第十一話
目が覚めた。
今日も相変わらずの暑さだ。
日差しが朝から照りつけている。
「暑い・・・」
思わずそんな言葉が出てきてしまう。
今日は相原に謝りに行かないとな。
さすがに昨日のはやりすぎたし、どうかしていた。
いきなり触るのは良くなかった。
今度からはちゃんと許可を得ないと。
朝早くから行っても大丈夫かはわからないが、とりあえず行ってみよう。
駄目なら時間をみてもう一度来れば良い話だ。
なによりこんな日差しのところでじっとなんてしてられない。
クーラーの効いた室内に行こう。
僕は相原のいる病院へ歩いていった。
そのまま、病室はわかっていたので相原の病室まで来る。
「・・・!!」
「・・・・・・」
ん、相原の病室からか。
どこかから言い合いをしているような。
その正体は相原の病室からだった。
入るに入れない雰囲気だ。
「里美・・・わかってくれ、パパと一緒に行こう」
「嫌です、私は行きたくない!」
「どうしてわかってくれないんだ、里美・・・もうお前には時間が・・・あっ!」
「・・・・・・、パパ・・・もう出てって」
「いや、しかしな」
「出てってよ!」
そのまま、しばらくの沈黙があった。
普段はおとなしい里美にしてはめずらしく興奮していた。
「わかった・・・里美、でもちゃんと考えておいてくれ」
「・・・・・・」
里美の病室から男が出てきた。
この人が里美の父親だろうか。
とても人の良さそうな人だが・・・。
「ん、なんだね君は、里美に何か用かね?」
「え、いや・・・」
「もう娘には近づかないでくれ!」
男はさっさと歩いていってしまう。
「ゲホッゲホッ・・・!!」
相原の部屋からだ。
普通の咳とは違うと感じた。
僕は急いで相原の部屋へと入った。
「ゲホッ・・・ッ・・・」
「大丈夫か、相原!」
部屋の中に入るとやはりただ事でもなかった。
相原は息ができなさそうに、でもそれに耐えるように体を丸めていた。
僕は彼女の背中をさすった。
僕は軽くパニックになっていてナースコールで呼ぶという事をすっかり忘れていたのだ。
しばらくすると相原の症状は治まっていった。
「時時さん・・・?」
「あぁ、相原、大丈夫か?」
「うん・・・大丈夫・・・」
大丈夫、という彼女の言葉とは裏腹に顔を見ると苦しそうに耐えている。
彼女の体に触れていると我慢しているのがわかる。
息はまだ荒く、苦痛に耐える為か体も小刻みに震えていた。
体が弱い、病弱、とは以前から聞いていたが素人目から見ても何か重い病気なのだとわかってしまう。
それ程、そこにいる相原はいつも会う彼女のそれとは目に見えて弱かった。
「相原、辛いなら俺は今日は戻っておくよ」
「ううん・・・」
相原は僕の手を強く握った。
「ここにいてほしい・・・」
強く握った彼女の手はほのかに暖かかった。
さらに少しばかりの時間が経つと相原は落ち着きを見せた。
「ありがとう、時時さん」
「気にするな」
「時時さんがいなかったら耐えられなかったかも・・・」
「馬鹿、そんな事ないって」
こうやって喋っていると昨日までの相原だ。
しかしさっきの取り乱しようは一体。
そこだけが気にかかっていた。
それに相原は父親と何を喋っていたのだろう。
唯一気になるのは「お前には時間が・・・」という言葉。
「なぁ、相原・・・」
「はい?」
「一つだけ・・・聞いて良いか」
「・・・はい?」
言うべきか。
言わなければ彼女との変わらぬ時を過ごせるはずだ。
もしもこの言葉を言ってしまったら何かが変わってしまう。
僕は迷った。
終