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第六章:黒幕の誤算

英雄シンタロウを圧倒した、鋼鉄の悪魔『キマイラ』。


その開発を密かに支援していた男――老獪な政治家、マルクス・カトー。


彼は、皇帝ルキウスの力を牽制するための**「適度な危機」**を作るつもりだった。


東方でのガルディアンの内紛、そして帝都の地下で生まれる**「帝国の盾」**。全ては彼の掌の上で、完璧に制御されるはずだった。


だが、第五章で露呈した**『キマイラ』**の桁外れの破壊力と、狂信者カッシウスの報告書は、カトーの計画を完全に打ち砕く。


(私が望んだのは、こんなものではない……!)


自らが盤上に放ったはずの駒が、制御不能な「竜」へと変貌した時、老獪な政治家の顔から余裕が消える。


このままでは、帝国は崩壊する。


自らの失敗を処理するため、そして自己の破滅を避けるため、カトーは最悪の決断を下す。


それは、最大の敵であるはずの皇帝ルキウスに、事件の**「真実」**を密告するという、屈辱的な一手だった。


裏切り、誤算、そして情報戦。


陰謀の糸は、今、黒幕自身の手によって、英雄たちの捜査線へと結びつけられる――。


第六章「黒幕の誤算」、物語の真の敵が明らかになります。


翌朝、帝都の一等地にあるマルクス・カトーの屋敷は、いつもと変わらない静かな朝を迎えていた。


カトーは、手入れの行き届いた書斎で、淹れたての紅茶を嗜みながら、元老院から届いた報告書に目を通していた。


(ルキウスめ、上手くやりおるわ……)


皇帝ルキウスが、ガルディアンとの緊張緩和のために、新たな経済支援策を提示したという内容だった。民衆も元老院も、その賢明な判断を称賛している。


だが、カトーはそれに満足していなかった。


(盤石すぎる。皇帝の力が、あまりにも強くなりすぎている)


彼は、カエサルの悪夢を忘れてはいなかった。絶対的な権力は、どれほど高潔な人物であろうと、必ず腐敗させる。国のためには、皇帝の力を牽制する「対抗勢力」と、適度な「危機」が必要なのだ。


そのための布石は、すでに打ってある。


東では、彼の支援を受けたウルフガングが、ゼファルの和平路線に不満を持つ部族長たちをまとめ上げ、不穏な空気を醸成している。


そして、帝都の地下では、カッシウスという狂信的な研究者が、「帝国の盾」なる新兵器の開発を進めている。


どちらも、カトーにとっては可愛い駒だった。

東方で小競り合いでも起これば、ルキウスは元老院の協力なしには動けまい。新兵器が完成すれば、それもまた元老院が管理すべきだという格好の口実になる。


全ては、彼の掌の上で、完璧に制御されているはずだった。


その、老獪な政治家の余裕が崩れたのは、腹心の密偵が、血相を変えて書斎に駆け込んできた時だった。


「カトー様! カッシウスの研究室から、昨夜の『実地試験』に関する緊急報告です!」


密偵から手渡されたのは、分厚い羊皮紙の巻物だった。カトーがその封を解き、広げると、そこにはカッシウスの狂気に満ちた几帳面な文字と、数枚の木炭で描かれたおぞましいスケッチが添えられていた。


スケッチには、鋼鉄の巨人と、一人の少年が激突する様が、生々しく描かれていた。大地は割れ、建物は吹き飛び、その破壊の規模は、まるで神話の戦いのようだった。


報告書には、カッシウスの狂喜に満ちた言葉が書き連ねられていた。


『成功です! プロトタイプでありながら、賢者シンタロウと互角の戦闘が可能! エネルギー供給の問題さえ解決すれば、我々は神をも超える力を手にしますぞ!』


カトーの手が、震えた。

カチャリ、と音を立てて、彼が愛用していたティーカップが床に落ちて砕け散る。


(……違う)


彼の額に、冷たい汗が伝う。


(私が望んだのは、こんなものではない……!)


彼がカッシウスに求めたのは、皇帝を牽制するための、少し強力な「番犬」だったはずだ。

だが、カッシウスが作り上げたのは、国そのものを滅ぼしかねない、制御不能の「竜」だった。


こんなものが完成すれば、カエサル以上の独裁者が、新たに生まれるだけだ。いや、国ごと焦土と化すかもしれない。


計画は、すでに自分の手を離れてしまった。

このままでは、破滅だ。


カトーは、震える手で密偵を下がらせると、一人、書斎の中を歩き回った。


カッシウスを、直接止める? 不可能だ。今や彼は、誰にも止められない力を持ちつつある。関与が露見すれば、自分の破滅にも繋がる。

何もしない? それは、帝国の崩壊を座して待つに等しい。


(……一手、間違えたか)


老政治家は、苦々しく呟いた。

だが、彼はまだ、ゲームを降りるつもりはなかった。


自らが盤上に放った危険すぎる駒を処理するために、彼は、最も使いたくなかった手を使うことを決意した。


――敵に、情報を与える。


カトーは、新しい羊皮紙を取り出すと、羽ペンで簡潔な文章を書きつけた。彼はそれを蝋で封をすると、待機させていた腹心の密偵を呼んだ。


「いつもの手順で、これを元老院の『友人』に届けろ。誰からのものかは、言うまでもないな」


その手紙の内容は、こうだ。


『帝国の平和を憂う者より、警告する。

「賢者の礎」消失の真犯人は、帝国内部に潜む、旧カエサル派の残党である。

首謀者は、理術研究員カッシウス。彼は禁断の兵器を開発し、ガルディアンの反乱分子と手を組んで、帝国の転覆を狙っている。

真の敵は、外ではなく、内にあり』


密偵が音もなく去っていくのを確認すると、カトーは疲れたように、深く椅子に身を沈めた。


これで、ルキウスも事件の真相に近づくだろう。カッシウスとウルフガングを、二つまとめて潰してくれるはずだ。

自らの計画の失敗を、最大の敵であったはずの皇帝に処理させる。それは、彼にとって最大の屈辱だった。


「……さて」


カトーは、窓の外で白み始めた空を見つめた。


「この手札で、どう動くかな、賢帝ルキウスよ」


第六章 了

いつも『異世界に召喚された俺は「壊れた人形」と蔑まれた偽物の賢者らしい。~疲労を知らない肉体と規格外の怪力で、腐った国家の道具にされた僕は、やがて自らの存在を賭けて反逆の剣を振るう~』をお読みいただきありがとうございます。

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今後とも応援のほど、よろしくお願いいたします

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