第十二話
「相原・・・単刀直入に聞く」
僕は彼女に聞く決心をしたのだ。
「さっき聞いちゃったんだ、相原と親父さんの話を」
「・・・・・・」
「時間がない・・・って、どういう事なんだ、もしかしてお前の具合が悪いのと関係がっ」
「・・・引っ越しなんです」
「・・・は?」
「実はパパが引っ越ししたいっていうから、それで時間が無いんですよ」
相原は笑顔で切り返した。
「でも私はママとの思い出もあるこの土地を離れたくなかったんです」
「それで、か・・・?」
「はい、パパはどうしてもってきかなくて・・・」
本当にそんな理由なのだろうか。
しかし相原がそういうのならこれ以上聞くのも野暮な話だった。
「だからね、時時さん」
「どうした?」
「時間がないから・・・私のお願いを聞いてくれますか?」
「あぁ、僕が叶えられる範囲の事ならな」
すると相原は病室に置いてあった自転車を指さした。
「私を連れていってください・・・」
「・・・えっ!?」
「私をこの広い世界へ連れて行ってください」
「お前、そんな事できるわけ・・・」
「お願いします・・・」
相原は今まで握っていた手をさらに強く握った。
「わかった・・・」
「時時さん?」
「支度をしろ、僕が相原に旅の世界を見せてやる」
突拍子もない話だった。
相原は世界を見たかった、僕は彼女に世界を見せてやりたかった。
いやそう思わせたのだ。
こんな何の計画性もない行動を、僕らは正しいと思えていたのだろうか。
体が悪い相原も一緒だ。
だからこんな旅はすぐ終わる。
まだ若すぎた二人はそんな先の事まで考えてはいなかった。
この旅が、僕たちの運命を大きく左右したのだと。
相原はめずらしくパジャマではなく私服を着ていた。
めずらしく、というよりは初めて見るかもしれない。
白を基調とした服は清楚なイメージで相原にぴったりだった。
「ごめんなさい、お待たせしました」
1、綺麗だよ・・・
2、可愛い・・・
3、ビューティッ・・・フォォォォォォォォォ!!
「可愛い・・・」
「えっ・・・!」
「いやなんでもない」
それなりに大きなリュックを二つと小さなリュックを一つ持った。
なりゆきの流れとはいえ随分と本格的だ。
と、いうか相原はなんでこれだけの荷物を持っているんだ。
自転車は僕がこぎ、相原は後ろに乗った。
「行き先はどちらまで?」
「二人っきりになれる場所・・・」
「はっ・・・!?」
「時時さんと一緒ならどこでも良い」
「了解!」
まるで、駆け落ち的なノリだな。
病院の看護婦さんにはピクニックへ出かけると言ってある。
実際、僕は旅というよりかはピクニック気分だったのだが。
勢いよくペダルをこぎ、病院を出る。
「気持ちいい・・・」
風が頬に当たる。
スピードが乗ってくるとまるで風になったかのようだ。
と、感じるのは相原だけだろう。
僕は既に足がパンパンだ。
そのまま宛もない旅は続く。
勘を頼りにわからない道を進んでいく。
1時間程走ったところでひとまず休憩にした。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「お疲れ様です」
相原は水筒から冷えた麦茶をくれた。
それを一気に飲み干した。
美味い・・・まさしく至高の一杯といったところか。
「ゴホッ・・・」
「大丈夫か、相原?」
「大丈夫です、少し疲れただけです・・・」
やはり彼女には旅というのは辛いものだっただろう。
事実後ろに乗っているだけとはいえ彼女にとっては相当な労力だ。
「やっぱり戻るか、相原」
「ゴホッ・・・戻りません、戻りたくないです・・・」
「・・・そうか」
何故だか僕はいつか見た光景を見ていた。
それの正体がなんなのかは僕にはわからなかったのだ。
程なく落ちついたところで僕らは再び出発した。
終