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第十四章:荒野の総帥

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

「ガルディアンと手を組む」――。

ルキウスが提示した、あまりにも無謀な一手。

シンタロウたちは、昨日までの敵地へと、交渉のため単身乗り込みます。

憎しみと不信が渦巻く中で、交渉は成立するのか。

そして、荒野の民を束ねる総帥ゼファル・クロムウェルとは、一体どんな男なのか。

剣ではなく、言葉と覚悟がぶつかり合う第十四章『荒野の総帥』、お楽しみください。

 ルキウスが「ガルディアンとの同盟」という狂気じみた作戦を口にしてから、五日が過ぎた。


 俺たち――シンタロウ、ルキウス、ルナ、そして護衛の兵士数名は、東方の広大な荒野を旅していた。もちろん、共和国の兵士であることを隠してだ。


「正気か? 俺たちはついこの間まで、殺し合っていた相手だぞ」


 道中、俺が何度目かの問いを投げかけると、ルキウスはこともなげに答えた。


「正気だ。カエサルを討つには、彼の予想の斜め上を行く手を打たねばならん。そして、敗軍の将である俺が、宿敵であるガルディアンと手を組むことほど、奴の予想から外れた手はない」


 その理屈は分かる。だが、どうやって交渉の席に着くのか。

 その答えは、ルナがもたらした。


 彼女は単身、先行してガルディアンの前哨基地に接触。

 共和国の将軍ルキウス・アクィラが、「共通の敵」について話すため、総帥ゼファル・クロムウェルとの会見を求めている、という書状を渡したのだ。

 殺される危険も高い賭けだったが、ガルディアンは意外にも、その要求を受け入れた。


 俺たちは武器を取り上げられ、ガルディアンの兵士に囲まれながら、彼らの本陣へと案内された。


 そこは、石造りの砦とは全く違う世界だった。

 巨大な天幕ゲルがいくつも立ち並び、屈強な戦士たちが焚き火を囲んで談笑している。そこには、共和国の兵士たちにはない、自由で、力強い生命力があふれていた。


 やがて、俺たちはひときわ大きな天幕の前へと導かれた。


 中に入ると、そこには十数名の部族長らしき男たちが居並び、その中央の椅子に、一人の男が悠然と座っていた。

 その男が、東方部族連合「ガルディアン」を束ねる総帥、ゼファル・クロムウェルだった。


 年齢は四十代ほどか。編み込まれた黒髪に、深く刻まれた顔の傷跡。

 だが、その佇まいは荒々しい戦士というより、全てを見通すかのような知性を感じさせる、王の風格があった。


「ようこそ、敗軍の将よ」


 ゼファルが、静かだがよく通る声で言った。


「『共和国の鷲』も、地に落ちればただの濡れ鼠だな。何の用だ?」


 その言葉に、ゼファルの隣にいた猪のような大男が、下品な笑い声を上げた。


「話など聞くまでもない! こいつらの首を刎ね、カエサルへの贈り物にしてやろう!」


 その男の言葉に、他の部族長たちも同調するように殺気立つ。

 だが、ルキウスはそんな殺気に臆することなく、まっすぐにゼファルを見据えた。


「俺は、共和国を裏切った。いや、国に裏切られたと言うべきか。俺の目的はただ一つ、独裁官カエサルを討つことだ」

「ほう。内輪揉めか。それが我々と何の関係がある?」

「貴殿らの目的も同じはずだ。カエサルがいる限り、共和国の侵略は終わらない。彼は、貴殿ら荒野の民を、根絶やしにすべき蛮族としか見ていない」


 ルキウスは、淡々と、しかし力強く続けた。


「敵の敵は味方、という言葉がある。俺は、貴殿らとカエサルを討つための『同盟』を結びに来た」


 その言葉に、天幕の中は嘲笑に包まれた。


「笑わせるな! 散々我らを殺しておいて、今更助けを乞いに来たか!」


 猪の大男――石猪族の長ボルグが、立ち上がって吼えた。


「これは罠だ! こいつら共和国の犬どもは、一度我らを利用すれば、必ずまた裏切るぞ!」


 ボルグの言葉は、もっともだった。俺自身も、そう思う。

 だが、ルキウスは冷静だった。


「その通りだ。だから、これは信頼に基づく同盟ではない。利害の一致による、一時的な『契約』だ」


 ゼファルは、黙ってルキウスの話を聞いていた。その鋭い目が、俺の姿を捉える。


「……して、そこの小僧は何者だ? 砦で我が軍を蹂躙したという、『巨人』か? 貴様も、カエサルを討ちたいと?」


 それまで黙っていた俺は、一歩前に出た。

 そして、近くにあった鉄製の燭台を、いとも簡単に握り潰してみせた。


 ぐにゃり、と嫌な音を立てて歪む鉄塊に、部族長たちが息をのむ。


「俺の目的は、俺をこんな体に作り変えた男と、その元凶である魔法を消し去ることだけだ。その男の名は、カエサル」


 俺は、ゼファルの目をまっすぐに見つめた。


「カエサルが死ねば、俺があんたたちと争う理由はない」


 俺の言葉には、嘘も、駆け引きもなかった。

 その純粋な破壊の意志が、彼らに何かを感じさせたのかもしれない。


 ゼファルは、長い沈黙の後、ゆっくりと立ち上がった。

 そして、猛り立つボルグを手で制した。


「……面白い。共和国の将軍が国を裏切り、異世界から来た怪物が独裁者に復讐を誓うか。筋書きとしては悪くない」


 彼は、ルキウスの前に進み出た。


「よかろう、ルキウス・アクィラ。その契約、飲もう」

「総帥!」


 ボルグが驚きの声を上げる。


「勘違いするな、ボルグ。俺はこいつらを信じたわけではない」


 ゼファルは、ルキウスを睨みつけたまま言った。


「だが、カエサルという共通の敵がいるのは事実。ならば、利用できるものは何でも利用するまでだ」

「……感謝する」


 ルキウスが、短く答えた。


「これは覚えておけ、共和国の鷲よ」


 ゼファルは、その大きな手を差し出した。


「カエサルの首が落ちたその日、我らは再び、殺し合う敵同士となる」


 ルキウスは、その手を力強く握り返した。


「無論だ。それまでは、最高の友となろう」


 こうして、共和国の反逆者と、荒野の民との間に、奇妙で、危険な秘密同盟が結ばれた。

 独裁官カエサルを討つ、というただ一点においてのみ。


第十四章 了

第十四章、お読みいただきありがとうございました。

敵か味方か、ギリギリの交渉でした。

誇り高く、そして理知的な総帥ゼファルの登場で、物語の勢力図は大きく変わりましたね。

「カエサルの首が落ちる日まで」という、危険な蜜月関係。

反逆の準備は、ついに整いました。

影に潜むルキウスの軍団。

荒野に牙を研ぐガルディアンの軍勢。

そして、全てを破壊する力を持つシンタロウ。

役者は、揃いました。

次回から、ついに独裁官カエサルを討つための、具体的な作戦が始動します。

まずは、カエサルを欺くための、壮大な偽装工作から……。

物語は、クーデター編へ!

この先の展開にご期待いただけましたら、ブックマークやページ下の☆での評価で応援をよろしくお願いいたします!

それでは、また次回の更新でお会いしましょう。


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