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第四章:探偵たちの捜査線

世界を揺るがす「賢者の礎」消失事件。


帝国とガルディアンの間の和平は崩壊寸前。


この未曾有の危機に対し、皇帝ルキウスが唯一信頼し、全権を委ねた者たち。


それは、規格外の力を持つ英雄シンタロウと、その傍らに立つ知性ルナだった。


ルキウスの言葉を受け、二人は皇帝特使として、帝都の闇へと足を踏み入れる。


静かな村の日常から一転、彼らは「探偵」として、事件の真相を追うことになる。


ルナの繊細な観察眼が、厳重に閉鎖された神殿の内部から、わずかな**「事故の痕跡」**を発見する。


そして、シンタロウの異能の五感と、ルナの聞き込み術が、裏路地の闇市で、最初の実行犯である清掃員の影を追い詰めていく。


小さな罪から始まった事件は、しかし、やがて大陸全土を巻き込む巨大な陰謀の糸口となる。


「これは、偶然か、それとも必然か?」


捜査線が導いた先は、旧カエサル派の亡霊が潜む、禁断の理術研究所。


ついに、平和を脅かす真の悪意が、その姿を現し始める――!


第四章「探偵たちの捜査線」、ご期待ください!

帝都は、見えない緊張感に包まれていた。


「賢者の礎」消失の報は、瞬く間に大陸全土を駆け巡り、帝国とガルディアンの関係は、ここ数年で最悪の状態にまで冷え込んでいた。


俺とルナは、皇帝ルキウスとの謁見のため、厳重な警備が敷かれた皇宮へと足を踏み入れた。


玉座の間で待っていた友の顔には、統治者としての深い疲労が刻まれている。


「よく来てくれた、シンタロウ、ルナ」


「水臭い挨拶は抜きだ、ルキウス。状況を教えろ」


ルキウスは、俺たちに事件の全容を説明した。完璧な密室からの消失。両国間に広がる疑心暗鬼。そして、一触即発の軍事的緊張。


「私は、これを第三者による、和平破壊を狙った陰謀だと見ている。だが、私や帝国の名で動けば、ガルディアンを刺激するだけだ」


彼は、一枚の羊皮紙を俺に差し出した。そこには、皇帝の印が押されている。


「皇帝特使として、貴様たちに全権を委ねる。自由に動き、真相を突き止めてほしい。シンタロウ、お前の力と、世間に知られていない顔が必要だ。……そして、ルナ」


ルキウスは、ルナに真摯な目を向けた。


「君の知性を頼りにしている。我々軍人では見落とすような、些細な違和感を見つけ出してくれると信じている」


ルナは、その言葉に静かに、しかし力強く頷いた。


俺たちは、ただの英雄でも、その付き人でもない。皇帝が唯一頼れる、二人の「探偵」だった。


***


俺たちが最初に訪れたのは、事件の現場である「礎の神殿」だった。


聖地は、両国の兵士によって固く封鎖され、互いを牽制しあうように睨み合っている。


「……ひどい空気だな」


「ええ。ですが、これでよく分かりました。両国とも、本気で事を構えたいわけではない。互いに、相手の出方をうかがっているだけです」


ルナが、冷静に状況を分析する。

俺たちは、空っぽになった台座が残る神殿の内部を、くまなく調査し始めた。


俺は、自分の規格外の五感を使い、常人には分からない痕跡を探す。微かな匂い、空気の流れ、床に残る振動の残滓。

だが、犯人はあまりにも用意周到で、物理的な痕跡はほとんど残っていなかった。


「シンタロウ様、こちらへ」


ルナが、台座の隅を指さした。


「何か、気づきませんか?」


俺が見ても、そこには何もないように見えた。


「ここに、極めて微量ですが、安物の洗浄油の痕跡があります。それも、引きずったような、不自然な形で」


彼女は、さらに床の一点を指さす。


「そして、ここには滑ったような靴跡が。争ったものではありません。まるで、足を滑らせたような……」


俺は、彼女の言わんとすることを理解した。


「……つまり、犯人は、屈強な兵士や理術師の集団じゃない。もっと、こう……不慣れな、この神殿の内部の人間……?」


「はい」


ルナは、確信を持って頷いた。


「これは、巧妙に計画された強奪事件などではない。恐らくは、内部の人間による、偶発的な事故から始まったのではないでしょうか」


その仮説を元に、俺たちは神殿の管理者に話を聞いた。

事件の夜に働いていた職員、特に清掃員のリストを。


「清掃員、ですか? 夜勤はミロという男一人でしたが……」


管理者は、訝しげに答えた。


「そういえば、ミロは事件の翌朝、急に辞めていきましたな。『親戚から遺産が入ったので、帝都に帰る』と……」


決定的だった。

貧しい一介の清掃員が、事件の直後に、大金を手にしたかのように姿を消す。

偶然にしては、出来すぎている。


俺とルナは、視線を交わした。

最初の糸口は、見つかった。


***


帝都に戻った俺たちは、平民の服に着替え、裏路地の闇市へと向かった。


ミロが手に入れた「遺産」とやらが、どのような形で彼の懐に入ったのか。それを探るためだ。


「おい、アンタ。最近、妙な光る石ころを見なかったか?」


俺が、強面の商人に声をかけると、面白いように邪険に扱われる。どうやら、俺はこういう場所では威圧感が強すぎるらしい。


「シンタロウ様は、少しお待ちください」


ルナはそう言うと、俺を後ろに下がらせ、自ら別の商人へと歩み寄った。

彼女は、威圧も、取引もしない。ただ、世間話をするように、賢者の石に関する噂話を、それとなく相手に振るのだ。


「最近、初代賢者様の力が宿ったお守り石なんてものが、出回ってるんですってね。ご存じです?」


数人の商人を渡り歩いた後、ついに一人の男が、その話に食いついた。

男は、ルナをただの噂好きの娘だと思い込み、自慢げに語り始めた。


「へっ、嬢ちゃん、耳が早いな。ああ、そんな石があったぜ。数日前、田舎者みたいな男が持ち込んできてな。俺が買い取って、すぐに馴染みのブローカーに高値で流してやったよ」


その男から、俺たちは次の情報を引き出した。

破片を仲介したブローカーの名。そして、その事務所の場所を。


ブローカーの事務所は、闇市とは違い、表通りに面した立派なものだった。

俺たちが皇帝特使の身分証を見せると、血相を変えたブローカーは、洗いざらい全てを白状した。


「め、滅相もございません! 私が扱いましたのは、ただの希少な理術触媒と……! お買い上げになったお客様の個人情報は、決して……」


「いいから、記録を見せろ」


ルキウスから借りた、皇帝然とした口調で命じると、ブローカーは震えながら帳簿を差し出した。

そこには、取引の記録が残っていた。


買い主の名は、匿名。

だが、その届け先は、はっきりと記されていた。


帝都の工業地帯の外れにある、今は使われていないはずの、第三理術研究所。

そこは、かつてカエサルが、極秘の研究を行っていたと噂される場所だった。


俺とルナは、顔を見合わせた。


一人の清掃員の小さな罪から始まった捜査線は、ついに、亡霊のように蘇った旧時代の闇へと、繋がったのだ。


第四章 了

いつも『異世界に召喚された俺は「壊れた人形」と蔑まれた偽物の賢者らしい。~疲労を知らない肉体と規格外の怪力で、腐った国家の道具にされた僕は、やがて自らの存在を賭けて反逆の剣を振るう~』をお読みいただきありがとうございます。

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今後とも応援のほど、よろしくお願いいたします

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