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第十三章:逆転の一手

無限の再生力を持つ『キマイラ』の前に、英雄シンタロウは、たった一人で立ちはだかる。


魂に刻まれた「仲間を守る」という本能だけが、彼の体を動かしていた。その肉体は無数の傷に覆われ、意識は明滅を繰り返す。


絶望的な時間稼ぎの中、シンタロウの脳裏に、キマイラの**「哀しい記憶」**が流れ込む。それは、兵器の中に閉じ込められた、一人の人間の慟哭だった。


一方、背後に託された知性ルナは、希望を求めて要塞の奥深くまで疾走する。


手がかりは、二代目賢者シュウが残した、心優しき研究の「痕跡」。


破壊のための兵器には、必ず暴走を止める「安全装置フェイルセーフ」があるはず――!


命を懸けた「肉体の極限」と、「頭脳の極限」。


二人の力が一つになった時、ルナの起死回生の一手が炸裂する!


「無限のエネルギーを、無限の破壊力に変える!」


カッシウスの狂気が生み出した『神』は、自らが求めた無限の力によって、今、内側からその身を焼き尽くされる。


第十三章「逆転の一手」! 絶望の淵から、奇跡の逆転劇を見届けよ!


俺の意識は、明滅を繰り返していた。


キマイラの攻撃は、あまりにも重く、速く、そして容赦がなかった。

無限のエネルギーを得たそれは、もはや「兵器」ではなかった。ただ、そこにある全てを破壊するためだけに存在する、「災害」そのものだった。


殴り飛ばされ、壁に叩きつけられる。

再生しかけた腕を、ブレードで切り裂かれる。


思考は、とうに麻痺していた。ただ、目の前の仲間を守るという、魂に刻まれた本能だけが、俺の体を動かしていた。


(……まだだ……まだ、倒れるわけには……いかない……!)


ルナとルキウスが、活路を見つけ出すまでの、時間稼ぎ。

それが、今の俺に与えられた、唯一にして最後の役目。


俺は、血反吐を吐きながら、再び立ち上がる。


その、何度目かの衝突の瞬間。

キマイラの拳と俺の拳が激突し、凄まじいエネルギーが奔流となって俺の体を駆け巡った。


その時、俺の脳裏に、ノイズ混じりの映像が流れ込んできた。


――爆炎に包まれる戦場。失われた両足。絶望の中で、手を差し伸べるカッシウスの顔。冷たい実験台の上で、薄れていく意識――。


(なんだ……これ……? こいつの、記憶……?)


俺が戦っているのは、ただの機械ではない。

その中には、俺と同じように、戦争に運命を狂わされた、一人の人間がいる。


その事実は、俺の怒りを、深い哀しみへと変えていった。


***


「こっちだ!」


ルキウスの先導で、俺とルナは要塞の奥深くへと走っていた。

背後で響く、シンタロウとキマイラが激突する轟音が、一秒ごとに俺たちの心を焦らせる。


「ルナ殿、何を探している!?」


「二代目賢者様の……痕跡です!」


私の頭の中には、あの鋼鉄の悪魔を見た時の、奇妙な既視感がこびりついていた。

あの落書き。二代目賢者シュウ様が、戯れに描いた、空想のゴーレム。


もし、このキマイラが、シュウ様の研究と思想を受け継いでいるのだとしたら。

あの心優しかった賢者様が、ただ破壊のためだけの兵器を作るはずがない。


必ず、どこかに。暴走を止めるための「安全装置フェイルセーフ」があるはずだ。


やがて、私達は一つの部屋にたどり着いた。


「賢者の礎」から伸びる極太のエネルギーケーブルが、全てこの部屋へと集束している。エネルギー供給の制御室だ。


部屋の中央には、複雑な術式が刻まれた巨大な水晶の制御装置が、禍々しい光を放っていた。


「……これだ」


私は、その制御装置へと駆け寄った。

表面を流れるエネルギーのパターンは、カッシウスが構築した、悪趣味で複雑なものだった。


だが、その奥底に、見覚えのある、シュウ様のものと酷似した、優雅で洗練された術式の基礎構造が見て取れた。


「ルキウス様、お願いします! 私が術式を解体するまで、誰もこの部屋に入れないでください!」


「……分かった。貴様を信じよう」


ルキウスは、剣を抜き、部屋の入り口で仁王立ちになった。


私は、目を閉じ、意識を集中させた。


脳裏に、シュウ様が遺した研究書の、膨大なページが蘇る。


カッシウスは、シュウ様の理論を悪用し、エネルギーを一方的に「出力」させることしか考えていない。ならば、その流れを、逆に。


安全装置を、暴走装置として利用する。

供給される無限のエネルギーを、キマイラ本体へと、逆流させる!


「見つけ……ました……!」


無数の術式の中から、たった一つの答えを見つけ出す。


私の指が、まるでピアノを奏でるかのように、制御装置の上を走り始めた。


既存の術式を書き換え、新たな流れを構築していく。頭が、焼き切れそうだ。だが、シンタロウ様が、命を懸けて時間を稼いでくれている。


(間に合え……! 間に合って……!)


そして、ついに最後の術式を、私は叩き込んだ。


***


もはや、限界だった。


キマイラの無慈悲な鉄槌が、俺の体を打ち据える。

視界が霞み、膝から崩れ落ちた俺の目の前で、キマイラがとどめの一撃を放たんと、その腕を振り上げた。


(……ごめん、ルナ……ここまで、みたいだ……)


俺が、全てを諦めかけた、その瞬間。


ギギギギギギッ!?


キマイラの動きが、不自然に停止した。

振り上げられた腕が、痙攣するように震えている。


機体の全身から、バチバチと青白い火花が散り始めた。


『な、なんだ!? どうした、セプティムス!』


管制室から、カッシウスの狼狽した声が響く。


『エネルギーが……逆流しているだと!? 馬鹿な、ありえん!』


キマイラの背中に接続されたケーブルが、赤熱化していく。

「賢者の礎」から、制御不能のエネルギーが、奔流となってキマイラ本体へと流れ込んでいるのだ。


もはや、それは力ではなく、機体を内側から破壊する、ただの毒だった。


「グ……アアアアアアアアアアアアアッ!!」


キマイラから、機械音ではない、人間のものとしか思えない、絶叫が響き渡った。


鋼鉄の神は、自らが求めた無限の力によって、今、その身を内側から焼かれ、のたうち回っていた。


別の部屋で、ルナが膝から崩れ落ち、荒い息をついているのを、俺はまだ知らなかった。

ただ、目の前で起こった逆転劇に、呆然とすることしかできなかった。


第十三章 了

いつも『異世界に召喚された俺は「壊れた人形」と蔑まれた偽物の賢者らしい。~疲労を知らない肉体と規格外の怪力で、腐った国家の道具にされた僕は、やがて自らの存在を賭けて反逆の剣を振るう~』をお読みいただきありがとうございます。

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今後とも応援のほど、よろしくお願いいたします

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