表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/36

第六章:鉄槌の砦

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

一ヶ月にわたる地獄の訓練を終えたシンタロウ。

彼は感情を殺し、ただ主の命令を待つ『人形』へと変貌しました。

そして、ついにその力が試される時が来ます。

舞台は、敵の大軍に包囲された最前線の砦。

シンタロウの初陣です。

彼が「兵器」として、初めて戦場で咆哮を上げます。

第六章『鉄槌の砦』、お楽しみください。


 俺たちが「鉄槌の砦」に到着したのは、訓練が終わった翌日の夕刻だった。


 半日にわたる強行軍だったが、【疲労を知らない肉体】を持つ俺には何でもなかった。道中、俺は一言も発さず、ただ黙々と馬上で揺られていただけだった。

 ルナは後方の安全な補給部隊に預けられている。


 砦に近づくにつれ、戦場の匂いが濃くなっていく。

 血と、汗と、鉄と、そして肉の焼ける異臭。絶え間なく響く怒号と悲鳴。


 俺の心は、不思議なほど静かだった。一ヶ月にわたる地獄が、俺から恐怖という感情すら奪い去っていた。


「状況は最悪、か」


 砦の城壁の上で、ルキウスが眼下に広がる敵陣を見下ろしながら呟いた。


 眼下には、数万はいるであろう東方部族連合「ガルディアン」の大軍勢が、蟻のようにひしめいている。彼らが掲げる部族旗が、不気味な獣のように風に揺れていた。


「将軍! お待ちしておりました!」


 砦の守備隊長が、血と泥に汚れた顔で駆け寄ってくる。その顔には、深い疲労と絶望が刻まれていた。


「もはや限界です! 西側の城壁が破城槌はじょうついの攻撃で崩壊寸前に!」

「状況は把握している」


 ルキウスは冷静に答えると、俺に視線を向けた。


「シンタロウ」

「……ああ」

「貴様の初陣だ。だが、やることは訓練と変わらん。思考を捨てろ。感情を殺せ。ただ、私の命令に従え」


 ルキウスは敵陣の一点、巨大な破城槌が城壁に打ち付けられている箇所を指さした。


「貴様の目標は、兵士ではない。あの破城槌だ。何があっても、まずあれを破壊しろ。いいな?」

「了解した」


 俺の短い返事を聞くと、ルキウスは守備隊長に命じた。


「弓兵隊、賢者の進路を援護せよ!」


 守備隊長は「はっ」と返事をしながらも、その目は疑念に満ちていた。

 こんな少年一人に、一体何ができるというのか。その場の誰もが、そう思っていた。


 俺は、そんな視線を気にも留めず、城壁の縁に立った。

 そして、眼下に広がる敵の只中へ、躊躇なくその身を躍らせた。


「なっ!?」


 兵士たちの驚愕の声が、風に乗って聞こえた気がした。


 高さ二十メートルはあろうかという城壁からの跳躍。

 だが、俺の体は一切のダメージを受けることなく、大地に突き刺さるように着地した。


 ドゴォォォッ!


 着地の衝撃で地面が陥没し、周囲にいた敵兵が数人吹き飛ぶ。

 ガルディアンの兵士たちは、突如として空から降ってきた俺を見て、一瞬動きを止めた。


 だが、すぐに我に返り、雄叫びを上げながら殺到してくる。


 思考はない。感情もない。

 俺はただ、ルキウスに命じられた通り、目標である破城槌に向かって一直線に走り出した。


 襲いかかってくる刃を、俺は避けることすらしなかった。


 鎧袖一触。

 俺の腕に叩きつけられた剣は甲高い音を立てて折れ、兵士は逆にその衝撃で吹き飛ぶ。

 槍が突き込まれれば、その穂先を素手で掴み、槍ごと相手を投げ飛ばす。


 俺は、人間というより、暴走する攻城兵器そのものだった。

 ガルディアンの兵士たちの顔が、勇猛な戦士のそれから、理解不能な怪物を見る恐怖の表情へと変わっていく。


 そして、ついに俺は巨大な破城槌の前へとたどり着いた。

 十数人がかりで操作する、大木をそのままぶつけるような凶悪な兵器。


 俺は、その先端に取り付けられた鉄の塊を、真正面から殴りつけた。


 メキメキッ!


 という嫌な音と共に、巨大な丸太に巨大な亀裂が走る。

 だが、俺はそれだけでは終わらなかった。


 破城槌を支えていた台座を蹴り砕き、巨大な丸太そのものを片手で持ち上げたのだ。


「う、おおおおおおっ!」


 俺の口から、自分のものではないような咆哮が漏れた。

 全長十メートルを超える大木を、俺は軽々と振り回し、巨大な棍棒のように周囲の敵兵をなぎ払った。


 兵士たちは、鎧を着けていようがいまいが関係ない。まるで木の葉のように宙を舞い、肉塊となって地面に叩きつけられていく。

 その光景は、まさしく神話の巨人。あるいは、破壊の化身。


 城壁の上でその光景を見ていた共和国の兵士たちは、言葉を失っていた。

 先ほどまで死の淵にいた彼らの目に、俺の姿は救いの神のように映っただろう。


 やがて、一人が叫んだ。


「すげえ……」


 その声が伝播するように、城壁のあちこちから歓声が上がり始めた。それはやがて、砦全体を揺るがすほどの雄叫びへと変わっていった。


 敵陣の只中で、俺は破壊の限りを尽くしていた。

 敵の攻撃は、もはや俺に届かない。

 俺の周囲には、恐怖に駆られて近づくことしかできない、空白の地帯が生まれていた。


 城壁の上で、守備隊長が呆然とルキウスに問いかける。


「将軍……あれは、一体……」


 ルキウスは、その狂乱の光景を、表情一つ変えずに見下ろしていた。

 彼は、歓声に沸く兵士たちにも、眼下の俺にも目もくれず、ただ静かに次の命令を下した。


「シンタロウ。聞こえるか」


 その声は、不思議と俺の耳にだけはっきりと届いた。


「次の目標は、あそこの投石機だ。続けろ」


 俺は、血と肉片に塗れた顔を上げ、無機質な瞳で、主の指し示した次の獲物を見つめた。


第六章 了


第六章、お読みいただきありがとうございました!

シンタロウの初陣、いかがでしたでしょうか。

共和国の兵士たちの目には、彼は救国の英雄、あるいは神の使いと映ったかもしれません。

しかし、その瞳に光はなく、ただ主の命令に従うだけの人形……。

彼の圧倒的な力が、この戦局をどう変えていくのか。

一人の『怪物』の登場で、戦場の流れは大きく変わりました。

しかし、戦いはまだ始まったばかりです。

シンタロウはたった一人で、この絶望的な状況を覆すことができるのか。

そして、未知の脅威を目の当たりにした東方の雄、ガルディアンはどう動くのか。

砦の攻防は、さらに激化していきます。

面白い!と思っていただけましたら、ぜひブックマークやページ下の☆での評価で応援をお願いいたします!

それでは、また次回の更新でお会いしましょう!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