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第十九章:友との決別

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ついに物語は最終章へと入ります。

独裁官カエサルは倒れ、帝国には平和な時代が訪れました。

誰もが、このまま幸せな結末を迎えるのだと思ったでしょう。

しかし、一つの約束が、まだ果たされていませんでした。

全ての元凶である「召喚魔法」。

これを巡り、同じ道を歩んできたはずの二人の友の間に、決定的な亀裂が生じます。

理想と現実、友情と国家。

哀しい決別を描く第十九章『友との決別』、お楽しみください。

 カエサルが倒れ、新しい時代が始まってから、半年が過ぎた。


 独裁官という恐怖の象徴を失った共和国は、一時的な混乱の後、新たな道を歩み始めた。

 その中心にいたのは、クーデターを成功させた英雄、ルキウス・アクィラだった。


 彼は、腐敗した元老院を一度解体し、国民から絶大な支持を得て、初代皇帝に即位。国名を「ウルビュス新帝国」と改め、帝国の再建と、東方部族連合ガルディアンとの和平交渉に力を注いでいた。

 人々は、圧政からの解放者である若き皇帝を称え、新しい時代の幕開けに希望を抱いていた。


 その頃、俺――シンタロウとルナは、首都の外れにある小さな家で、静かに暮らしていた。

 俺は、クーデターの英雄として祭り上げられはしたが、全ての公的な役職を辞退し、歴史の表舞台から姿を消した。


 偽りの存在である俺にとって、それは望んだ通りの穏やかな生活だった。ルナが隣で微笑んでくれる。それだけで、満たされていた。


 この平和が、ずっと続けばいい。

 俺は、本気でそう願っていた。


 だが、運命は、俺たちに安息の時間を与えてはくれなかった。


 その日、俺は皇帝となったルキウスに、半年ぶりに正式に召喚された。

 場所は、かつての元老院議事堂、今の皇宮。俺たちがカエサルを討った、あの執務室だった。


 玉座に座るルキウスは、半年前の鋭い戦士の面影はなく、国という重責を背負う、孤独な統治者の顔をしていた。


「久しぶりだな、シンタロウ。息災そうで何よりだ」

「皇帝陛下には、及びもしませんよ」


 俺の皮肉めいた言葉に、ルキウスは苦笑する。

 当たり障りのない会話が、しばらく続いた。だが、俺がここへ来た目的は一つだけだ。


「ルキウス。もう半年だ。約束を、果たしてほしい」


 俺の言葉に、ルキウスの顔から笑みが消えた。


「……約束?」

「とぼけるな。俺たちが、何のために血を流した? カエサルを討ち、そして、全ての元凶である『召喚魔法』を、この世から完全に消し去る。それが、俺たちの誓いだったはずだ」


 長い、沈黙が落ちた。

 やがて、ルキウスは重い口を開いた。その声は、皇帝としての冷徹な響きを帯びていた。


「……その件だが、シンタロウ。召喚魔法は、存続させることに決めた」

「――何だと?」


 俺は、自分の耳を疑った。


「聞き間違いか? 今、何と言った?」

「言った通りだ。召喚魔法は、破壊しない。帝国の管理下で、厳重に封印する」


 ルキウスは、俺の目をまっすぐに見返して言った。

 怒りが、体の奥底から湧き上がってくる。


「ふざけるな! なぜだ! あれが、どれだけの人間の運命を狂わせてきたか、あんたが一番よく分かっているはずだ!」

「そうだ、分かっている!」


 ルキウスが、声を荒げた。


「分かっているからこそ、破壊できんのだ!」


 彼は、玉座から立ち上がった。


「忘れたのか、シンタロウ! この世界のどこかには、今も初代賢者アキラがいるのだぞ! いつ、我々に牙を剥くか分からない、神にも等しい力を持つ存在が! 召喚魔法は、呪いであると同時に、唯一、アキラに対抗しうる可能性を秘めた『抑止力』なのだ!」


 その言葉に、俺は愕然とした。

 ルキウスの言っていることは、かつてカエサルが抱いていた恐怖と、全く同じ論理だった。


「あんたも……カエサルと同じ道を辿る気か! 恐怖で、力を支配するのか!」

「そうだ!」


 ルキウスは、断言した。


「理想だけでは、国は守れん! 平和とは、より大きな力によって、かろうじて保たれる砂上の楼閣に過ぎんのだ! 私は、皇帝として、この国を守る責務がある! そのためならば、かつての約束を反故にすることも厭わん!」


 俺たちの視線が、激しくぶつかり合う。

 もはや、分かり合うことはできなかった。


 俺は、犠牲者の視点から、呪いの連鎖を断ち切りたいと願っている。

 彼は、統治者の視点から、国を守るための力を欲している。

 どちらも、それぞれの正義だ。だが、その道は、決して交わることはない。


 俺たちの友情は、カエサルを倒したあの日に、終わっていたのかもしれない。


「……そうか」


 俺は、静かに呟いた。


「分かったよ、皇帝陛下。あんたの考えは、よく分かった」


 俺は、ルキウスに背を向けた。


「ならば、俺は俺のやり方で、約束を果たすだけだ」

「……待て、シンタロウ。それは、帝国への反逆と見なすぞ」


 俺は、振り返らずに言った。


「ああ、そうだな。――上等だ」


 俺は、誰の制止も受けず、玉座の間を後にした。


 皇宮の外では、全てを察したような顔で、ルナが待っていた。

 俺は、彼女に全てを話した。

 ルナは、静かに頷くと、俺の手をぎゅっと握った。


「どこまでも、お供します。シンタロウ様」


 俺は、首都で最も高い塔――全ての始まりの場所である、理術院を見上げた。

 あそこに、召喚魔法の術式が刻まれた祭壇がある。


 友との約束は、破られた。

 ならば、俺が、この手で。

 この忌まわしい魔法を、この世界から消し去る。

 たとえ、かつての友と、刃を交えることになったとしても。


第十九章 了

第十九章、お読みいただきありがとうございました。

友との、哀しい決別でした。

国を守る皇帝としての「正義」。

犠牲者として呪いの連鎖を断ち切りたいと願う「正義」。

どちらも間違ってはいないからこそ、二人の道は、もう交わることができません。

そして、物語は最後の戦いへ。

シンタロウの目的地は、召喚魔法の祭壇がある「理術院」。

もちろん、皇帝ルキウスが、それを黙って見過ごすはずがありません。

かつて背中を預け合った友が、今、それぞれの譲れないもののために、互いに剣を向け合います。

次回、シンタロウ対ルキウス。

この物語の、最後の戦いです。

物語がどのような結末を迎えるのか、ぜひ最後までお付き合いください。

皆様の応援が、完結への最後の力となります!

それでは、また次回、最終決戦でお会いしましょう。


こちらの作品は『異世界に召喚された俺は「壊れた人形」と蔑まれた偽物の賢者らしい。~疲労を知らない肉体と規格外の怪力で、腐った国家の道具にされた僕は、やがて自らの存在を賭けて反逆の剣を振るう~』のダイジェスト版です、内容も微妙に違います、もしご興味が湧きましたら


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