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第十二章:影の軍団

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ルナの決死の覚悟により、処刑を免れたルキウス。

しかし、彼は軍も、切り札も、国からの信頼も、その全てを失いました。

敗軍の将として、歴史の闇に消えていくのか。

……この物語のもう一人の主人公は、そんな凡庸な男ではありません。

牙を抜き、爪を隠し、死んだふりをする。全ては、確実に敵の喉笛を噛み切るため。

冷徹な将軍の、壮大な逆襲劇がここから始まります。

第十二章『影の軍団』、お楽しみください。

 鉄槌の砦から脱出して、三日が経っていた。


 俺、ルキウス・アクィラは、わずか十数名の部下と、奴隷の少女ルナと共に、共和国とガルディアンの緩衝地帯にある深い森の洞窟に潜んでいた。


 兵士たちの士気は、地に落ちていた。

 我々は軍を失い、砦を奪われ、そして何より、圧倒的な力で戦況を覆した賢者シンタロウをも失った。


 報告によれば、首都では俺の軍団は「名誉ある全滅」を遂げたことになっており、俺自身は「MIA(戦闘中行方不明)」として処理されているらしい。

 もはや我々は、国に見捨てられた亡霊でしかなかった。


「将軍、これから我々はどうすれば……」


 腹心の百人隊長ガイウスが、憔悴しきった顔で尋ねてくる。その問いに、他の兵士たちも不安げな視線を俺に向けた。

 俺は、地面に描いた雑な地図を眺めながら、静かに口を開いた。


「敗北は、屈辱か?」

「……はっ。方面軍一つを壊滅させたのです。これ以上の屈辱は……」

「違うな」


 俺は、ガイウスの言葉を遮った。


「敗北は、最大の好機だ」


 洞窟の中の誰もが、俺の言葉の意味を理解できずに息をのむ。

 俺は、顔を上げた。その目には、絶望ではなく、凍てつくような闘志が宿っていた。


「考えてみろ。独裁官カエサルが最も恐れるものは何だ? それは、彼の支配を脅かす『力』だ。特に、元老院や民衆に人気のある将軍の力だ」


 俺は、かつて自分が率いていた自分の軍団を指した。


「彼は、俺の軍団が大きくなりすぎることを、常に警戒していた。だが、その軍団はもうない。全滅したことになっている」


 俺は、立ち上がった。


「カエサルにとって、俺はもはや脅威ではない。『鉄槌の砦』で無様に敗れ、行方知れずとなった愚かな将軍。歴史の教科書に一行だけ載る、ただの敗将だ。彼は安心し、俺のことなどすぐに忘れるだろう」

「では、我々は……このまま歴史の影に消えろと……?」

「その通りだ」


 俺は、兵士たち一人一人の顔を見渡した。


「貴様たちは、三日前に死んだ。共和国の兵士としての貴様たちは、鉄槌の砦で名誉の戦死を遂げたのだ。祖国も、家族も、貴様たちの死を悼むだろう」


 兵士たちの顔が、絶望に歪む。だが、俺は続けた。その声に、熱を込めて。


「だが、今日、この瞬間、貴様たちは生まれ変わる。もはや共和国の兵士ではない。国を蝕む癌を内側から切り裂き、真の共和国を取り戻すための、名もなき『影』となるのだ!」


 俺の言葉に、兵士たちの目に、失われていた光が戻り始める。


「我々は、歴史の影に潜む。光の当たる場所では、決して戦わない。だが、水面下で力を蓄え、同志を集め、カエサルの心臓が完全に無防備になったその瞬間、闇の中から刃を突き立てる」


「我々の名は、『影の軍団シャドウ・レギオン』。目的はただ一つ、独裁官カエサルの暗殺と、腐敗した元老院の打倒だ」


 俺の宣言に、洞窟の中は完全な静寂に包まれた。

 それは、あまりにも壮大で、あまりにも無謀な反逆の計画。


 だが、兵士たちの目には、もはや絶望の色はなかった。そこにあったのは、死の淵から蘇った者だけが持つ、狂信的なまでの覚悟の光だった。


 ガイウスが、ゆっくりと片膝をついた。


「……我が命、我が剣、影に捧げます。我が主、ルキウス・アクィラよ」


 それを皮切りに、残りの兵士たちも、次々と俺の前に膝をついた。

 わずか十数名。だが、その結束は、かつて俺が率いたどの軍団よりも強固だった。


 俺は、最後にルナへと向き直った。

 彼女は、この狂気じみた計画を、ただ静かに聞いていた。


「ルナ」

「はい」

「貴様は、もはや奴隷ではない。この『影の軍団』の、最も重要な一員だ」


 俺は、彼女の聡明さと、あの死地へ単身で乗り込んできた決断力を、誰よりも高く評価していた。


「貴様の顔は、まだ誰にも知られていない。その利点を最大限に生かせ。貴様には、我々の目となり、耳となり、時には密使として動いてもらう。危険な役目だ。だが、貴様にしかできん」


 ルナは、怯むことなく、俺の目をまっすぐに見返した。

 その瞳には、かつての奴隷少女の面影はなかった。


「承知いたしました。全ては、シンタロウ様を取り戻すために」


 彼女の答えは、ブレていなかった。その一途な想いが、この無謀な計画の、揺るぎない芯となるだろう。


「うむ。まずは散り散りになった味方を集め、戦力を再編する」


 俺は、洞窟の外に広がる闇を見つめた。


「そして、必ず見つけ出すぞ。我々が勝利するための、最後の切り札を」


 ――シンタロウ。

 俺たちの、長くて暗い戦いが、今、始まった。


第十二章 了

第十二章、お読みいただきありがとうございました。

敗北を好機と捉え、歴史の裏側から国を盗る。

ルキウスの本当の戦いが始まりました。そして、彼の下でルナもまた、新たな役割を得て、さらに成長していくことになります。

さて、こうしてルキウスたちが反逆の狼煙を上げる準備を始めた裏で、我らが主人公シンタロウはどうしているのでしょうか。

アキラの元で世界の真実を知った彼は、自らの「目的」を見出しました。

別々の場所で、同じ「打倒カエサル」という目的を共有した二つのグループ。

彼らの道が再び交わる時は、もうすぐです。

物語の歯車が、大きく噛み合い始めます。

この先の展開にご期待いただけましたら、ブックマークやページ下の☆での評価で応援をよろしくお願いいたします!

それでは、また次回の更新でお会いしましょう。


こちらの作品は『異世界に召喚された俺は「壊れた人形」と蔑まれた偽物の賢者らしい。~疲労を知らない肉体と規格外の怪力で、腐った国家の道具にされた僕は、やがて自らの存在を賭けて反逆の剣を振るう~』のダイジェスト版です、内容も微妙に違います、もしご興味が湧きましたら


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