牽制、嫌悪
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あの小さな決意をした日から数日。俺は特に何の変化もない日常を過ごしていた。決意はどうしたのか、と聞かれたら何も言えない。でも、今まで人の好意や厚意を素直に受け止めて来なかった俺がそんなに急に変われる訳がないと思うんだ。決意したことや努力した事が全て叶うなんてあり得ない。そう思うでしょ?まぁ、そもそも俺の場合は努力したとは言えないけど。
「あの、良かったら今度の土日、ショッピングに付き合って欲しいんです。良いですか?」
「…とりあえず。何企んでるか聞いていい?」
「…本当に失礼ですよね。神田先輩って。」
だから俺の反応は当然の事だと思う。ちょうど読み終わった文庫本を閉じながら、傍らに立つ小林さんをちらりと見る。呆れたような、怒りを堪えているような顔でこちらを見ているのが分かった。いや、だって仕方ないよね?何かあると思うでしょ、流石に。
「自転車貸してくれたのは感謝してるし、そのせいで君が遅刻したのは悪いとは思ってるよ?だからって何で君の買い物に俺も付き合わないといけないの?」
「いや、感謝してるし悪いと思ってるんだったら大人しく付いて来て下さいよ。…あの、何で?みたいな顔するのやめてくれません?こっちが聞きたいんですけど。何でこの状況で断れるんですか。」
そんな事言われても、面倒なものは面倒だし。こんな事ならさっさと着替えに行けば良かったな。そう思いながら教室の時計を見れば、昼休み終了まであと15、いや14分。俺以外のクラスメイトは、次の授業が体育のため既に更衣室だ。
髙橋に着替えに行かないのか、と聞かれた時、後で行くと応えたのが悔やまれる。図書室で借りた文庫本があと数ページで読み終わるところだったので、最後まで読んでからにしようと1人残ったのだ。この本、返却期限が今日なんだよな。
ここから違う校舎にある図書室までは少し歩かなければならない。先に図書室に行くにしても、掃除が始まるまでに返却しておかないと司書の先生に怒られるし。とりあえずそれだけ済ませれば、俺の担当の清掃場所は体育館なので着替えが多少遅くなっても問題無い。
「う〜ん…分かった。感謝してるのは本当だし、荷物持ちくらい引き受けるよ。」
「え、良いんですか?ていうか自分から荷物持ち引き受けるなんて…どこか調子悪いんですか?」
「うん、あれだね。君もかなり失礼だよね…。あ、次の授業体育だからそろそろ着替えないと。詳しいことはまたメールしてね。小林さんも、もう教室帰った方がいいよ。」
話を切り上げるためにとりあえず買い物に付き合うのを了承する。感謝の気持ちも勿論あるが、半分以上は妥協と計算だ。断るよりも、分かった。と言っておいた方が話が早く済むしね。体操服と本を手に立ち上がり、教室に帰るよう勧める。そろそろ他のクラスメイトが着替えて戻ってくる頃かもしれない。
「分かりました。また夜にでもメールしますね。…あの、それと。」
「ん〜?何?」
「来週の水曜日、髙橋先輩の誕生日なんです。だから、プレゼント買いたくて…。何か欲しい物は無いか聞いておいてくれませんか?」
言いにくそうに、少し躊躇った後に紡がれた言葉。振り返り彼女の方を見る…あぁ、そう。そういうことか。自分の中で納得する。彼女が少し伏目がちにしているので目は合わない。
「誕生日プレゼント?あはは。意外とベタ…っていうか、乙女チックなことするんだね〜。」
軽い調子で返しても、彼女の緊張したような面持ちは変わらない。やれやれ。苦笑しながら、じゃあね。と緩く手を振り教室を出る。振り返らなかったので、彼女がどんな顔をしているのか分からない。
…釘、刺されちゃったのかなぁ?あ〜。そういえば告白まがい、っていうかあれは告白か。しちゃったんだよな、告白。好きって言っちゃったんだっけ。
「…面倒臭いな〜。」
廊下を歩きながら、ぽつりと本音を呟くとガヤガヤとクラスメイト達が雑談する声が聞こえた。階段を下りると丁度上がってくる彼等と顔を合わせることになる。そのまま階段を通り過ぎて図書室までの道を歩く。少し遠回りになるけれど構わない。
「これ、返却します。」
「あ、はい。分かりました。そこの返却BOXに入れておいて下さい。」
図書室に入ってすぐに予鈴が鳴り、司書の先生に早く返却して掃除に行くようにと注意されてしまった。すみません、すぐ済ませます。そう言って愛想笑いを作り、当番生徒の指示に従う。本を箱の中に入れ、帰ろうとすると声をかけられた。
「あれ、神田くん!今から掃除行くの?」
「え?あぁ、うん。吉田さん、も今から?」
…最悪だ。心とは裏腹にニコニコ笑って振り返れば、図書委員長の吉田沙織が人懐こい笑顔を浮かべ立っていた。
「うん。借りたい本があって探してたんだけど、なかなか見つからなかったから遅くなっちゃって。」
「へぇ〜。吉田さんでもここの本を探すのに手間取ったりするんだ?」
「あはは!当たり前じゃん。いくら図書委員長だって言っても本の配置までは覚えきれないよ〜。まぁ大体の本の場所なら分かるけど。」
