格が違うのだ
何でも読める方向け。あっさりしています。
シルヴィア王女は王宮の荘厳な大広間で跪きながら祈りを捧げる。身につけているのは豪華絢爛な美しいドレスではなく、白地に金の糸で刺繍が施された祈祷服とよばれる礼装だ。
豪華絢爛な大広間の天井には天窓がついており、真上に輝く太陽の光が柱となって王女へと降り注ぐ。膝を折る彼女の姿は彼女自体の美しさも相まって長年教会で修行を務めた聖女のようだ。
聖女と見紛う彼女の後ろには鎧を着た凛々しい青年やローブを身に纏う魔導士が数十名、同じように祈りを捧げていた。
彼らの眼前にはこのヴァルツァ王国の歴史をモチーフにした美しいステンドグラス、床には聖なる魔力に満たされた白い魔法陣が眩いほどの光を放っている。魔法陣の上、天井付近には、膨大な魔力が込められた聖水晶と呼ばれる菱形の巨大な水晶が浮かび、鮮やかな色彩に溢れた大広間は息を呑むほど美しい。
「どうぞ、おいでください! 我らを救う勇者よ!」
シルヴィアの透き通るような声が大広間に響くと水晶が光を放ち始める。その光は徐々に強さを増し、部屋中を白く染めると一瞬で光を失った。
「えっと……ここはどこ?」
水晶が光を失ったと同時に魔法陣から現れたのは黒髪に低めの鼻、この国ではあまり見慣れない顔をした青年だ。いや、幼い顔つきに見えるのでまだ少年かもしれない。
本に書かれていた通りだ、とシルヴィアは目の前の少年を見て内心ほくそ笑んでいた。しかしシルヴィアはその薄暗い感情を表には一切出さない。繊細で美しい、そして何より守りたいと人に思わせる儚げな容貌は仄暗い欲望をすべて覆い隠してくれる。
聖女と見紛うのは姿だけ、シルヴィアの本性は決して清らかなものではなかった。
「勇者様、お待ちしておりました」
待っていた。シルヴィアはようやく欲していたものを手に入れることができた。
彼こそがこの王国をより強大なものにするための勇者、そしてシルヴィアが望んだ道具である。
シルヴィアは混乱している少年に膝を折り、美しいカーテシーを披露する。そして頭を下げたまま、目の前の少年に粛々と訪問の礼を述べるが、少年はポカンとしたままシルヴィアを見ている。
シルヴィアはヴァルツァ王国のたった一人の王女であり、その類稀な美貌から国の宝とまで言われていた。見惚れられるのには慣れっこだ。
シルヴィアはまず少年の心象を良くするために急に呼び出してしまったことを深く謝罪した。
しかし彼は元の世界に対しあまり執着がなかったのか、激昂することも悲しむこともない。もしかしたらまだ現実味がないのだろうか。ならば今のうちに勢いで丸め込んだ方が良いだろうとシルヴィアは優しく少年に語りかけた。
「是非貴方様のスキルをお見せてください。この水晶に手をかざせばすぐにわかります」
シルヴィアが従者から渡された水晶玉を押し付けるように差し出すと、少年はおずおずと水晶玉に手をかざす。眩い光を放つ水晶玉に表示されたスキル名は『勇者』だけではなく『賢者』や『極めし者』という最上級スキルが連なっていた。
「すごい! 神から3つもスキルを授かっていますよ!」
「えーと……それってすごいことなの?」
「もちろんです! この世界では1つもスキルを貰えない者だっているくらいですから……」
この国では6歳になると教会を訪れ、神からスキルを貰うことができる。
スキルを一つ貰えれば普通、そのスキルが国に有用なものであれば優秀、逆にスキルを貰えないものは不能者と呼ばれて差別されている。
この国にやってきた少年、マモルと名乗る少年は『勇者』という万能スキルの他、『賢者』『極めし者』というスキルをさらに2つも持っている。シルヴィアも2つのスキル持ちでかなり優秀だが、それを上回るスキル数だ。
