ボクが、歳下の君においつけなかった訳
鏡の中の僕は、まだ十四歳のまま止まった姿を写しだす。
声変わりも、髭も、背の伸びも、ぜんぶ訪れなかった。身体も少年体型のままだ。
カルマン症候群という名前の病が、僕の時間を途中で置き去りにした。
大学に通っていると、誰もが驚く!子どもが兄の代わりに来たのかと、笑われるたび、胸の奥が少しだけざらつく。
それでも僕は、イケメンなのが幸いしたのか、よほどの人手不足なのか、流行ショップの店員補助としてアルバイトしている。
服をたたみ、マネキンの位置を直す!
まるで世界のどこにも属していないような時間を過ごしていた。
—
店のガラスの扉が軽い音を立てて開いた。 夏の風といっしょに、ひとりの少女が入ってきた。
白いワンピース。
たぶん高校生くらい。
だけど、その目だけが、大人のように澄んでいた。
「これ、似合うと思う?」
彼女が手に取ったTシャツは、青い空の色をしていた。
その声を聞いた瞬間、胸の奥で何かが跳ねた。
止まっていたはずの心臓が、ゆっくりと、確かに動き出した。
僕の世界が少しだけ回りはじめた瞬間だった。
マキと出会ってから、店に来る回数が少しずつ増えた。
買い物というより、僕に会いに来ているのがわかった。
そのたびに、胸の奥がくすぐったくなる。
「今度、遊びに行こうよ」
マキがそう言ったとき、僕は息をのんだ。
中学生の彼女と、21歳の僕。
けれど、見た目は同じくらい——。
誰も、僕が大学生だなんて思わないだろう
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その日、映画館に行った。
ポップコーンの甘い匂い。
薄暗い館内で、マキの肩が僕の腕にふれた。
心臓が痛いほど鳴った。
それなのに、僕は何も言えなかった。
「ねえ、しょうまくんっていくつなの?」
映画が終わったあと、マキが小さな声で言った。
嘘をつけば楽だった。
でも、
「21歳。でも、病気で、身体が子供のままなんだ」
「なんとなく、そんな気がしてた」
マキは握った僕の手首を、引っ張った
僕の身体は、椅子の上でよろけて、隣に座るマキの両方の太ももの間に、顔を埋める格好になる
マキは、僕のシャツをめくりだす
「ぎゃーっ、やめろー」
僕は、必死でマキに掴まれた手をほどこうと抵抗したが、腕力ではかなわななかった。
マキは、僕の手首を掴んだ手をゆるめた。
僕は、急いで椅子から立ち上がった。
「僕、、こういうの、、、」
僕の視界は滲み、言葉にならなかった。
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映画館を飛び出した僕が一人で歩く、帰り道
涙がこぼれてきた
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あの日以来、マキが店に来ることはなかった。