「吉田さんは図書室の本を全部読破してるって噂があるくらいだから。でも流石に全部は無理か〜。まぁ大体分かるなら十分凄いと思うけどね。」
俺が歩き出すと体育館までの道のりを自然と着いてくる。雑談しながらの移動だが、正直に言うと嫌だ。けれど言葉には出さない。猫を被っているからではなく、彼女は俺が嫌がるのが好きだということを知っているからだ。
吉田沙織と初めて会ったのは図書室を初めて利用した時だ。校則通りに着こなした膝丈のスカートに、肩までのストレートの黒髪。目にかからない程度の前髪に赤い縁の眼鏡と、一言で真面目そうとか委員長っぽいとか言い表せる容姿の持ち主だった。
その時彼女が持っていた本はつい数日前に書店で俺が買ったものだった。軽妙で読みやすい文章を書くが、メジャーな作家ではないので少し驚いた覚えがある。それだけならそこまで印象に残らなかっただろう。だが、その後に嫌でも彼女のことを意識せざるをえない出来事があった。
「…ぁ。」
「え?あ、ひょっとして、これ借りようとしてました?」
目当ての本を借りようと本棚に近寄ると、丁度彼女がその本を手に取るところだった。本格的な文学小説。心理描写が細かく全体的に重たい、いっそ陰鬱だと感じる文章を書く作家の作品だ。とてもじゃないが女子高生が好みそうには思えない。…正直、ここまで好みが被ると何となく嫌な気分になる。
「あ、まぁ…はい。でも他のやつ借りることにします。」
にこりと笑い、その場を離れようとすると、彼女が持っていた本を俺に差し出してきた。
「え、いや、いいですよ。あなたが読んで下さい。」
「構いません。実はこれ、もう読んだことありますから。」
「あ、そうなん、ですか…ありがとうございます。」
にこやかに言われた言葉に礼を言い、本を受け取ろうとした時、初めてまともに彼女の顔を見た。そして。
あぁ、俺、この人嫌いかも。
初対面だというのに、おそらく本の趣味が似ているということしか知らないというのに、自分と似た人間だと分かった。それに伴う、強烈な嫌悪感。
本を受け取り、貸し出し手続きを終え、図書室を出たところでため息をついた。同族嫌悪、なんて恥ずかしい。
「神田くん?お〜い、着いたよ?聞いてる?…ダーリン。」
「ん?…あぁ。ごめんよハニー。君との出会いを思い出してたんだ。運命的な出会いだと思ってね。」
「まぁ、ダーリンったら♪」
それからというもの、図書室に行くとしょっちゅう絡まれるんだよな。いつのまにか図書委員長になってるし。返却期限過ぎると督促状持って教室来るし。クラスが隣だからっておかしいよね?自意識過剰?
更衣室に入りゆっくりと着替えを済ませる。担当の先生は朝から出張のため、掃除をサボっても怒られる心配はない。着替え終わり外に出れば、うんざりしたようにため息を吐いてしまった。
「掃除しなよ、ハニー…」
「え〜?あはは。先生居ないのに?何でそんな面倒なことしないといけないの?」
「自分のこと棚に上げるけどさ…もっと真面目に生きようよ、本当に。ていうか外見とのギャップどうにかしてくれない?詐欺だよね、それ。」
この子マジで疲れるんだけど…。俺、振り回すのはいいけど振り回されるのは嫌いなんだよね。
「もぉ〜。そんな顔しないの!疲れてるみたいだけど、どうかしたの?まるで付き合ってた同級生にフられて、別れ話がこじれたあげくに同席してたちょっと気になってる後輩と付き合えたのはいいけど、その子が本当に好きなのは自分のクラスメイトって分かっちゃって、うわ〜…俺ただの当て馬かよぉ〜!って凹んでるみたいだよ?」
…最悪だ。にこにこと、本当に楽しそうに俺を見つめる姿は本来の幼い顔立ちもあり可愛らしいが、実際は他人の傷を嬉々としてえぐるような凶悪な性質の持ち主だ。最悪だ、本当に。同族嫌悪と言ったが、俺はここまで人間として終わってはいないと思う。
「…何で知ってんの?ていうか、あれだね。どうしたらそんなに歪めるの?人間として。」
「え〜?歪んでなんてないって。私は自分に素直な良い子だよ?あ、何で知ってるのかと言うと〜…ヒ・ミ・ツ♪」
茶目っ気たっぷりにウインクしながら言う姿に、不覚にも殺意が芽生える。
「いや、そういうの良いんだけど。マジで何で知ってんのか教えてくれる?」
「う〜ん。どうしよっかなぁ〜?…あ、林先生、こんにちは。部活中に足首痛めたって聞きましたけど、大丈夫ですか?」
「あぁ、吉田さん。大丈夫よ。バスケ部の顧問として情けないけど…心配してくれてありがとう。掃除が終わるまで少しあるから、まだここに居なさいね。」
「はい。分かりました〜。……ん〜。じゃあ、今度の土曜日にデートしてくれたら教えてあげてもいいよ?あ、次の授業の課題してないからもう行くね。それじゃあね、ダーリン♪」
ようやく解放された…ていうか教師への外面の良さ異常だろ…。やたらきゃぴきゃぴした声で去って行った後ろ姿を呆れたように見つめる。
それにしても…土曜日か〜。小林との約束も週末だったよな?憂鬱だ…。
俺はこれからの面倒事を考えて、心からのため息をついた。
新キャラです。吉田沙織さん。
正直、結構好きなタイプです(o^^o)
でも近づきたくはないですね…(笑)
読んで下さりありがとうございました!