さすが【最上級の魔力】を使って呼び出した異世界人。先ほどまでこの地下に隠していた魔導士達を消費した甲斐があったというものだ。大量の魔導士達を失ったのは痛い出費だが、大体が平民で実績のない学生達だ。見目もよく優秀な貴族出身のもの達はシルヴィアの後ろで祈りを捧げており、フラついている程度だからすぐに回復するだろう。シルヴィアはこの結果に非常に満足していた。
マモルもこの結果に満足しているのだろう。にやけそうな口元を隠すように掌で覆ってはいるが、元から細い目がさらに細くなっているのがわかる。マモルの話では召喚される前にいた世界は『つまらない世界』だったらしいので、力を与えられた少年が輝かしい未来を夢想しているのだろうとシルヴィアには容易に想像ができた。
「シルヴィアさん……様? が俺を呼んだの?」
「……はい。マモル様、この国は魔国に脅かされているのです。どうか救って頂けないでしょうか?」
マモルはスキルこそ素晴らしいが、容姿も礼儀も及第点には程遠いことにシルヴィアは若干失望した。しかし他国どころか他の世界の人間で、家名もないのだからこのようなものなのだろうとすぐに思い直す。道具に過度な期待をしてはいけない。使い勝手さえよければいいのだ。
「その、俺はよくわからないんだけど、話し合いでは解決できないの?」
「……あの国は我が国を見下しているのです。平和条約の締結を提案したのですが、我が国に不利な条件ばかり押し付けられてしまい、しまいには不意打ちのように開戦して……私の父である前国王も彼らの呪いにより儚くなってしまいました」
「酷い……」
シルヴィアは今までの経緯をわざと自国が一方的に傷つけられたようにマモルに語った。シルヴィアは昔から自分のミスを人のせいにするのが得意だ。
本当は開戦も、魔国との国境にある小さな村を滅ぼし、細工をして魔国の侵略に見せかけただけである。しかしこの国ではそれが真実となっているので、マモルがシルヴィア以外に問いかけたところで皆同じことを言うだろう。
父親に至ってはただの病死であったが、シルヴィアが「まさか……」と神妙に呪いの話をすれば、医者は自分の力が及ばなかったことを認めるのを嫌がってこれ幸いにと大々的に呪いであったと触れ回ってくれた。
そんな事実など知らないマモルはシルヴィアの切々とした訴えに同情的である。なんとも甘っちょろい子供だ。このままなら全てシルヴィアの思い通りに事が進むに違いない。
シルヴィアは非常に使いやすい道具ができたと、優しく微笑みながらも心の中ではマモルを嘲笑していた。
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「こんなにすぐ魔国が攻め落とされるなんて……」
魔国は召喚から一ヶ月もせずにマモルによって滅ぼされた。魔国は白旗をあげる隙すらなかっただろう。
マモルが全てを燃やし尽くした地には魔人も魔物も山のような死体となって残る。病気が蔓延されては困ると、必要なものを奪った後は火を放ったため、森も町も全てが焼け焦げてしまった。
復興にはかなり時間がかかるが、海に面した広大な土地はすべてヴァルツァ王国のものとなった。交易の中心となり、ヴァルツァ王国はますます発展していくことだろう。
「まだまだ戦争の傷跡が癒えぬとはいえ、今宵だけは皆で勝利を祝しましょう。乾杯!」
それから数日も経たぬ内に、ヴァルツァ王国では終戦を記念した祝賀パーティーが開かれた。
貴族達は美しい聖水晶にグラスを掲げながら美酒を堪能し、この国にいる平民達も自分達にできる規模で祭を行い、勝利に酔いしれている。
「マモル様は歴代最高の勇者様です」
「俺はこう見えて元の世界でもかなり強かったからね」
「まぁ! 異世界でも素晴らしい活躍を見せていらっしゃったのですね」
「そうだね。国でも三本の指に入るかな?」
「すごいです!」
「あはは」
