表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/36

第十五章:偽りの凱旋

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ついに「クーデター編」の幕開けです。

反逆者たちの最初の一手は、武力による激突ではありません。

それは、敵の目を欺き、歴史の裏側へ潜るための、壮大な偽装工作。

全てを失った将軍ルキウスが、その知略の限りを尽くして独裁者に挑みます。

第十五章『偽りの凱旋』、お楽しみください。

 ガルディアンとの密約から、一週間が経っていた。


 俺たちは、ゼファルが用意した隠れ家で、クーデター計画の第一段階について、最後の打ち合わせを行っていた。


「――以上が、作戦の全容だ」


 ルキウスが、地面に広げた地図を指し示しながら説明を終える。

 その作戦内容は、あまりにも大胆不敵で、緻密に計算されたものだった。


「本当にうまくいくのか?」


 俺の問いに、ルキウスは静かに頷いた。


「カエサルは用心深いが、それゆえに『確定した情報』を信じ込む癖がある。我々が全滅したという情報を、彼にとっての『確定事項』に変えるのだ。そのための、壮大な芝居を打つ」


 その作戦名は、**「偽りの凱旋」**。

 もちろん、首都に凱旋するわけではない。

 「ルキウス・アクィラとその軍団は、名誉ある全滅を遂げた」という偽りの報せを、共和国に凱旋させるのだ。


 作戦は、翌日決行された。


 舞台は、共和国の国境に近い、とある森の中。

 主役は、百人隊長のガイウスと、彼が率いる四名の兵士。彼らは、この作戦のために志願した、ルキウスへの忠誠心篤い男たちだった。


「いいか、ガイウス。貴様は死に物狂いで逃げろ。そして、生き残れ。貴様が伝える嘘が、我々の未来を作る」

「御意」


 ルキウスの言葉に、ガイウスは覚悟を決めた顔で頷いた。


 彼らは、わざと鎧を汚し、体に動物の血を塗りたくり、何日も彷徨った敗残兵の姿を完璧に作り上げた。

 そして、ガルディアンの斥候がわざとらしく彼らを「発見」し、戦闘が開始された。


 もちろん、それは戦闘の形をした、凄惨な演劇だった。


 ボルグ率いるガルディアンの兵士たちは、手加減をしつつも、本物に見えるだけの容赦ない攻撃を仕掛ける。共和国兵士たちは、悲壮な覚悟でそれに応戦し、一人、また一人と「殺されて」いく。


 最後に残ったガイウスは、肩にわざと深い傷を負うと、味方の死体を乗り越え、満身創痍で森の奥へと逃げ延びた。

 その背中に、ガルディアン兵たちの嘲笑が浴びせられる。


 完璧な舞台だった。


 その二日後。

 共和国の最東端にある監視砦に、半死半生の兵士が一人、転がり込んできた。


 男の名は、ガイウス。鉄槌の砦で壊滅した、ルキウス軍団の唯一の生存者と名乗った。


「将軍は……ルキウス将軍は、最後まで戦われた……!」


 担架で運ばれながら、ガイウスは血を吐き、涙ながらに報告した。


「敵の罠だ……敵の罠にかかり、我々は……全滅した……! 俺だけが、将軍の命令で、この事実を伝えるためだけに……!」


 その鬼気迫る報告と、彼の負ったおびただしい傷は、疑う者など一人もいないほどの説得力を持っていた。

 報せは、すぐに首都へと伝達された。


「ルキウス・アクィラ、戦死。その軍団は全滅」


 その報を受けた独裁官カエサルは、舌打ちこそすれ、特に気にした様子も見せなかったという。

 邪魔な将軍が一人、勝手に死んだ。彼にとっては、それだけのことだった。


     * * *


 作戦成功の報せは、すぐに俺たちのアジトへも届いた。

 これで、ルキウス・アクィラと彼の軍団は、公式にこの世から存在しないことになった。

 俺たちの反逆計画にとって、これ以上ない最高の隠れ蓑だった。


「さて、ここからが本番だ」


 ルキウスは、集まった「影の軍団」の兵士たちを見渡した。


「我々は、二手に分かれる」


 彼は、まず俺を見た。


「シンタロウ。貴様は私と共に来い。貴様は我々の最終兵器だ。軽々しく動かすわけにはいかん。機が熟すまで、私と共に潜伏し、力を蓄えろ」


 次に、彼はルナを見た。その目には、深い信頼が宿っていた。


「ルナ。貴様には、最も危険な役目を任せる」

「……はい」

「首都へ戻れ。そして、我々の『目』となれ。貴様のその知られざる顔と、聡明な頭脳で、首都の情報を収集し、我々に送り続けろ。元老院の中にいる、我々の協力者とも接触するんだ」


 それは、虎の穴に一人で乗り込むようなものだった。

 だが、ルナの瞳に、怯えはなかった。


「承知いたしました。全ては、……この歪んだ世界を正すために」


 彼女は、力強く頷いた。


 その日の夕刻、俺たちは別れた。


 闇に紛れて、共和国の地方へと潜伏していく、俺とルキウス率いる「影の軍団」。

 そして、たった一人、身分を偽り、独裁官カエサルが支配する首都へと向かう、ルナ。


 次に会う時が、決戦の時だ。

 俺は、遠ざかっていくルナの小さな背中を、ただ黙って見送った。


第十五章 了

第十五章、お読みいただきありがとうございました。

壮大な芝居は成功し、ルキウスたちは歴史上「死んだ」ことになりました。

これで、彼らは誰に知られることもなく、水面下で動くことができます。

シンタロウとルキウスは潜伏し、力を蓄える。

ルナは単身、敵地の中心へ。

それぞれの、孤独な戦いが始まります。

次に彼らが歴史の表舞台に姿を現すのは、クーデター決行のその日。

それまで、数ヶ月にわたる雌伏の時が流れます。

影の軍団は、いかにして牙を研ぐのか。

そして、首都に潜入したルナを待つ出会いとは。

次回、決戦前夜の物語が描かれます。

物語は最終決戦に向けて加速していきます。ブックマークやページ下の☆での評価で応援していただけますと幸いです!

それでは、また次回の更新でお会いしましょう。


こちらの作品は『異世界に召喚された俺は「壊れた人形」と蔑まれた偽物の賢者らしい。~疲労を知らない肉体と規格外の怪力で、腐った国家の道具にされた僕は、やがて自らの存在を賭けて反逆の剣を振るう~』のダイジェスト版です、内容も微妙に違います、もしご興味が湧きましたら


本作の電子書籍版が、Kindleストアにて販売中です。


ぜひお手にお取りください


▶Kindleストアページ

https://www.amazon.co.jp/dp/B0FT1ZCH5C


今後とも応援のほど、よろしくお願いいたします


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