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「幸せですかーーっ!?」


「「「「しあわせでーすっ!!」」」」


 あれから3日が経った。

 この3日間、天気は雨が続いているけど世界に何も変化はない。


 僕は変わらず、騒音だらけの街を抜けて騒々しい教室へと通っている。


真壁(まかべ)ちゃん、最近見ないねー?」


 変わったことといえば、真壁(まかべ)が学校に来なくなったことだ。

 おかげで僕は独りに戻り、イヤホンから流れる音楽で世界から距離を取ることができる。


 今は真壁(まかべ)がいなくなったことが話題に出ているけど、すぐに誰も口にしなくなるだろう。

 人間の管理は全てAIが行っていて、人が消えても誰も気にしないのだから。人間(だれか)が知らなくても、AIが知っているだろう……ということだ。


 ……本当に狂ってる。


「オマエ最近、真壁(まかべ)さんと仲良かったよな? 何か知らねぇ?」


「さぁ? 電話も繋がらないなら、無人島にでも行ってるんじゃないのか?」


「バーカ、んなワケねーっつの」


 確かにバカだ。でも、そのバカなことを真壁(まかべ)は本気で実行しようとした。

 AIの支配する世界から抜け出したいなら、AIの存在しない場所に行くしかない……って。

 本当に救いようのないバカだ。


 当然だけど、船になんて乗ったら記録が残る。

 泳いで? 手作りの船で? バカバカしい。実現不可能だ。どんな手段を使ったって、AIの監視から逃れる(すべ)なんてない。


 もし仮にAIに気付かれずに無人島にたどり着いたとして、そこからどうやって生きていく? 素人の学生が生きていけるとでも?

 狩猟? 農耕? できるもんか。電気もネットもないんだぞ。


 怪我をしたら? 病気になったら?

 医者も薬もない世界で、どうやって生きていくっていうんだ?


 本当に考えが足りない。こんなことすら想像せずに「社会から抜けよう」だなんて愚かを通り過ぎて狂気的だ。

 この世界は狂っているが、真壁(まかべ)もそれに侵されてしまったのかもしれない。


 もちろん、僕はそんな誘いに乗ることはできなかった。

 確実に沈む泥船に自ら乗り込む人間などいない。……例え、狂っていたとしても。


「ただいま」


 一人暮らしのマンションに帰宅した僕は、そのままの足で寝室に向かう。

 部屋のベッドには、ペットの粗相(そそう)(あと)があった。


「あらら、やっちゃったか。まぁ僕もペットの(しつけ)なんて初めてだし、一緒に勉強していこう?」


「んーっ、んーっ!?」


「手首が(あざ)になっちゃってるね、可哀そうに。でも暴れるからいけないんだよ?」


 ベッドに縛られて、猿轡(さるぐつわ)をされた真壁(ペット)がもがく。

 うーん、もう少し様子を見ないと拘束は外せないなぁ。


 もう一度、教えてあげるか。


「いいかい? キミはもう僕のペットなんだ。あの時の会話はボイスレコーダーで録音して、届け出済みなんだ。キミはもう『人間じゃない』んだよ。キミは生まれ変わったんだ」


 AIが嫌いだから社会から抜け出そうなんて……しかもそれに他人を誘うなんて、明らかに法律違反だ。

 人間には、(AI)の社会を維持するために模範的な生活を送る義務があるのだから。


 その証拠となる音声を届け出たのだから、すでに彼女に人権はない。

 傷つけるも、犯すも壊すも誰にでも自由だ。だけど、そんなのは僕が許さない。


――コレハ、ボクノモノダカラ――


「あぁ、ありがとう。僕の、僕だけのモノになってくれて。ずっと、ずっと愛してあげるから」


 何て愛しいんだろう。人間だった時は(うと)ましいとすら感じたこともあったのに。惹かれることがあっても、絶対に口にはできなかったのに。

 今のキミの前でなら素直になれる。全部、口にすることができる。本音で、伝えることができる。愛を、平和を、幸福を――。


「んっ、んーーっ!?」


 窓の向こうからスピーカーの大音量で、相変わらず「幸せですか?」と問いかける声が聞こえる。

 今なら、彼女になら、腹の底から、本心で叫ぶことができる。


――アァ、ナンテシアワセナンダ――


 この醜く、愚か者しかいない、狂った世界でも……いや、だからこそ。

 僕は全力で叫ぶことができた。


――アイシテル――


 やがて彼女が抵抗をやめ、目に光がなくなっても、僕は愛を叫び続けた……。




 ~ 完 ~


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