シルヴィアはマモルの言葉に大袈裟に驚いて見せる。しかし心の中では国でも三本の指だなんて、よくも言えたものだと鼻で笑っていた。
シルヴィアはマモルがこの世界に訪れてすぐに争いのないつまらない世界にいたことを聞いていた。
加えて戦いぶりを人伝に報告させていたが、力任せにねじ伏せるような、いかにも戦い慣れていない者の戦闘であったと報告があがっている。おそらく今回の戦いがうまくいったことで調子づいたに違いない。
少年というものは謎の自信に満ち溢れているものだから、大袈裟に言って自尊心を満たしているのだろう。シルヴィアの婚約者になろうとする貴族の青年達も似たようなことを言っていたが、後々調べさせると彼らは皆大口を叩く割に大したことはしていなかった。
「マモル様、それであの……もしよろしければ、この国に残り、私と……結婚してくださいませんか? 私、マモル様と離れたくないのです。見返りを求めずに私と国を守ってくださる貴方様を愛してしまったのです」
簡単に操れて膨大な力を持つ勇者。
顔はのっぺりと凹凸がなく感じられて少し難が有るが、子供がスキルを受け継げばお釣りがくる。優秀な子供が何人か生まれればマモルを処分し、次の伴侶を持つことで自分への慰めとすることもできるだろう。
今まで召喚者が国に残った歴史は見当たらなかったが、シルヴィアにはマモルを籠絡する自信があった。己の美貌も異性の好む仕草も十分に理解しているシルヴィアは今まで異性を掌で転がすことなど造作もなかったからだ。
シルヴィアは頬を染め、言葉を詰まらせながらいじらしさを表現して愛を告げる。しかしマモルは「ごめん」と小さく頭を振り、シルヴィアの思惑を打ち砕いた。
「……マモル様はどうしてもお戻りになりたいのですか?」
一緒にいたい、離れたくない。そうシルヴィアが何度懇願してもマモルは元の世界に帰るという気持ちを曲げる様子がない。自分がこれほど頼んでいるのに、スキル以外は低レベルの男のくせに、とシルヴィアは腹立たしい気持ちになるが、それをおくびにも出さず目を潤ませてマモルを見つめ続けた。
しかしシルヴィアが何度も引き下がるとマモルは頬を染めるどころか、途中から面倒くさそうに溜息をつき始める。異性にぞんざいな態度をとられたことがないシルヴィアは一瞬思考が止まってしまうほど動揺してしまった。
「……無理なものは無理。もうノルマも終わったし、帰らないとルール違反になるんだよ」
「ノルマ? ルール違反……?」
「そう。あ、じゃあ最後はシルヴィアさんから貰おうかな。おまけとして10万ポイント欲しかったところなんだ。俺のことが好きなら許してくれるよね?」
そう言って笑うマモルの表情は冷たい。目が笑っていないからだ、とシルヴィアが気づいた瞬間ぐらりとシルヴィアの視界が揺れた。
「え? っぐ、ゥウウウッ!?」
マモルの掌がシルヴィアの顔前に翳され、内臓を掴まれたような不快感にシルヴィアは低い声で唸る。立っていられないほどの気分の悪さに、シルヴィアは膝をついて胸を抑えた。それでも苦しみは少しも和らいでくれない。
「マモル様何を!?」
「シルヴィア様!!!!」
苦しむシルヴィアの様子に気付いた兵士達が慌てたようにマモルとシルヴィアを取り囲む。招待された貴族達も誰かは何事かと耳を澄ませ、また誰かは怯えるように肩を寄せ合って兵士の向こうから二人の様子を眺めていた。
「『聖女の素養』か~。成長していないせいで1000ポイントだから要らないな。あぁでも『美貌』のレベル8は汎用性が高いから40000ポイント、『常時魅了』でレベルが10かこれはいいね。よく極めてるし、使い勝手がいい、30000ポイント。『カリスマ』も高めだからこれも貰うね。こちらも30000ポイントで計10万ポイントだ」
「な、なに……何なの!?」
