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第十一章:奴隷少女の決意

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

前回のあとがきで予告した通り、今回は視点を変えて、シンタロウが不在の世界を描きます。

主人公は、一人残された奴隷の少女ルナ。

主人を失い、絶望の淵に立たされた彼女が、初めて自らの意志で運命に抗います。

ただ守られるだけだった少女の、小さな、しかし偉大な一歩。

第十一章『奴隷少女の決意』、お楽しみください。


 鉄槌の砦が陥落してから、三日が過ぎていた。


 共和国の敗残兵たちが、統制も失ったまま西へと敗走を続ける中、ルナは一人、絶望の淵にいた。

 彼女は後方の補給部隊にいたため、直接的な戦闘には巻き込まれなかった。だが、砦が落ち、シンタロウが謎の女に連れ去られ、ルキウス将軍が捕虜になったという報せは、彼女の世界からすべての光を奪い去った。


 シンタロウ様は、どこへ……?

 将軍様は、どうなってしまうのだろう……?


 彼女は奴隷だった。主を失った奴隷は、存在価値を失う。

 このまま敗残兵と共に首都へ戻ったところで、彼女を待っているのは、また別の主の元へ送られるだけの未来だ。


(シンタロウ様がいない世界に、意味なんてない……)


 馬車に揺られながら、彼女はただ虚空を見つめていた。その瞳から、生気は消え失せていた。


 その夜、野営地で眠れずにいたルナの耳に、兵士たちのひそひそ話が聞こえてきた。


「聞いたか? 捕虜になったルキウス将軍、三日後に砦の前で公開処刑にされるらしいぜ」

「ガルディアンの奴ら、将軍の首を見せしめにして、共和国の士気を完全にへし折る気なんだ」

「なんてこった……もう終わりだ、この国も……」


 兵士たちの絶望的な言葉。だが、それを聞いた瞬間、ルナの心に、消えかけていた熾火のような何かが灯った。


(処刑……? 将軍様が?)


 もし、ルキウス将軍が死んでしまったら?

 シンタロウ様がこの世界に戻ってきた時、彼を導き、支える人間が誰もいなくなってしまう。


 シンタロウ様が、あの冷たい将軍に時折見せていた、仲間としての信頼の眼差し。

 将軍が、シンタロウ様の力を認め、道具としてだけではない何かを感じていた瞬間。

 短い間だったが、三人で過ごした記憶が、ルナの脳裏を駆け巡る。


(ダメだ……死なせるわけには、いかない)


 シンタロウ様を失うわけにはいかない。

 そのためには、ルキウス将軍の力が必要だ。

 ならば、私が助けなければ。


 それは、奴隷としてではなく、一人の人間としての、彼女の生まれて初めての「決断」だった。


 その夜、ルナは誰にも告げず、野営地から姿を消した。

 彼女が向かう先は、東。敵が占領する、鉄槌の砦だった。


 月明かりだけが頼りの夜道。彼女は、二代目賢者シュウが遺した書物で学んだ理術を、初めて実戦で使った。

 周囲の光を屈折させ、自らの姿をぼやかす光学迷彩の術。

 まだ不完全で、長時間使うことも、激しく動くこともできない。だが、闇に紛れて敵の斥候の目を欺くには、それで十分だった。


 二日後、ルナは再び鉄槌の砦へとたどり着いた。

 そこは、ガルディアンの旗が物々しく掲げられた、完全な敵地と化していた。


 彼女は、昼間は瓦礫の影に潜み、夜になると活動を開始した。

 持ち前の聡明さで、衛兵の交代時間や巡回ルートを完璧に記憶していく。

 ルキウス将軍が、砦の地下牢に捕らえられているという情報を掴むのに、そう時間はかからなかった。


 決行は、処刑前夜。

 ルナは、覚えたての理術を駆使して、砦の内部へと潜入した。


 地下牢へ続く道。看守は二人。彼女は、近くにあった小石に理術をかけ、少し離れた通路の奥へと投げつけた。


 **カラン**、と響いた音に、看守たちが警戒してそちらへ向かう。

 その一瞬の隙に、ルナは牢の前へと駆け寄った。


 鉄格子の向こう側には、傷だらけで壁にもたれかかるルキウスの姿があった。


「……将軍」

「……!?」


 小さな声に、ルキウスが驚愕の表情で顔を上げた。

 そこに立っていたのは、いるはずのない、奴隷の少女だった。


「貴様……なぜ、ここにいる……」

「お助けしに参りました」


 ルナは、隠し持っていた針金で、震える手つきで錠前をいじり始める。これも、書物で読んだ知識だった。


「馬鹿なことを。一人で何ができる。これは罠だ、すぐに逃げろ」

「いいえ。シンタロウ様を、失うわけにはいきません。そのためには、将軍、あなたが必要です」


 その言葉に、ルキウスは目を見開いた。

 自分のためではない。あの『壊れた人形』のため。ただそれだけのために、この少女は死地に飛び込んできたというのか。


 **カチリ**、と小さな音を立てて、錠前が開いた。


「……面白い女だ、貴様は」


 ルキウスは、初めて少女の名を呼んだ。


「ルナ、と言ったか。貴様のその決意、確かに受け取った」


 二人が牢から出た、まさにその時。

 背後から、ガルディアンの兵士の声が響いた。


「そこだ! 曲者だ!」


 もはや、これまでか。ルナが覚悟を決めた瞬間、通路の暗がりから数人の男たちが飛び出し、ガルディアン兵を音もなく無力化した。

 それは、砦の中で潜伏し、機会をうかがっていたルキウスの部下たちだった。


「将軍、ご無事で!」

「うむ。この少女に救われた」


 ルキウスは、部下の一人から剣を受け取ると、ルナに向き直った。


「行くぞ。ここからが、我々の本当の戦いだ」


 その夜、ルキウス・アクィラは、わずか数名の部下と一人の奴隷の少女に導かれ、鉄槌の砦からの脱出に成功した。

 それは、後に共和国の歴史を大きく揺るがす、小さな反逆の狼煙だった。


第十一章 了

第十一章、お読みいただきありがとうございました。

今回はルナの章でした。

ただの奴隷少女だった彼女が、知恵と勇気を振り絞り、絶望的な状況を覆しました。

彼女もまた、この物語の紛れもない主人公の一人です。

さて、ルナの決死の覚悟によって、ルキウスは処刑の運命を免れました。

しかし、彼の状況は絶望的です。

軍を失い、切り札であった賢者も失い、今や彼は共和国から見捨てられた敗軍の将。

全てを失った冷徹な将軍は、ここから何を描くのか。

彼の壮大な「反逆」の計画が、ここから始動します。

物語の裏側が動き出します。面白い!と思っていただけましたら、ぜひブックマークやページ下の☆での評価で応援をよろしくお願いいたします!

それでは、また次回の更新でお会いしましょう。


こちらの作品は『異世界に召喚された俺は「壊れた人形」と蔑まれた偽物の賢者らしい。~疲労を知らない肉体と規格外の怪力で、腐った国家の道具にされた僕は、やがて自らの存在を賭けて反逆の剣を振るう~』のダイジェスト版です、内容も微妙に違います、もしご興味が湧きましたら


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今後とも応援のほど、よろしくお願いいたします

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