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他人事な恋  作者: 紫苑
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自己満足な恋


「はい。これ、昨日のお詫び。ごめんな〜?絡んじゃって。」


翌日の昼休み、購買に行くために教室を出ようとしていた高橋を捕まえて半ば無理矢理席に座らせる。食べたいパンのリクエストを聞いて買いに行ったのが3分前。髙橋の目の前にパンの入った袋を突き出したのが5秒前。そして今はそれを高橋に受け取らせようとしている。


突然の俺の行動に驚いたのか、袋を見つめてフリーズしている高橋の机に勝手に袋ごと置いてしまう。ビニールの袋がカシャカシャと安っぽい音を立てた。その音でようやく我に返った髙橋が慌てて口を開く。


「え、ちょ、え?お詫びって…別に気にしてないから良いよ。ていうか金返すから、」


「いきなりあんな風に絡んで迷惑掛けたんだからこれぐらいさせてよ。ていうか、あれだ。これはただの自己満足だから。」


言いながら袋から取り出したジャムパンの封を開け、高橋の口の前まで持っていく。2回程軽く突き出すようにして促すと、展開に着いて来れていないのか、ぱくり、と素直に噛みつき両手で持って食べ始める。…よし。謝った。


「それともう一つ。高橋くん、君にお詫びの品があるんだよ。」


「まだあんの⁈ちょ、もう本当にいいって!」


本気で遠慮…というか普通に嫌がっている高橋の手に、ポケットから取り出した紙切れを握らせる。無理矢理握らせた後は先程買ってきたクリームパンにかぶりつく。甘い。高橋を見れば恐る恐る手の中のものを確認しているところだった。…お前は本当に俺を何だと思ってるわけ?


「映画の、チケット…?」


「そ。この前お前が見たいって言ってた奴な、近所の映画館でも普通に公開してるから暇な日にでも行ってみたら?…あぁ、でも今度の日曜日は練習試合だっけ?」


何でもないことのように、ふと思い出した風に装って、ぽつりと呟き、日曜日を意識させる。甘すぎるカスタードクリームを、一緒に買ってきたコーヒーで流し込む。砂糖も何も入ってない、ブラック。久しぶりに飲んだら、少し苦い。ケイがコーヒーが嫌いで、最近は飲んでなかったから。一人の時はよく飲んでたから、何も感じなかったのに。


「あ、それなんだけどさ。練習試合の予定だったんだけど中止になったんだよ。天気予報で降水確率が100%だったし、相手の高校の都合も悪くなったらしくて。」


高橋がメロンパンを袋から取り出しながら残念そうに言う。練習試合が無くなり、練習も休みになったのが残念なのだろう。まぁ、俺にとってはラッキーだけどね。


「本当にサッカー好きなんだな。俺なら練習が無くなったら大喜びするけどね〜。」


「いや、だってさ。せっかく試合で力試し出来ると思ったのにもったいないじゃん。最近ドリブルが上手くなったって監督に褒められたところだったし…あれ。ていうか、何で日曜が練習試合だって知ってんの?話したっけ?」


髙橋の口からは、聞いてない。見たい映画があると言っていたから、練習が休みの日がいつか他の部員に聞いたんだ。小林とデート出来る日はあるのか、と考えていたら丁度日曜日が休みになったと聞いた。だから知っていた。日曜が雨になることも、その日は練習も休みになるから高橋は一日暇だってことも。


ジャムパンを食べていた時に手に付いたのだろう、メロンパンの袋に付いたジャムを指で拭い、そのまま口に運んでいた。赤色が気持ち悪い。…やっぱりイチゴジャムは嫌いだ。目をそらす。


「ん?言ってたよ。ほら、ちょっと前に雨が降ったろ?その時にそういえば〜って。覚えてねーの?…まぁ、でも日曜日が暇なんだったら丁度いいしその映画見て来れば?」


「…そうだっけ?あ〜、まぁ、休日だからって家に引きこもるのも時間無駄遣いするみたいで嫌だし行こうかな。」


「ははっ、お前って本当アクティブだよな〜。ダルイって思ったりすること無いわけ?」


いや、それぐらい流石にあるだろ!慌ててツッコミが入る。冗談だって。いや、まぁ、普通にちょっと引いたけど。とことん俺みたいな自堕落な人間とは違うのな?お前って。


「あぁ、そうだ。髙橋?そういえばさ、」


「ん?はは、流石にもうプレゼントはいらねーよ?」


髙橋が笑いながら俺を見る。精一杯、気楽そうに笑いながら見返して、口を開いた。


「小林もその映画見たいって言ってたから、チケットあげてたんだよね。」


今、俺はきちんと笑えているだろうか。


「…せっかくだから、二人で見に行って来たら?」


こいつに勝ちたいだなんて大層なことを言っておきながら。戦う前に、身を引くなんてやり方で逃げるだなんて。本当に俺は情けない。


「え、俺と小林さんで?神田は見に行かないの?」


「俺?俺は…、」


…でも、優希が笑うんだ。移動教室の時に見かけた時とか、全校集会の時だとか。髙橋を見ると、誰にも気づかれないくらい小さく、ほんの一瞬だけど笑うんだ。


「俺は、いいや。」


側に居て欲しい訳じゃない。いや、本音は隣に居たいけどね?でも、それが無理なら…笑ってる顔を見てたいんだよな。


これは自己犠牲とか、大人しく身を引いて諦めるとか、そういうことじゃない。ただの自己満足だ。でも、俺らしいと思うんだよね。こういう恋の仕方の方が。


机の上の、まだ少し残っていたコーヒーを飲み干す。クリームで薄まっていないブラックコーヒーは、酷く苦かった。







本格的に尚が高橋と優希を

くっつけようと動いてます\(^o^)/


高橋は密かに優希に狙われて

尚には優希と付き合わせるために

動かされて…不憫だ( ;´Д`)


読んで下さりありがとうございました!



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