シルヴィアは急に体から力が抜け、同時に体がやけに重くなったような、さらに肌が乾くような違和感を覚える。まわりからはヒィと小さな悲鳴がいくつもあがっているようだったが、シルヴィアは視線をマモルから動かすことができない。
マモルは見たこともないほど顔を歪めて笑っている。少年の顔に、悪魔が面白がっている顔をはりつけたらこうなる、そう思わせるような悍ましい顔だ。
「私に何をしたのッッ!?」
「願いには対価がいるものなんだよお姫様。見返りなく……なんて甘いわけないだろ?」
「たい、対価……? だって魔力を……沢山の魔力を集めて呼んだのに……」
「君達、通信費と依頼料同じだと思ってたの? アホだねぇ。君達の魔力は願いごとを書いた手紙の切手代でしかなかったんだよ。依頼料は別に決まっているだろ」
呆れるような、馬鹿にするような目で見られたシルヴィアはカッと頭に血が上ったが、マモルの真っ黒な瞳が少しも光を宿していないことに気付き、出そうと思った声を飲み込んでしまう。
そばで見ていた限り普通の少年のように見えていた。しかしシルヴィアの眼前に佇むマモルは操りやすい愚かな子供には到底見えない。
マモルはわずかに泡のたつ発泡酒のグラスを退屈そうに眺めていた。その平然とした姿に底しれぬ不気味さを感じてシルヴィアの不安が掻き立てられる。
「じ、じゃあ魔国を滅ぼした対価は……?」
「君達の持つスキルをうちの国のポイントに変えて貰ったよ? いや~、君達面白いよね。元から持っていた潜在スキルと後から貰う付与スキルの区別もついていない上に、魔物と自分達の持っているスキルを一緒にするな! って怒ってたでしょ? スキルはスキルなの。一緒だから」
初耳だ。シルヴィアは信じられないと目を見開いた。来たばかりの何も知らない異世界人の言葉など取るに足りない、信憑性のないものだと思いつつも、なぜかそれが真実であるように思えてならない。
常識をひっくり返されたことに、シルヴィアだけではなく、まわりにいた貴族や兵士達もざわついている。
そういえば……と何人かが思いついたように喋り出す。
スキルがない不能者でもスキル持ちに勝つことはありえることだった。時たまスキル無しとは思えない強者や知恵者がいることもあったが、彼らはそれでも不能者のレッテルを張られ、虐げられていた。
「スキルを貰えない人間がいるって当たり前だよ。潜在スキルで生体スキルスロットが埋まっているんだから。スキル数でいえば10個持っていた子もいたし、中には良い潜在スキルの子達もいたのに、それに気付かずに不能者だとか神に愛されてない者だって迫害して殺してんだもん。笑っちゃった」
馬鹿だよなぁとマモルの真っ黒な瞳が貴族達を一瞥する。虫けらをみるような冷たい目に、近くにいた貴族達はマモルから遠ざかりたいと皆後退りをし始めた。
「そんな、そんなわけないッ! あなたは平和な世界の子どもでしょ!? そんなことがわかるはずがない!!」
シルヴィアは頭をふって今のマモルを否定しようとする。シルヴィアも自身が気づかないほど必死に今のマモルがただの強がりを言っているだけなのだと決めつけようとした。シルヴィアはレースをあしらった手袋越しに自らの喉を抑える。やけに喉が引きつり、叫ぶような大声を出したからか息切れが酷い。
「平和な世界なんていったっけ? 俺のつまらない世界って言ったと思うけど……。わざわざ俺と戦おうなんて物好きがいないから、何もない毎日でつまらなくて。あぁ、そういう意味では平和かな?」
「そんなわけ、そんなわけないわ。強がりでしょ? あなたの戦いっぷりを見て、戦い慣れていないって報告があがっていたのよ」
「え!? そうなの……? 戦いに関しては俺も最初は手こずっちゃったもんなぁ。なんせ人間って脆いだろ? スキルを貰うには完全に殺すわけにはいかないんだけど、力加減が難しい。虫にどれくらい力をかければ殺さずに叩きのめせるかって判断するの難しいんだよね」
