はダーリンの行きたいところでいいよ?」
「ん〜。とりあえず何か食べない?」
いいね!じゃあダーリンは何食べたい?…そうだな〜。パスタとか?あはは!ダーリンたらオシャレ〜!
二人でたわいもないことを話しながら歩く。時々振り返りながら楽しそうに歩く吉田さんに、にこにこと笑いかけながら歩く俺のポケットに入っているのは。
あの藍色の万年筆と、もう一つ…。