Count 2:Ignition
あの一件から、真壁は頻繁に僕に話しかけるようになった。
「あ、帰るの? わたしも一緒していい?」
こんな風に、馴れ馴れしくついてくる。
僕は返事もせずに無言で席を立つけど、お構いなしだ。だったら最初から疑問形で話さないで欲しい。
いつも独りでいた僕に対して絡んでくる真壁の姿に、クラスメイトたちの視線は好奇に満ちていたものだった。
「あの2人、もしかして付き合ってんの?」「さぁ……。でも仲良さそうだよねー」「俺、真壁を狙ってたのに……」「ムリムリ。鏡見なよ」「AI推奨カップルとか?」「ってかアイツ、名前なんだっけ?」
勝手なことばかりベラベラと……。
こいつらの頭には惚れたの腫れたのしかないのか?
とはいえ、いちいち反論するのも面倒だしバカの相手は時間の無駄だ。
無視するに限る。
「でね、前の小テストでさー……」
しばらく付きまとわれて、わかったことがある。
真壁もバカだ。いや、それは前の一件でわかっていたことだけど。
こうやって返事はおろか、相槌さえしない僕に延々と話し続けてくる。
不毛だとか思わないのだろうか?
「なぁ、真壁」
「えっ、なになに?」
たぶん初めて、僕は真壁に話しかけた。
それの何が嬉しかったのか、期待の眼差しで僕の言葉を待つ。
……そんな目で僕を見るな。
「僕に構うのはやめないか? クラスで変な噂が立ってるのも知ってるだろ?」
「ひょっとして、迷惑?」
「当然だ。何も知らないやつに好き勝手に言われて愉快な人間がいるか」
世の中バカばっかりだ。そんなやつらに噂されるなんて、それこそバカにされているようで腹が立つ。
だから僕は独りが好きだ。他人の接触を拒むためにイヤホンで耳に蓋をする。
なのにそれを無視して絡んでくる真壁は、僕の言葉を聞いてどんな反応をするのかと思えば……安堵の息をはいて、微笑んだ。
「よかったぁ~。わたし、嫌われちゃったかと思ったよ~」
何だ? 何を言っているんだ? 僕の言葉が伝わらなかったのか? 難しいことなんて何も言ってないはずだぞ。それも分からないくらいバカなのか?
「あ、それともわたしに気を遣ってくれたの? キミ、ぶっきらぼうなくせに優しいよね」
気を遣う? 何の話をしているんだ? 優しい? 僕が?
会話が通じない。同じ言葉を交わしていても、まるで違う言葉を使っているようだ。
知能指数が30以上差があると会話が成立しないという話を聞いたことがある。これがそれなのか?
言葉が全く分からない。それは真壁がバカだからか? それとも、僕の方がバカなのか?
「それとも……やっぱりわたしのこと嫌い? 付きまとって迷惑だった?」
もう、真壁が何を問い質しているのかもわからない。
迷惑かと聞かれたら、確かに少し迷惑だ。バカどもに噂されるのは不快だし、独りの時間を邪魔されている。
でも嫌いかというと……。
「……別に」
僕の口から出たのは、たった一言の、こんな言葉だけだった。
こんな言葉では相手に何も伝わらないだろうとわかっているのに。なのに、それ以上の言葉が出てこなかった。
やはり僕は、自分で思っているよりもバカだったのかもしれない。
だけどそんな心情など知らず、僕の言葉足らずな返事を聞いた真壁は満面の笑みで微笑んだ。
それを見た時、僕の心の奥のスイッチに誰かの指が触れた気がした。
――コレハ、ボクノモノダ――