マモルは失敗を少し恥ずかしがるように苦い顔で笑っていたが、その仕草はやけに大人びていた。
ずっと侮っていた少年が自分たちのような人間ではない、少なくとも見た目通りの存在ではないと気付くと尋常じゃない冷や汗が背中に流れ、シルヴィアの体温を下げる。
マモルは人間などではないに違いない。悍ましい何かなのだ。
「あく、悪魔だわ……! あんたなんか勇者じゃない!!」
「いや、今までの勇者も俺と同じ国から来ているはずだよ。同じ『勇者』スキルを持ってたでしょ? でもまぁ俺とそいつらとじゃ格が違う。近場の奴らなら安く依頼できるし、必要ポイントが戦争で奪ったスキルで間に合ったのかもしれないけど。今回は大量の魔力で遠方にいる俺を呼んだでしょ? 随分と久しぶりに呼ばれて吃驚したよ。さっき、魔力を集めたって言ってたけど俺を呼ぶだけで何十人と死んだんじゃない?」
マモルの言う通り、異世界人を呼ぶために集めた魔導士は学生から老人まで沢山いたが生き残りはいない。皆が魔力枯渇で死んでしまった。そしてシルヴィアの願った通り最上級の者がきた。呼んでしまったのだ。シルヴィアが。
恐ろしいほどの寒気がシルヴィアを襲う。どうにかしなければ、自分は何をされたのか、シルヴィアはハッと何に気付いたように目を見開いて立ち上がり、大声を張り上げる。
「私のスキルを返せ!!! どうしても必要なら! ほら!! 他の奴らから取りなさい!!」
シルヴィアは兵士や他の貴族達を指さして喚く。皆シルヴィアを悍ましいものを見る目で見ているのに、本人は気付いていない。いや、勘づいてはいるけれどあまりにも酷な現実に気付かないふりをするしかないのだ。
「え~? もう国に送っちゃったから無理なんだけど」
「うそ!!! うそよ!!!!!!!!」
「スキルってさ、全部なくなると死ぬんだよ。知ってた? そう考えると戦争って最高だよね。死体隠さなくていいし」
マモルが戦った場所には多くの死体の山があった。その中には奮闘したと思われたこの国の兵士達の死体も存在している。よもやまさか……とその場にいた者達の頭に嫌な考えが浮かんだ。想像のはずなのに、それがまるで事実であるように思えた。
「大丈夫。あんたには聖女の素養っていうスキルが残っているから死ぬことはないし、改心して修行に努めれば聖女にレベルアップするかもしれないよ? ……それじゃあね。ゆめゆめ忘れるな、愚かな者どもよ。俺達に望むことがあるなら対価がいる。都合よく操れると思うな。そもそも俺達とお前らでは格が違う」
そう言って笑うとマモルの足元が光り、召喚した時の魔法陣が現れる。魔法陣は光の柱となり、マモルは光の中に消えていった。残されたのは光が消え、黒ずんだ魔法陣だけ。シンと静まったホールの奥、廊下から悲鳴や騒がしい声が聞こえる。呼ぶ時にあれだけ魔導士が死んだのだ。では帰る時は?
「マモルゥウウウウウウウ!!!! 早く!!!! 早く連れ戻しなさい!!!!!!!!」
魔法陣の端では灰色の髪の王女だったものが狂ったように騒いでいる。
その様子を見た者達には、もはや命を取らなかったのが恩情ではなく、マモルが王女に与えた罰のようにさえ思えた。
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ヴァルツァ王国はたったの一ヶ月で魔国を攻め落とし大いに発展したものの、それから数十年後には生き残った優秀な頭脳と力を持つ魔国の生き残り達により滅ぼされたとされる。
度々起こった戦争で沢山の資料が消える中、まるで何かに守られたかのように残った本があった。
禁書と呼ばれるその本の最初の一ページには震える文字でこう記されている。
異世界召喚を行えば多大な犠牲を伴うだろう。
我らが呼び出だしたのは魔力を捧げることでこの地に訪れて頂く、神そのものなのだから。