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第九章:作られた存在

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

「鉄槌の砦」編が終わり、物語は新たな章へ入ります。

シンタロウを戦場から連れ去った謎の少女、初代賢者アキラ。

彼女の登場により、物語の舞台は戦場から世界の深奥、その「真実」へと移っていきます。

なぜ賢者は召喚されるのか?

シンタロウとは、一体何者なのか?

全ての謎の始まりとなる第九章『作られた存在』、お楽しみください。

 意識が浮上する。


 最初に感じたのは、柔らかな陽の光と、頬を撫でる穏やかな風だった。

 戦場の喧騒も、血と鉄の匂いもない。代わりに、小鳥のさえずりと、どこか懐かしい花の香りがした。


 俺はゆっくりと目を開けた。

 そこは、白い漆喰の壁に囲まれた、清潔な部屋のベッドの上だった。


 慌てて自分の体を確認する。あれほど無数にあったはずの切り傷や打撲の跡は、一つ残らず綺麗に消え去っていた。


 それどころか、体の奥底で感じていた、魂が削れるような空虚感が嘘のように満たされている。

 まるで、空っぽになった器に、再びなみなみと何かが注がれたような、不思議な充実感があった。


「……ここは」


 状況が全く理解できないまま、俺はベッドを降りて部屋の外へ出た。


 そこは、美しい庭園が広がる、神殿のような場所だった。見たこともない様式の建築物だが、どこか落ち着く。


 庭園の中心にある東屋あずまやに、一人の少女が座っていた。

 俺を戦場から連れ去った、あの少女だ。


 彼女は、まるでピクニックでも楽しむかのように、優雅にティーカップを傾けていた。

 俺の存在に気づくと、彼女はにっこりと微笑んだ。


「あら、お目覚め? よく眠れたかしら、坊や」

「お前は……一体誰だ。ここはどこだ? 砦はどうなった! ルキウスや、他の奴らは!」


 俺は警戒を露わに、矢継ぎ早に質問を投げかける。

 少女――アキラは、困ったように首を傾げた。


「質問が多いわね。まあいいわ、簡潔に答えてあげる。砦は落ちた。あなたの将軍様は捕虜になったわ。ついでに、あの奴隷の女の子は……そうね、うまく逃げていればいいけど」

「なっ……!?」


 あまりにも無感動に告げられた事実に、俺は絶句した。

 怒りがこみ上げてくる。俺が命を懸けて守ろうとしたものが、すべて無に帰したというのか。


「ふざけるな! お前が俺を連れ去ったりしなければ……!」

「あら、勘違いしないでくれる?」


 アキラは、ティーカップをソーサーに置くと、冷たい光を目に宿した。


「あなたは、あのまま戦い続けていたら死んでいたのよ。いや、正確には『活動を停止』していた、かしらね」

「なんだと……?」

「あなたのその体は、魂を燃料にして動いている。あの戦いで、あなたは燃料を使い果たしてガス欠を起こしたの。だから、私が『充電』してあげたのよ」


 充電? 燃料?

 意味の分からない言葉に、俺は眉をひそめる。

 アキラは、そんな俺を見て楽しそうに続けた。


「本当に何も知らないのね。まあ、共和国の連中も、賢者の本当の仕組みなんて理解してないものね。教えてあげるわ、あなたという存在の『真実』を」


 彼女は、人差し指を立てた。


「そもそも、『召喚魔法』というのは、異世界から人間を物理的に転移させる魔法じゃないの」

「……じゃあ、なんなんだよ」

「スキャンして、コピーして、再構築する魔法よ」


 アキラの言葉の意味を、俺の頭は理解することを拒んだ。


「日本の高校生、新堂信太郎。彼の魂、記憶、遺伝情報、その存在のすべてをデータとしてスキャンする。そして、その完璧なデータを元に、この世界のエネルギー……理力を使って、寸分違わぬ『複製体』を創り出す。それが、あなたよ」


 俺は、彼女が何を言っているのか、分からなかった。

 いや、分かりたくなかった。


「何言って……。俺には、親父や母さんの記憶も、ケンタと馬鹿やった記憶も、全部ある……! それが、データだとでも言うのか!?」

「そうよ」


 アキラは、残酷なほどあっさりと頷いた。


「あなたは、本物の新堂信太郎じゃない。その完璧な『コピー』よ」


 その言葉は、雷鳴のように俺の頭を撃ち抜いた。


「じゃあ……本物の俺は……?」

「今頃、日本の教室で退屈な授業でも受けてるんじゃないかしら。自分が、遠い異世界で戦っているなんて、夢にも思わずにね」


 頭が、真っ白になった。

 今まで俺を支えてきた、全てのものが足元から崩れ落ちていく。


 家族の記憶も。友人の記憶も。守りたいと願った、ルナへの想いさえも。

 それらすべてが、借り物のデータだというのか?

 俺のこの怒りも、悲しみも、絶望も、すべてが作られたプログラムだというのか?


「ああ……あああああああああっ!」


 俺は、その場に崩れ落ち、頭を抱えて絶叫した。


 信じたくない。だが、アキラの言葉には、否定しようのない真実の響きがあった。

 俺は、人間ですらなかった。

 ただ、そう思い込んでいただけの、精巧に作られた人形。


 壊れた人形、か。ルキウスの言葉は、正しかったのかもしれない。

 俺は、一体、誰なんだ?


第九章 了

第九章、お読みいただきありがとうございました。

ついに、この物語の核心に触れる真実が明かされました。

シンタロウは「本物」ではなく、精巧に作られた「コピー」である、と。

彼が今まで信じてきたもの、守ろうとしてきた想い、その全てが根底から覆されました。

英雄と呼ばれた少年は、今、自分自身の存在意義さえも見失っています。

絶望の底に突き落とされたシンタロウ。

彼はこのまま、壊れた人形として心を閉ざしてしまうのか。

それとも――。

次回、アキラが語るのは、彼女自身の過去、そしてこの世界の歪みを決定づけた、もう一人の賢者の悲劇。

その物語が、絶望の中にいるシンタロウに、新たな「怒り」と「目的」を与えることになります。

物語の謎が、ここから一気に解き明かされていきます。

絶対に面白い展開になりますので、ぜひブックマークやページ下の☆での評価で、今後の物語を応援してください!

それでは、また次回の更新でお会いしましょう。

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