相談と結論
ラーメン屋から帰宅後、俺は部屋でケイに今までの経緯を全て話した。長い付き合いで俺の性格が歪んでることは知ってるので隠すこともない。
「なるほどねぇ…。あ、分かった!お前恨まれてんじゃね?優希ちゃんに。先輩を捨てた男だからメロメロにしてから捨ててやろうとか思ってんだよ、きっと。」
「それは付き合った時に俺も考えた。じゃあ、高橋のことはどうなんだ?好きなのに他の男と付き合うか?しかも高橋と俺は同じクラスなんだぞ。」
それに別れ話の日、茶番劇を見てるような目をしてたしな。まぁ、その感想は俺もだけど。そもそも、先輩のために恋人ごっこするような人間がどれだけ居るだろうか?その先輩に惚れてる場合は話が違ってくるだろうが…。
「ん〜。そこら辺は直接優希ちゃんに聞くしかないでしょ。つー訳で、はい!」
「あ?お前勝手に人のケータイで何やって…は?え、お前、マジで何やってんの⁉」
見せられたのはメール送信終了の文字。内容は、今日の続きは明日の放課後に会って話そう。というもの。
「だってこうでもしないとお前勝手にフェードアウトして終わらせようとするじゃんか。駄目だろ、そういうのは。」
女の子には優しく!力説する目の前のイケメンを一発殴ろうかと思った。でも言ってることは事実なので反論できない。だからって明日かよ。早過ぎだろ。
「まぁ、送っちゃったものは仕方ないだろ?それにさ、飽きたとか面倒とか言ってるけど、お前結構優希ちゃんのこと好きみたいじゃん。それにあの子もなかなか腹黒いみたいだし、お前に似合ってるって!」
「笑顔で言うことかよ、それ。悪かったな、性格悪くて。つか好きでも向こうがそうじゃないなら意味ないだろ。」
「そりゃそうだけどさ、お前はドライ過ぎなんだよ!好きじゃないなら付き合ってる意味ないとか、自分から別れを切り出すとかフられるように仕向けるとかさ。」
それの何が悪いんだ?俺のことを好きでもないのに付き合ってるなんて向こうが迷惑だろ。それに他に好きな男が出来たとか、愛情を疑って不安になるとか。俺と付き合って後悔してる相手とは早めに別れてあげないと可哀想だろう?
俺はただ、相手が俺と一緒に居て楽しくなさそうだから開放してあげようと思ってるだけなのに、いざ別れ話になると別れたくないとか嫌いになったの?とか。俺を好きじゃなくなったのは君の方だろ?と聞きたくなる。
「…お前ね、俺たち高校生よ?青春真っ只中よ?この年で枯れてどうすんの。つか相手だって一瞬の気の迷いかもしれないだろ?本心から別れたいって思ってる訳でもないのにいきなり別れ話切り出されたらそうなるよ。あとは…まぁ。向こうが別れたいと思ってても、いざ別れようって言われると途端に惜しくなるパターンか、こっちからフってやろうと思ってたのに!ってなって後に引けなくなるパターンがあるかもね。」
「…お前も大概冷めてるよな?何だよその分析。なんかお前怖いんだけど。」
こいつマジでモテるんだよな…。ここまでくると嫉妬も出来ないわ。俺は若干引きながらもケイが言ったことに納得する。
「話が逸れまくったけど…小林が俺を好きじゃないのは確かだし、別れるって結論は変わらないよ。」
「結局そうなるんだ?別に好きじゃなくても、告白されたらよっぽど無理じゃなかったら付き合うものなんだけどね〜。尚って意外とロマンチストっていうか、そもそも理想が高いっていうか…。そのくせに恋愛観は枯れてるとか、お前もう何がしたいの?」
「悪かったな。あと俺はロマンチストじゃなくてリアリストだ。惰性で付き合う意味なんてないと思ってるだけだよ。」
そういえば呆れた顔をされる。仕方ないだろ?俺の器は小さいんだよ。お前みたいに何でもかんでも抱えこめる訳じゃない。
「まぁお前がいいならいいけどね。とりあえず荷物整理しとくわ。親父さんの部屋に放り込んだままだし。」
「たまには他の部屋も使ったら?部屋は余ってるんだしいつも同じ部屋使わなくてもいいだろ。」
「俺に片付けさせようとしても無駄だからな?時間あるときに自分でやれよ。まぁ、手伝いくらいはしてあげよう。」
俺の両親は俺が中一の時に事故でなくなった。それ以来叔父に面倒をみて貰っているのだが、叔父は母親の介護の関係で実家暮らしなのでここには俺が一人で住んでいる。そのため部屋は余っており、物置になっているところもある。ケイが言っているのはそのことだ。
事故の直後は塞ぎ込んでなにも出来なかったが、高校入学を機に叔父の実家からこの家に移り一人暮らしを始めた。それからは、これまでも泊まりに来ていたケイが頻繁にここを避難場所にするようになった。叔父とケイの家族にも手伝ってもらって両親のものを整理し終わってからは吹っ切れることが出来た。
ケイは俺の両親、特に俺の父親と仲が良かった。親父は写真が趣味で、撮ってきた風景写真が壁にたくさん飾られていた。ケイはそんな親父の部屋を気に入り、泊まりに来た時にはいつも使っている。
今では、ケイの写真も壁のコレクションに加えられている。ケイの誕生日に俺と親父がプレゼントした一眼レフのカメラで撮ったものだ。親父に比べると下手だな、と言うと、当たり前だろ。親父さんプロ級だったもん!と息子の俺よりも誇らしそうにしていたのが面白くて、嬉しくて、思わず笑ってしまった。
ケイが荷物の整理をしに出て行った後、今までの会話を思い返してみる。好きじゃないのなら付き合う意味がない、だから別れる。それを間違っているとは思わない。だから小林にも別れを告げたのだ。明日どんな話になっても別れる結論が変わることはない。
もし…小林が俺のことを憎んでるなら、あの冷たい目にも納得がいく。だとしたら…。ふ、と自嘲の笑いがもれる。だとしたら、俺が好きになったのは俺を嫌いな小林優希ってことだ。好かれてないなら別れるし、もし小林が俺を好きになったとしても。それは俺が好きになった彼女とは違う。
どっちにしても別れるしかない。結論は最初から出ていたし、考えてもそれが変わることはなかった。それなのに。
「なんか…モヤモヤする…。」
いつまでも気持ちがすっきりしなかった。目をつぶる。朝早く起こされた上に色々あったから疲れてるのかと思って一眠りしようと思ったが、結局荷物を片付け終わったケイが声をかけるまで、眠ることはできなかった。
ケイのターン!
さらっと尚の家族のことも出てます。
ケイが尚の家にしょっちゅう転がり込むのは尚が寂しくないようにって配慮だったりします。
でもそれも最初だけで、尚が吹っ切れて気にしないようになってからはケイも気にしてません。