第十七話
8年が経った世界。
僕が知っている面影も少しは残しつつ、だけどそこはもう僕の知らない世界だった。
病院は今でもあった。
8年も経つと古く感じた。
勿論、公園もあった。
僕が過ごしたベンチも。
8年前のここで里美に出会った。
行く宛もなくただ彷徨った。
僕は元々、この世界に行く所なんて無かったのだと思い知らされた。
「わーい!」
ふと女の子が僕の横を走り抜ける。
「って、おい危ないぞ!」
「・・・え?」
僕はその少女を抱きかかえて制止させた。
その瞬間、少女が向かおうとしてた先に大きなトラックが猛スピードで走り抜けた。
「ったく、危なかったな・・・気をつけろよ」
「ありがとう」
「おぉい、里香ちゃん・・・そんなに急いじゃいけないよ」
少し歳をくった中年ちょっと上ぐらいのじいさんが急ぎ足で来た。
「おぉ、どうしたんだね?」
「あんたのお孫さんか、危うく交通事故だったぞ」
「なんと・・・交通事故・・・それはそれは、ありがとうございました」
少女の頭を軽く撫でてやった。
「良かったな、ほら行きな」
「うん!」
少女はじいさんの元へと駆けていった。
「うん・・・君は・・・?」
「えっ・・・」
「まさか、君は・・・時時くんかい?」
「・・・・・・」
注意深くその人の顔を見る。
その人は一回だけだが見た事がある顔だった。
「まさか・・・里美の親父さん・・・?」
「やはり・・・時時くんか」
僕は里美の父親と再会した。
そのまま僕は・・・恐らくは里美の元の家だったのだろう場所へと案内された。
「8年間・・・君を捜していたんだよ」
「えっ・・・」
「里美がね、君を捜してほしいってお願いしてきたんだ」
「里美が・・・」
里美の父さんは先ほどの少女を見る。
「里美と・・・君の・・・子供だよ、時時くん」
「・・・僕たちの・・・子供?」
「あぁ、里香っていうんだ、もう8歳になるんだよ・・・」
「里香・・・」
僕は里香と呼ばれる少女に近づいていく。
「里香、いつも言っていた時時くんだよ」
「え、時時さん?」
僕は里香を見つめた。
確かに里美の面影がある。
「里香・・・この人はね、里香の・・・」
「いえ、その先は言わないでください」
「しかし、時時くん?」
「里香ちゃん」
「はい!」
「僕とおじいちゃんは話があるんだ、ちょっとお外に出ててくれるかな?」
「わかりました」
里香は行儀良く一礼をしてから外へと遊びに行く。
「時時くん・・・」
「よく・・・躾てあるようで・・・」
「いや、せめてもと思ってな・・・」
「いえ、ありがたいです」
「・・・時時くんは、ワシの事を恨んでいないのかね?」
「いいえ」
「ワシはあの時の二人の幸せを奪ったのだよ」
「貴方は当然の行動をしたまでです、あの時悪かったのは間違いなく僕でした」
「一つ、聞きたいんだが良いかね?」
「どうぞ」
昔の事を思い出すように目を瞑った。
「里美から全て聞いたんだよ、君は時の旅人なんだってな」
「はい」
「里美は外の世界に憧れていた、あの頃のワシはそれを考えずに里美を閉じこめようとしていた・・・だから里美は君に連れ出されて幸せだったんだよ・・・」
「それは・・・」
「いいや、里美は言っていたんだよ、辛い事が色々とあったけど・・・君と過ごしていた日々は全てが幸せで宝物なんだって」
「・・・・・・」
「君はどうだね?」
「えっ?」
「君は・・・あの時、里美と一緒にいて・・・幸せだったと胸を張って言えるかね?」
もうそんな答えは決まっている。
誰よりも望んでいた事なのだから。
「幸せでした」
「そうか・・・幸せだったか・・・」
「はい・・・!」
「あの子を、里香をよろしく頼むよ」
「里香を?」
「里香は間違いなく里美と君の子だ」
里美と僕の子。
それは、長い時間の中で僕が見出した一つの光明だったのかもしれない。
僕は里香の元へと向かった。
終