他人事な別れ
始めまして。紫苑と申します。
批判も、感想も、何か少しでも
感じて下されば嬉しいです。
初心者なので読みにくいところが
あるとは思いますが…(;´Д`A
よろしくお願いします!
洒落たカフェで向かい合い、女子高生の笑い声を聞きながら俺は。
「私と…別れて、下さい…」
付き合って二ヶ月になる彼女に別れを告げられていた。
そもそも今日は彼女と付き合った記念日で、本来なら三ヶ月目に突入する…はずだった。もちろん俺がフられてしまった以上それはあり得ない話なのだが…。
「…ぁ、はは…。ぅ、ん?うん。えっと、一応その〜…理由?聞きたい、んだけど?」
目の前の彼女、もう元彼女か…は、酷く深刻そうな雰囲気を振りまいて俯いている。泣き出す一歩手前といった感じだ。対して俺は、心底困った顔でへらへら笑う、という器用な真似をしながらそれを見ている。
内心は、面倒だなぁ、おい。なんて考えているのだが、そんな本音を顔に出すことはしない。
彼女はちらりと俺の顔を伺い、また俯く。俺の質問に答える気はあるのかと問いたくなるが、じっと我慢。彼女が俺の方を見てないことをいいことに、コーヒーカップに隠れて小さなあくびをする。こんなことなら昨夜はゲームをもっと早く切り上げておくんだった。ハイスコアを出そうと必死になるうちに時計の短針が3を少しオーバーする時間になっていた。
結果的にハイスコアを更新することは出来ず、待ち合わせに遅刻する寸前に何とか起きた時も、寝起きは最悪だった。人生の最短時間で身支度を終え、なんとかいつもの待ち合わせ場所のカフェに着いたかと思えば、これだ。いっそ俺が泣きたい。
あぁ〜もう、こんなことならブッチして寝てりゃ良かった…。ていうか理由さっさと言ってくれないかな…あれ?そもそも、質問覚えてる?
寝不足もあいまって、テンションは急降下。思わず出てしまった風に見えるよう意識して、小さなため息を吐く。それに反応して彼女の小さな肩がぴくりと動く。
胸まである艶やかなストレートの黒髪も、清楚な雰囲気によく似合うひらひらとしたワンピースもとても好みだった。俺がからかうと、少し怒って、その後恥ずかしそうに笑うところも。けれど。
「もういいよ。ありがとう。」
そういいながら立ち上がると、彼女がぱっと顔を上げて俺を見た。
「もう…い、い。って?どういう…」
信じられない。そんな表情で俺を見る、10分ぶりに見た彼女の目に涙は無く、充血すらしていない。ふ、と思わず笑みが零れる。
「今までありがとう。別れるのは、まぁ、残念だけど。楽しかったよ。それじゃあ、ね。うん。それじゃ。」
呆然とした彼女をそのままに、伝票を手にレジへ向かう。自分のコーヒーと、彼女が注文したミルクティーの代金を支払いカフェを出ようとしたその時、
「ちょっ、と…待ってよ!それ、それだけ?!あり得ないでしょ!?」
ようやく正気に戻ったらしい彼女が俺の腕を掴みながらヒステリックに叫ぶ。店中の好奇の目。おいおい…勘弁してよ。彼女をなだめようとしつつ、さり気なく手を外させる。
あからさまに迷惑そうにする、おそらく学生のバイトだろう…店員に苦笑いで会釈しつつ、店を出る。その間も彼女はわざわざ俺の名前を呼びながら文句を言い続ける。
店を出てしばらく歩いたところで、ようやく彼女に向き合う。ここまで休むことなく俺を詰っていたせいで、少し息が上がっている。少し呼吸を整え、
「もういいってどういうこと?!私のこと好きじゃないの!?好きなんでしょ?だったら、こんな…あんなにあっさり別れるなんて、そんなのおかしくない?!」
一息にいい、充血した目で俺を睨みつけた。少しの沈黙。彼女はじっと俺の返答を待っている。ゆっくりと口を開く。
「好きじゃないよ?」
彼女の目を見ながらゆっくりと言う。彼女の大きな目が見開かれる。
「え、?」
どうやら聞こえなかったようなので、もう一度、ゆっくりと繰り返す。
「好きじゃないよ。」
清楚な雰囲気を演出する黒髪も、ひらひらとしたワンピースも。俺がからかうと、わざと怒ったふりをして反応を見た後に、はにかみながらする計算された上目遣いも。とても好みだった。けれど。
「そこまで、好きじゃない。」
彼女にとって大切だったはずの記念日の前日に夜更かしをして、寝不足のままデートに向かうくらいの。起きた時に二度寝しようかと迷うくらいの。彼女に掴まれたお気に入りのシャツが、皺になるのが気になってとっさに手を外させるくらいの。
フられてもどうでもいいや。と思えるくらいの、そのくらいの、好き。
呆然とした様子の彼女を見ながら、ポケットの中の包みを取り出す。彼女が自然な会話を装いながら、これ欲しいんだよね。と言っていたネックレス。いっそプレゼントしろと言ってくれればいいのに、と可笑しかったのを覚えている。
彼女の手を取り、握らせる。顔を見れば、不安そうに見せている、けれど確かに期待の色が浮かんでいる。
ふわりと笑い、手を離すとそのまま背を向けて歩き出す。歩き出して、ふと思い出したあること。告げるため立ち止まり、振り向く。
「そういえば、今日って誕生日だったよね?おめでとう!」
無邪気に告げると、歪む彼女の顔。
「違う、けど。私の誕生日…来週の水曜日だから…。」
「あれ、そうだっけ?」
首をひねり考える。考えて、
「ん〜…まぁ、いいや。ばいばい。」
再び歩き出す。背後で彼女が何か言っている。酷く眠い。やっぱりあの時間にまでゲームはキツかったな〜。帰ったらすぐに寝、あ〜駄目だ。明日の数学は確か当たるから、課題を片付けないと。彼女の泣き声がかすかに聞こえる。でも眠いしな〜。どうしよう。…う〜ん。高橋に見せて貰えばいいや。昼飯奢るって言えば楽勝だろ。他力本願万歳!
自宅のベッドに横たわり、眠りにつくとき。ふ、と今日は一度も彼女の名前を呼んでないかもしれないと考えた。だが、瞼が落ちてきたので、そんなことはすぐに頭から抜けてしまった。
フられたのに全くショックを受けていない自分が可笑しくて少し笑う。
そうしてすぐに俺は眠りについた。