第十二章:無限の神
夜明けと共に、ルキウスとゼファルの三万を超える連合軍が総攻撃を開始!
その怒涛の陽動に乗じて、最強の別動隊、シンタロウ、ルキウス、ルナの三人は、カッシウスの要塞の奥深くへと潜入する。
迷宮のような地下施設を進み、ついに辿り着いた、最終決戦の地。
そこで俺たちが目にしたのは、賢者の礎とキマイラが、おぞましく直結された、悪魔の降誕祭だった。
「これで、キマイラは無限のエネルギーを手に入れた!」
狂信者カッシウスの宣言は、ルキウスの戦術眼すら「敗北」へと追いやる、究極の絶望だった。
無限の再生力、無限の破壊力。もはや、活動限界など存在しない『無限の神』。
その一撃は、山をも砕く、絶対的な力。
だが、英雄シンタロウは、絶望の中で笑う。
「どっちが先に根負けするか、試してみようぜ!」
無限の神の再生力 vs 疲労を知らない英雄のスタミナ。
ルキウスとルナが活路を見出すための、たった一つの希望。
それは、シンタロウによる、あまりにも無謀で、あまりにも熱い「最後の時間稼ぎ」だった!
第十二章「無限の神」! 英雄、運命を懸けた最終決戦へ!
夜明けと共に、北方の山岳地帯は戦場と化した。
麓に布陣したルキウスとゼファルの連合軍が、カッシウスの要塞化した旧鉱山施設へ、怒涛の総攻撃を開始したのだ。
爆音と怒号が、山々を震わせる。それは、これから始まる潜入作戦の成功を告げる、壮大なファンファーレだった。
「――今だ。行くぞ」
要塞の裏手。ルキウスの静かな号令と共に、俺たちは行動を開始した。
俺は、分厚い鉄で塞がれていた古い通気口の格子を、音もなく引きちぎる。現れた暗い穴の中へ、俺、ルキウス、そしてルナの三人は、静かにその身を滑り込ませた。
要塞の内部は、カエサル時代の遺物らしく、古い鉱山の坑道と、無機質な理術研究施設が、歪に融合した迷宮となっていた。
外の喧騒が嘘のように静まり返った通路を、俺たちは息を殺して進む。
ルキウスが、その卓越した戦術眼で最短ルートを導き出し、ルナが、その鋭い感覚で理術的な罠の気配を察知する。俺は、あらゆる物理的な障害を破壊する準備をしながら、二人の背後を守った。
やがて、俺たちは、ひときわ巨大で、厳重に閉ざされた隔壁の前にたどり着いた。
「……ここだ。この奥に、奴がいる」
ルキウスが、確信を持って言った。
俺は、頷くと、両腕に魂の力を集中させる。
もはや、隠れる必要はない。
「――吹き飛べッ!」
俺の双腕が、鋼鉄の扉を撃ち抜く。凄まじい轟音と共に、扉は紙くずのように弾け飛び、俺たちは部屋の中へと突入した。
そこは、巨大な地下空洞を改造した、神殿のようであり、祭壇のようでもある、禍々しい空間だった。
そして、その中央に広がる光景に、俺たちは言葉を失った。
祭壇の中心に鎮座するのは、無数のケーブルに繋がれ、冒涜的な光を放つ、アキラの石像「賢者の礎」。
そして、その石像から伸びる極太のケーブルは、一体の鋼鉄の巨人の背中へと接続されていた。
『キマイラ』。
その機体は、以前とは比べ物にならないほどの、圧倒的なエネルギーをその身に宿し、神々しく、そして不気味に輝いていた。
「――お待ちしておりましたぞ、反逆者ども」
一段高い場所にある管制室から、カッシウスの甲高い声が響き渡った。その顔は、自らの創造物を前に、恍惚とした喜びに歪んでいる。
「ようこそ、我が神の降誕祭へ!」
「カッシウス……! アキラの像に、何をした!」
俺の怒りの声に、カッシウスは心底楽しそうに笑った。
「何をした、ですと? 見れば分かるでしょう! 賢者の力の源泉たる『礎』と、我が最高傑作『キマイラ』を直結させたのですよ! これで、キマイラは無限のエネルギーを手に入れた!」
「なんだと……?」
ルキウスが、戦慄の声を漏らす。
俺たちの唯一の勝ち筋は、キマイラの活動限界時間まで、耐え凌ぐことだったはずだ。
「お見せしましょう!」
カッシウスが叫ぶと、キマイラは自らの腕のブレードで、己の胸部装甲を突き刺した。
だが、深くえぐられたはずの傷は、アキラの石像から奔流となって流れ込む光のエネルギーによって、瞬く間に再生していく。
「もはや、時間切れなどという弱点は存在しない! 無限のエネルギー! 無限の自己修復! まさしく、人知を超えた『無限の神』の誕生ですぞ!」
絶望。
その二文字が、俺たちの心を支配した。
ルキウスの顔から、一切の表情が消える。どんな戦況でも活路を見出してきた彼の戦術眼が、初めて「敗北」の二文字を捉えていた。
「さあ、神罰の時間です! 我が理想の、新世界の礎となるがよい!」
カッシウスの号令で、無限の神が、その腕を俺たちへと振り下ろす。
その一撃は、山をも砕くほどの、絶対的な破壊の意志を宿していた。
俺は、咄嗟にルキウスとルナの前に飛び出し、その一撃を両腕で受け止めた。
凄まじい衝撃に、足元の地面が蜘蛛の巣状に砕け散る。
俺は、数メートル吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「ぐ……っ!」
口の中に、鉄の味が広がる。
だが、まだ、心は折れていない。
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
そして、絶望に顔を歪める二人の仲間に、笑って見せた。
「……行け」
「シンタロウ……何を言って……」
「二人なら、何か方法が見つかるんだろ? あいつのエネルギー供給を止めるとか、そこの管制室のジジイを止めるとか!」
俺は、キマイラから目を離さずに言った。
「俺が、時間を稼ぐ」
「馬鹿を言え! 自殺行為だ!」
ルキウスが叫ぶ。
「無限に再生する相手に、時間を稼いでどうする!」
「ああ、そうかもな」
俺は、拳を握りしめた。魂が、再び燃え上がる感覚。
「だけどよ、ルキウス。俺の体も、ある意味じゃ無限だ。疲れるってことを、知らねえからな」
「――どっちが先に根負けするか、試してみようぜ。お前の無限の再生力と、俺の無限のスタミナ、どっちが上か、な!」
返事を待たずに、俺は地を蹴った。
ただ一人、無限の神へと向かって。
それは、あまりにも無謀で、あまりにも絶望的な、最後の戦いの始まりだった。
第十二章 了
いつも『異世界に召喚された俺は「壊れた人形」と蔑まれた偽物の賢者らしい。~疲労を知らない肉体と規格外の怪力で、腐った国家の道具にされた僕は、やがて自らの存在を賭けて反逆の剣を振るう~』をお読みいただきありがとうございます。
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