Count 3:A Parade of Fools
「幸せですかーーっ!?」
今日は日曜だってのに、またやってる……。
ああやってコミュニティを作り、仲間内で再確認をし合っているということは「AIの支配は完璧ではない」ということだ。
もし本当にAIが完璧に社会を管理支配しているのなら、あんな風に呼びかける必要なんてないはずだから。
AIが完璧じゃないのか、それとも人間が愚かすぎるのか……。
たぶん後者なのだろうと、僕は思う。
きっと人間は、AIでも御しきれないほどに救いようがないのだ。
だからAIの支配から20年が経っても、例え戦争がなくなっても、争いはなくならない。犯罪だってゼロではない。
人間が完璧になるためには、脳を機械に入れ替えるくらいのことをしないと無理なんだ。
「あなた、幸せですか?」
「えぇ、もちろん。毎日充実してますよ」
狂信者のあしらい方も、これでいい。
馬鹿正直に本音なんか言う必要はないんだ。噓をついたって、どうせわかりはしない。
ホラ、すぐに僕から離れて次の人に……。
「あなたは今、幸せですか?」
「えっと……たぶん……」
あぁ、またバカが1人。
声からすると女の子? 狂信者は女子供でも容赦しないぞ。
「たぶんってどういうことですか?」「幸せじゃないんですか?」「なぜ?」「AIさまの世界の何に不満が?」「そんなこと、あるわけないですよねぇ!?」
「いえ、その……ごめんなさいっ!」
……最悪の返答をしたな。
謝るってことは相手の主張を認めたのと同義だ。「AIの世界に不満がある」と、そう言ったのと同じなんだよ。
僕は無意識に愚か者の姿を見るために振り向いた。
そこにいたのは……クラスメイトの真壁さんだった。
「この女、異端……」
「真壁っ、こんなとこにいたのか? ホラ、病院に行くぞ」
僕は反射的に、狂信者どもに囲まれている真壁さんに声をかけてしまった。
全員の視線が一斉に僕に向けられる。
マズいな……。言葉を1つ間違えれば、僕も『社会適格性維持法』違反者の仲間入りだ。
「何だキミは? ひょっとしてキミも異端……」
「この娘、また何かヘンなことを言っちゃいました? 実はこの娘、AIさまの勧めでカウンセリングを受けているんですよ。人と上手く話せないからって」
「AIさまの勧めで?」
よし、食いついた。
狂信者にはAIの名前を出すのが一番効果的なんだ。
「そうなんですよ。思ったことを伝えられなくて、相手に勘違いさせちゃうことが多いんですよね。な、真壁?」
僕は必死で、真壁さんに「同調しろ」とアイコンタクトを送る。
もし、これで否定するようなバカ女だったら……2人そろってリンチに遭うな。顔も見られてるし、逃げられっこない。
いや間違いなく監視カメラに写ってるし、違反者にされたら逃げても意味はない。
人権を失って野垂れ死にするだけだ。
クソっ、何で僕はこんなことを……。
「う、うん……」
だけど僕の心配は杞憂に終わった。
可能な限り安堵の気持ちを表には出さず、にこやかに狂信者に話しかける。
後はこいつらを納得させて退散するのみだ。
「ひょっとして『幸せですか?』って質問ですか? そんなの、この娘も幸せに決まってるじゃないですか。AIさまの世界は完璧なんですから。でも、それを上手く話せないんですよね。困ったもんです」
「そうなの、か……?」
「決まってるでしょう。AIさまに不満を持つ人なんているわけないんですから。だってAIさまは完璧なんでしょう? 僕も不満なんて一切ありませんし」
「それは……そうなんだが……」
僕の畳みかけで困惑している。
「AIが完璧なら不満を持つ人間なんていない」「でも狂信者は、それを見つけ出して排除しようとしている」
こんな単純な矛盾に気付かないなんて、本当にどいつもこいつもバカばかりだ。
「行っていいですよね? AIさまの予約した病院の診察に遅れてしまいますから。おい、行くぞ」
そう言って、真壁の手を取って強引にこの場を離れる。
彼女の抵抗はなかった。狂信者たちも僕たちを阻むことなく、バカ面をして眺めるだけだ。
手を引いて、どんどん進む。
数百メートル離れて追跡がないことを確認し、ようやく僕は息を吐いた。
「あ、あの……助けてくれてありがとう」
その呑気な言葉に、僕の頭に血が上っていくのを感じた。
バカなのか? 狂信者にリンチされた人間を見たことがないのか?
お前の迂闊な返答で、なんで僕まで巻き添えに怯えなきゃいけないんだ?
それで「ありがとう」? だったら最初から、あんなことを言うな! あんなやつら、適当に返事をしておけばいいんだよ!
どいつもこいつも、バカばっかりだ!!
そんなことを口に出そうと思ったのに……真壁の紅潮して、緊張から安堵へと変わった表情を見て何も言えなかった。
バカは……僕も同じだった――。




