Count 4:A Pre-written Day
学校に着いた僕は騒がしい教室内を横切り、窓際の自席に座る。
まったく、朝から騒々しい……。
「AIさまの世界」なんて言いつつも、こんなバカ騒ぎしている奴らが野放しにされているんだからな……。
世界を管理するなら、こういう奴らもちゃんと管理して欲しいものだ。
そう思いつつ雑音を遮るためにイヤホンを耳につける。
もちろん昔の、人間のミュージシャンが創った音楽じゃない。AIが作った曲だ。クラスの男子は「AIの曲は味気ない」なんて言ってバカにするけど、お前らの騒音に比べれば断然マシだ。
だけどいつもの日課をしていたら、後ろの席の女子が話しかけてきた。
確か……名前は、真壁さん。
「ねぇ。いっつもイヤホンしてるけど、なに聴いてるの?」
「……ニュー・デイズの『白紙の未来』」
いちいちバカにされるのが面倒臭くて、咄嗟に嘘をついた。
ニュー・デイズは、30年以上前の人間のマイナーアーティストの名前だ。こんなバンドの名前を知ってる奴はいない。
知らないバンドの名前を出されても興味を持たれないだろうと、そう思ったのに……。
「うそっ!? ニュー・デイズ、わたしも好き! 『白紙の未来』、いいよね! 未来は自分が決めるんだーっ、て感じがして。あ、あっちもいいよね。ホラ……」
真壁さんは急に表情を明るくし、熱の入った演説を次々に僕に聞かせてきた。
別に僕らは席が近いだけで親しくもないのに。僕はニュー・デイズなんて、名前くらいしか知らないのに……。
でも朗らかに笑いながら話す真壁さんの姿は眩しく、輝いて見えたんだ。
それが僕に向けられたものじゃなくても。それを見られたのが、このひと時だけだとしても……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
30分後――。
「えー、AIが全世界を統一したのが、ちょうど20年前であり……えー、それから戦争はなくなり、犯罪率も激減し……えー、……」
現代社会の授業は本当に眠たくなる。
こっちは生まれた時にはすでにAIが管理する社会だったんだ。小さなころから何度も聞かされたAIの偉大さなんて、今さら勉強するまでもない。
「戦争根絶」「犯罪激減」の次には、「生産性向上」「労働は義務から権利へ」と続くんだろ? 知ってるよ。
それでも未だに「軍事」からは手を引かない派閥と揉めてるってこともね。
戦争なんてとっくにないんだから、軍部なんて解体すればいいのに……。どこにも無能はいるし、いなくならないんだよな。
そんなことを考えながら眠気と戦っていた時、教室の扉が大きな音を立てて開かれた。
「ハァ、ハァ……。スミマセンっ、遅くなりました!」
あぁ、遅刻か。そういえば1つ空席だったな。
……どうでもいいけど。
「今、何時だと思ってるんだ? なぜ時間通りに登校できない? キサマ、AIに反抗する気かぁ?」
「いや、そのっ、朝から腹痛で……」
「言い訳するなっ!!」
現社教師が言葉と同時に、教科書のカドで男子生徒のこめかみを殴った。
「先生はいつも言ってるだろぉ? AIのスケジュール通りに行動できない奴は『人間じゃない』と。お前のせいで29秒も無駄にしたんだぞ? どうしてくれるんだ、えぇ?」
教師が倒れた生徒に顔を近づけて話しかける。
そんなことをしているから余計に時間を無駄にしているっていうのに。あんたこそ、僕たちの授業の時間を無駄にしているって気付かないのか?
「ふん、聞こえていないか。授業を再開するぞ。えー、……」
倒れた生徒は放置かよ。視界に映ってうざいんだけど。
っていうか動かないな。まさか死んじゃいないとは思うけど……まぁ死んでても自業自得か。
僕らの未来は、AIの決めたスケジュールに書かれているのだから。
そこから僅かでもズレた者は、生きてはいけない。それが『社会適格性維持法』だ。
「こんなの……やっぱりおかしいよ……」
だけど授業の再開に気を取り直した時、背後から細く呟く声が聞こえた――。




