第十五章:偽りの凱旋
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
ついに「クーデター編」の幕開けです。
反逆者たちの最初の一手は、武力による激突ではありません。
それは、敵の目を欺き、歴史の裏側へ潜るための、壮大な偽装工作。
全てを失った将軍ルキウスが、その知略の限りを尽くして独裁者に挑みます。
第十五章『偽りの凱旋』、お楽しみください。
ガルディアンとの密約から、一週間が経っていた。
俺たちは、ゼファルが用意した隠れ家で、クーデター計画の第一段階について、最後の打ち合わせを行っていた。
「――以上が、作戦の全容だ」
ルキウスが、地面に広げた地図を指し示しながら説明を終える。
その作戦内容は、あまりにも大胆不敵で、緻密に計算されたものだった。
「本当にうまくいくのか?」
俺の問いに、ルキウスは静かに頷いた。
「カエサルは用心深いが、それゆえに『確定した情報』を信じ込む癖がある。我々が全滅したという情報を、彼にとっての『確定事項』に変えるのだ。そのための、壮大な芝居を打つ」
その作戦名は、**「偽りの凱旋」**。
もちろん、首都に凱旋するわけではない。
「ルキウス・アクィラとその軍団は、名誉ある全滅を遂げた」という偽りの報せを、共和国に凱旋させるのだ。
作戦は、翌日決行された。
舞台は、共和国の国境に近い、とある森の中。
主役は、百人隊長のガイウスと、彼が率いる四名の兵士。彼らは、この作戦のために志願した、ルキウスへの忠誠心篤い男たちだった。
「いいか、ガイウス。貴様は死に物狂いで逃げろ。そして、生き残れ。貴様が伝える嘘が、我々の未来を作る」
「御意」
ルキウスの言葉に、ガイウスは覚悟を決めた顔で頷いた。
彼らは、わざと鎧を汚し、体に動物の血を塗りたくり、何日も彷徨った敗残兵の姿を完璧に作り上げた。
そして、ガルディアンの斥候がわざとらしく彼らを「発見」し、戦闘が開始された。
もちろん、それは戦闘の形をした、凄惨な演劇だった。
ボルグ率いるガルディアンの兵士たちは、手加減をしつつも、本物に見えるだけの容赦ない攻撃を仕掛ける。共和国兵士たちは、悲壮な覚悟でそれに応戦し、一人、また一人と「殺されて」いく。
最後に残ったガイウスは、肩にわざと深い傷を負うと、味方の死体を乗り越え、満身創痍で森の奥へと逃げ延びた。
その背中に、ガルディアン兵たちの嘲笑が浴びせられる。
完璧な舞台だった。
その二日後。
共和国の最東端にある監視砦に、半死半生の兵士が一人、転がり込んできた。
男の名は、ガイウス。鉄槌の砦で壊滅した、ルキウス軍団の唯一の生存者と名乗った。
「将軍は……ルキウス将軍は、最後まで戦われた……!」
担架で運ばれながら、ガイウスは血を吐き、涙ながらに報告した。
「敵の罠だ……敵の罠にかかり、我々は……全滅した……! 俺だけが、将軍の命令で、この事実を伝えるためだけに……!」
その鬼気迫る報告と、彼の負ったおびただしい傷は、疑う者など一人もいないほどの説得力を持っていた。
報せは、すぐに首都へと伝達された。
「ルキウス・アクィラ、戦死。その軍団は全滅」
その報を受けた独裁官カエサルは、舌打ちこそすれ、特に気にした様子も見せなかったという。
邪魔な将軍が一人、勝手に死んだ。彼にとっては、それだけのことだった。
* * *
作戦成功の報せは、すぐに俺たちのアジトへも届いた。
これで、ルキウス・アクィラと彼の軍団は、公式にこの世から存在しないことになった。
俺たちの反逆計画にとって、これ以上ない最高の隠れ蓑だった。
「さて、ここからが本番だ」
ルキウスは、集まった「影の軍団」の兵士たちを見渡した。
「我々は、二手に分かれる」
彼は、まず俺を見た。
「シンタロウ。貴様は私と共に来い。貴様は我々の最終兵器だ。軽々しく動かすわけにはいかん。機が熟すまで、私と共に潜伏し、力を蓄えろ」
次に、彼はルナを見た。その目には、深い信頼が宿っていた。
「ルナ。貴様には、最も危険な役目を任せる」
「……はい」
「首都へ戻れ。そして、我々の『目』となれ。貴様のその知られざる顔と、聡明な頭脳で、首都の情報を収集し、我々に送り続けろ。元老院の中にいる、我々の協力者とも接触するんだ」
それは、虎の穴に一人で乗り込むようなものだった。
だが、ルナの瞳に、怯えはなかった。
「承知いたしました。全ては、……この歪んだ世界を正すために」
彼女は、力強く頷いた。
その日の夕刻、俺たちは別れた。
闇に紛れて、共和国の地方へと潜伏していく、俺とルキウス率いる「影の軍団」。
そして、たった一人、身分を偽り、独裁官カエサルが支配する首都へと向かう、ルナ。
次に会う時が、決戦の時だ。
俺は、遠ざかっていくルナの小さな背中を、ただ黙って見送った。
第十五章 了
第十五章、お読みいただきありがとうございました。
壮大な芝居は成功し、ルキウスたちは歴史上「死んだ」ことになりました。
これで、彼らは誰に知られることもなく、水面下で動くことができます。
シンタロウとルキウスは潜伏し、力を蓄える。
ルナは単身、敵地の中心へ。
それぞれの、孤独な戦いが始まります。
次に彼らが歴史の表舞台に姿を現すのは、クーデター決行のその日。
それまで、数ヶ月にわたる雌伏の時が流れます。
影の軍団は、いかにして牙を研ぐのか。
そして、首都に潜入したルナを待つ出会いとは。
次回、決戦前夜の物語が描かれます。
物語は最終決戦に向けて加速していきます。ブックマークやページ下の☆での評価で応援していただけますと幸いです!
それでは、また次回の更新でお会いしましょう。
こちらの作品は『異世界に召喚された俺は「壊れた人形」と蔑まれた偽物の賢者らしい。~疲労を知らない肉体と規格外の怪力で、腐った国家の道具にされた僕は、やがて自らの存在を賭けて反逆の剣を振るう~』のダイジェスト版です、内容も微妙に違います、もしご興味が湧きましたら
本作の電子書籍版が、Kindleストアにて販売中です。
ぜひお手にお取りください
▶Kindleストアページ
https://www.amazon.co.jp/dp/B0FT1ZCH5C
今後とも応援のほど、よろしくお願いいたします




