第十八章:独裁官カエサル
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
クーデター編、最終決戦です。
ついに、反逆者たちは独裁官カエサルの目前へとたどり着きました。
彼らを待ち受けるのは、単なる暴君か、それとも哀しき過去を背負った一人の男か。
シンタロウ、ルナ、ルキウス。三人の長い反逆の旅の、一つの終着点。
全ての元凶との戦いが、始まります。
第十八章『独裁官カエサル』、最後までお見逃しなく。
首都防衛軍が沈黙した元老院議事堂前の広場は、奇妙な静寂に包まれていた。
俺、ルキウス、そして合流したルナの三人は、巨大な議事堂の扉を見据える。この先に、俺たちの旅の最初の目的地がある。
「行くぞ」
ルキウスの短い言葉を合図に、俺たちは議事堂の内部へと足を踏み入れた。
中は、不気味なほど静まり返っていた。
外の喧騒が嘘のように、人の気配が全くない。大理石の床に、俺たちの足音だけが冷たく響く。
それは、まるで巨大な墓標の中を進んでいるかのようだった。
「罠かもしれません」
ルナが、警戒を強める。
「いえ、これは罠ではない。……招待だ」
ルキウスが、静かに答えた。
「カエサルは、我々を待っている。この建物の、最も奥で」
ルナの案内で、俺たちは迷路のような廊下を進む。
そして、ひときわ大きく、豪奢な装飾が施された扉の前へとたどり着いた。
独裁官執務室。
ルキウスが、ゆっくりと扉を押し開ける。
部屋の奥。巨大な窓を背にして、一人の老人が、静かに立っていた。
白髪に、深く刻まれた皺。だが、その背筋は鋼のように真っ直ぐに伸び、その瞳には、老いを感じさせない鋭い光が宿っていた。
彼こそが、ウルビュス共和国を恐怖で支配する男。
独裁官カエサル・リベリウス。
「……ようやく来たか、ルキウス・アクィラ」
カエサルの声は、意外なほど穏やかだった。
「そして、初代賢者に拾われた『壊れた人形』と……二代目の世話役だった女の、忘れ形見か」
最後の言葉は、明らかにルナに向けられていた。彼女の肩が、微かに震える。
「貴様の恐怖政治も、今宵で終わりだ、カエサル」
ルキウスが、剣の柄に手をかけながら言う。
カエサルは、フッと寂しげに笑った。
「恐怖、か。いかにも、私の政治は恐怖だ。だがな、若造。恐怖だけが、この腐りきった国を一つにまとめる唯一の接着剤だったのだ」
彼の視線が、遠い過去を見つめる。
「私は、見たのだ。自由と理想を掲げた親友が、腐った連中の私欲によって無残に殺されるのを。あの時、私は誓ったのだ。二度と、あんな悲劇は繰り返させないと。そのためならば、私は悪魔にでもなろう、と」
その言葉に、嘘はなかった。
彼は、彼自身の正義を、歪んだ形で貫いてきたに過ぎない。
「貴様の理想は、もう終わった!」
ルキウスが叫び、剣を抜く。
「お前が作った歪みは、俺たちが正す!」
「……そうか」
カエサルは、ゆっくりと壁にかけてあった自身の剣を手に取った。
「ならば、力で示すがいい。貴様らの正義が、私の正義を上回れるものか、どうかをな!」
閃光。
次の瞬間、ルキウスとカエサルの剣が、部屋の中央で激しく火花を散らした。
老いてなお、カエサルの剣技は達人の域にあった。ルキウスの鋭い斬撃を、最小限の動きで受け流し、的確な反撃を繰り出す。
「シンタロウ様、援護を!」
ルナが叫ぶ。彼女は指先で複雑な印を結び、カエサルの足元に光の輪を描き出して、その動きを一瞬だけ鈍らせる。
俺は、その隙を突いて、カエサルの背後へと回り込んだ。
だが、カエサルは俺の動きを完全に読んでいた。彼はルキウスを蹴り飛ばして距離を取ると、振り向き様に俺の顔面めがけて剣を突き出してきた。
あまりの速さに、反応が遅れる。
「シンタロウ!」
ルキウスが叫ぶ。
だが、俺は避ける必要はなかった。
俺は、迫りくる剣先を、左手で鷲掴みにした。
**キィン!**
という金属音と共に、俺の手の中で、鍛え上げられた鋼の剣が、飴のようにぐにゃりと曲がる。
「なっ……!?」
カエサルの顔に、初めて驚愕の色が浮かんだ。
「あんたの悲劇は、もう終わらせる」
俺は、曲がった剣をそのまま引きちぎると、がら空きになったカエサルの胴体へ、渾身の右拳を叩き込んだ。
それは、この半年で磨き上げた、魂の燃焼を制御した、一点集中の破壊。
**ゴッ!**
という鈍い音。
カエサルの体は、まるで木の葉のように吹き飛び、執務机を粉々に砕いて、壁に叩きつけられた。
「……ぐ……ふっ……」
口から血を流し、カエサルはゆっくりと崩れ落ちる。
勝敗は、決した。
俺たちがゆっくりと近づくと、カエサルは薄れゆく意識の中で、ルキウスを見つめていた。
「……これが……貴様の望んだ……『自由』か、ルキウスよ……」
「……そうだ」
「……そうか……ならば、せいぜい……俺の轍を……踏むな……よ……」
それが、彼の最期の言葉だった。
独裁官カエサル・リベリウスは、静かに息を引き取った。
部屋に、沈黙が落ちる。
外で続いていた戦闘の音も、いつの間にか止んでいた。
長い、長い夜が、終わった。
俺たちは、ただ呆然と、倒れた独裁者の亡骸を見下ろしていた。
第十八章 了
第十八章、そして「クーデター編」、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
ついに、独裁官カエサルは倒れました。
彼は、親友を想うがゆえに道を踏み外した、哀しい男でした。
彼の最期の言葉が、今後のルキウスにどのような影響を与えるのか……。
ともあれ、シンタロウたちの反逆は、多大な犠牲の末に、一つの大きな目的を達成しました。
腐敗した共和国の夜明けです。
ですが……物語は、まだ終わりません。
カエサルという共通の敵を失った時、同じ目的を見ていたはずの仲間たちの間にも、新たな亀裂が生まれます。
「召喚魔法を消し去りたい」シンタロウと、「賢者の力を恐れる」ルキウス。
二人の正義が、次なる戦いの火種となる。
次回より、物語は最終章へ。
かつての友との、最後の戦いが始まります。
物語の結末まで、どうかお付き合いください。
ここまで読んでくださった皆様からのブックマークやページ下の☆での評価、感想が、完結までの最大の力となります!
それでは、また次章でお会いしましょう。
こちらの作品は『異世界に召喚された俺は「壊れた人形」と蔑まれた偽物の賢者らしい。~疲労を知らない肉体と規格外の怪力で、腐った国家の道具にされた僕は、やがて自らの存在を賭けて反逆の剣を振るう~』のダイジェスト版です、内容も微妙に違います、もしご興味が湧きましたら
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